第7話 ソフィアのお墓まいり
お母さんにピクニックに誘われた。
お婆さんのお墓参りに行くらしい。
ユーレア家の代々のお墓は、裏山の
久しぶりだからか、すこしソワソワしてしまう。でも、わたしには日光浴が足りていないので、健康にもいいと思う。
その日は早朝に起き、お母さんと一緒にお弁当を作った。玉子を焼いて、パンに挟んで。リンゴをクロスに包んで。玉子の甘い匂いがして、つまみ食いしたくなるが、がまんがまん。飲みものは温かい紅茶にした。
太陽が登り始め、すっかり明るくなる少し前に出発する。
木立の甘い匂いがたちこめ、チュンチュンという雀の鳴き声が可愛い。
引きこもりのわたしとしては、徹夜じゃない早朝って久しぶりだ。
裏山の麓にあるお墓でお供えものとお祈りをする。
わたしが、早めのお弁当を食べようかとシートを敷く場所を探していると。
お母さんが「さぁ、行こうか」と立ち上がった。
わたしは、どこに? と思って尋ねるが、まぁ、いいからと、お母さんは歩き出した。
そこから細い道をくねくねと山頂の方に登っていく。普段から甘やかされた私の心臓は、急坂でビックリしてしまったらしい。汗がポタポタたれる。
汗はベトつくし、風が吹いたら寒すぎるしで、わたしの自律神経は慌ただしい。
気づけば、すっかり太陽が登りきっているではないか。
明るくなることは嬉しい。でも、暑くなる前に帰りたかった。あまり遅くなると、暗くなって帰り道も心配だし。
ハァハァいっていると、お母さんに笑われた。
「ソフィアは本当に運動不足だね。まだ出発して1時間も経ってないよ? これから月一くらいで登るようにしようか?」
「勘弁して〜。もうすぐ着く?」
「まだ全然。半分も来てないよ」
ちょっとしたお散歩のつもりが、こんな登山になるとは……。
裏山というと可愛らしい呼び名だが、それなりに立派な山なのだ。
あっ、ユーレア家で勝手に裏山って呼んでるだけで、所有物ではないよ。
軽口を叩きながら登り続ける。
わたしは先ほど不思議に思ったことを聞いてみることにした。
「ねぇ、本当にどこにいくの? そろそろ帰りたいんだけれど」
「本当に体力がないね〜〜。こんなのわたしは仕入れで毎日のように歩いてるよ」
まぢか。
お母さん。毎日ありがとう。
わたしを養って、こんなに大きく育ててくれた偉大なお母様に感謝の念を禁じ得ない。
でも、それとこれは別。
「お母さん、お墓参りに行くだけって言ってたじゃん」
「そうだよ。お墓参り。話たことなかったけれど、おばあさんのお墓は山の向こう側にもあるんだよ」
初めて聞く話だ。
お母さんは続ける。
「ユーレアの家では、時々、ネコ耳の子が生まれてね。前にも話したけれど、あんたのおばあちゃんもそうだった。そういう子が生まれると、山の向こうの
そうなんだ、でも。
人知れず祠に連れて行かれるのって、ちょっと怖いぞ。
「あのう……。わたし、何かの
オドオドしているわたしを見て、お母さんは爆笑した。
「そんなわけないでしょ。 あんたもおばあちゃんに会ったことあるでしょ」
そういえばそうだった……。
小さかったからよく覚えていないが、遊んでもらった思い出がある。
少し見晴らしのいい高台を見つけた。
お母さんに懇願して、休憩がてらお昼ごはんの時間にしてもらう。
地面に座ると、崖下から風が通り抜ける。
汗も落ち着いてきて、涼しくて気持ちがいい。
わたしは、おばあさんのことについてお母さんに聞いてみた。なにせ小さかったので、覚えていないのだ。
「おばあちゃんのネコ耳はいつも生えていたの?」
「いつもじゃないよ。時々。でも、あんたよりは多かったね。おばあちゃんも魔法が得意だったんだ」
「へぇ。なんでネコ耳なんだろう」
「ご先祖様の中にね。獣人の国から来たネコ耳族の人がいたんだよ。この国では、今は幾分かマシにはなったけれど、獣人に対しての偏見や差別があるからね。ネコ耳に関する物や資料は、手元にはおかず、祠で保管するようになった、と聞いているよ」
「へぇ、ご先祖様は苦労したんだね。おばあちゃんそんな特異体質でよく結婚できたよね……」
「おばあちゃん、かなりモテてたよ。実は男の人の中にはネコ耳好きが多くてね。王族にも求愛されたことがあるって自慢してたくらいなんだよ。だからあんたも安心だね」
なにが安心だか全くわからないが……。
あまり遅くなると帰り道が心配なので、そろそろ出発することにした。
細い山道を進んでいくと、どんどん森が深くなる。
さらに1時間くらい歩いた頃。
急に視界がひらける。
そこは、山のてっぺんがあったはずの場所。
今は火口のようにへこんでおり、中心部は浅瀬の湖になっていた。
さらに真ん中には、小さな中洲のような島があり、大きな木が数本生えている。
木の間からは、祠の入り口のような物が見える。裏山にこんな場所があったなんて、全然知らなかった。
わたしは、登山の疲れも忘れ、気づくと祠に向かって駆け降りていた。
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