第4話 はじめてのお客様(後編)


 セイラは紙切れを広げる。

 すると、中にはメッセージがあった。

 

 「この手紙を見ているということは、今のあなたは1人なのね。かわいそうなセイラ。お母さんとのステップ遊びを覚えている? ステップのゴールに秘密があるの。この鍵を持っていってね」


 セイラの目が輝く。頬を綻ばせ、母親と話しているように甘えた表情をする。


 「お母さんとのステップ遊びおぼえてるよ。いつものゴールだよね。うん。覚えてる!」


 そういうとセイラは一階に駆け降りた。


 セイラはダイニングに行くと、入り口のタイルにたつ。そして、ステップ遊びの要領で、飛び跳ねていく。


 すると、ダイニングの奥にある一枚のタイルの上で立ち止まった。


 「このタイルがいつものゴールなの。お母さんとタイルでジャンプして、ここにどっちが早く着くか競争するんだ」


 そのタイルをよく観察する。押してみると、このタイルだけ少しぐらぐらしていることに気づいた。

 

 『外れるかも』


 タイルの隙間に金具を差し込み持ち上げると、ゴールのタイルが外れた。


 下地の板には鍵穴があった。

 セイラは鍵穴にさっきの鍵を差し込み回す。


 すると、板が外れた。

 板の下には空間があり、手紙が入っていた。


 手紙はセイラの母からのものだった。

 セイラはまだ文字の読み書きが完全ではないので、一緒に読んであげる。

 

 「この手紙を読んでいるってことは、やっぱり予知夢だったのね。お母さんは、ここ数ヶ月、何回も同じ夢をみたの。セイラが1人ぼっちで泣いて困っている夢。お父さんと相談して、念の為に、この手紙を残します」


 セイラは口を押さえている。

 手紙はまだ続く。


 「セイラ、心細いと思うけれど、しっかり聞いてね。私達の財産は全てあなたに譲ります。悪い大人に盗まれないように、お父さんの弟さんに銀行の鍵を預けてあります。この手紙の最後に住所を書くので連絡しなさい。あとはおじさんが全部やってくれます」


 手紙には、家族3人と思われる簡単なイラストがあり、その下には……。


 「セイラ。この手紙を読んでいるあなたは何歳なのかな? もしかして大人なのかな。それともまだ小さなレディーかな。どんなセイラなのか想像しながらこの手紙を書いています。愛してるよ」


 セイラは目に涙をいっぱいためて。

 でも、わたしの声を遮らないように、懸命に聞き入っている。

 

 数秒の間を開けて、最後のフレーズを読んだ。


 「セイラ。お父さんもお母さんも、あなたの親になれて本当に幸せです。わたしたちに幸せをくれて有難う。もしかして、この手紙を読んだとき、お母さんが元気だったらちょっと恥ずかしいね。笑わないであげてね」


 最後に叔父の連絡先があり、手紙は終わっていた。


 セイラは早速、叔父おじに手紙を書いた。

 すると、半月ほどで叔父が迎えにきた。


 セイラの叔父は、セイラをみるなり駆け寄りギュッと抱きしめた。そして、涙を流して、お迎えが遅くなったことを何度も謝っていた。


 セイラの両親が手紙の秘密を守り通すために、叔父からは連絡をとらないように頼んでいたらしい。叔父はセイラの父にそっくりで、優しそうな人だった。

 

 きっと、セイラのことを幸せにしてくれるだろう。


 セイラの叔父さんにより、叔母親子は家を追い出された。


 後からわかったことなのだが、叔母はセイラに催眠術をかけ、財産のありかを吐かせようとしていたらしい。


 セイラのお母さんから夢についての相談を受けたお父さんは、セイラに護りの魔法をかけていた。


 その魔法が催眠術からセイラを守った。


 きっと、だからサーチの魔法は、セイラの頭の周りに光を集めたのだろう。

 

 叔父さんと抱き合うセイラを見守る。すると、セイラが駆け寄ってきた。 

 

 セイラはわたしの太ももに抱きつき、わたしを見上げる。その口元は、綻んでいるように見えた。


 「お姉ちゃん、ありがとう。これ、約束の報酬」


 セイラから本を受け取る。

 背表紙をみると「小さなカエルを召喚する魔法」と書いてあった。


 ……。


 何に使うのこれ。


 だけれど、セイラに喜んでもらえて良かった。

 セイラの様子を見ていると、わたしも幸せな気持ちになる。

 

 魔法書も嬉しいけれど、小さなお客さまの笑顔が一番嬉しかったかも。

 

 わたしは、猫耳のフードをぎゅっと深く被ると、その場を離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る