第40話
彼女のセリフに影明は反発する。
「けれど…俺が、俺が強ければッ!!」
全ては自分の弱さが原因だと回る自分が強ければこのような事態には起こらなかった。
自分という存在が恥ずかしく思える。
彼女という貴重な戦力を大幅に削減したようなものだ。
いくら償っても償いきれない。
そんな影明の自責の念に対して。
「自惚れるな」
彼女は一言で影明の悩みを吹き飛ばした。
その言葉で影明は口を紡いだ。
「ッ」
大きく目を見開き彼女の顔を見る。
黒い布で両目を覆った彼女の姿は怪我人とは思えないほどの寛容さと自尊心に満ち溢れている。
「貴様はあの時、大した実力を備えていなかった」
影明の実力を彼女は知っている。
「まだ成長の段階だった、その状態で、貴様を戦力に考えるなど普通はしない」
むしろ影明の実力で渡り合える程度の仕事を受けたのにも関わらずあの魑魅魍魎が出たことで大怪我を負うことは異例の事態でありそれはもはや災害というほかなかった。
「想定外の事態では、貴様が使えない事は想定の内だった」
だからあの場で影明をかばいながら戦うことも影明一人逃すことも彼女にとっては適切な判断だったと心から言えることだった。
「…ッ」
彼女の言葉を一つ一つ噛み締める影明。
厳しい言い方であるのには変わりないがその言葉の内面から優しさを感じた。
「だが…一つ誤算があるとすれば」
どのような言葉でも影明は受け入れる。
次に彼女は何と言うのか影明は心を構えていた。
しかし影明は想定外の言葉を耳にする。
「…私が教えた技術を、きちんと身に着けていた事だ」
彼女の口元が弧を描いた。
それは影明に対しては珍しい微笑みだった。
彼女の表情に影明は驚いた。
夜空に浮かぶ満月のように大きく目を開き池の中に一匹の魚が浮かんでいると思わせるほどに大きく口を開いていた。
「学び、自らの力に変え、あの窮地を切り抜けた」
今まで厳しい言葉しか言ってこなかった彼女。
「これ程、師として誇らしい事はあるまい」
今回の一線を持ってして影明の評価を見直していた。
影明を褒め称えている彼女はどこか自らの子供が誰かに称賛された時のように嬉しく思っていた。
「胸を張れ、影明」
影明は胸元が熱くなった。
呼吸をするたびに行きが乱れてしまいそうで変な音が出ないかと恥ずかしそうに呼吸を潜める。
「…はいッ」
目元から涙がこぼれないように一点を集中して彼女の顔を見つめている。
この場では影明の姿など誰にも知られることはない。
それなのに影明は自分の姿を隠そうとして虚勢を張っていた。
「むしろ、私が貴様の腕を無くす程の事態に陥らせた事を悔やむ」
彼女が深々と頭を下げたので影明は立ち上がりそのような真似はしないで欲しいと近づいた。
「いえ…謝らないで下さい」
自分が生きているのも全ては彼女のおかげなのだ。
そんな命の恩人に頭を下げるような真似はして欲しくないし見たくもなかった。
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