第39話
「(…しかし、話を聞けば、邪継舘殿は、俺よりも早く目覚めて、仕事をしていたらしいが…)」
影明の中では彼女が一番傷ついていたと思っていた。
もちろん影明の怪我も決して軽いものではない。
腕がなくなったという重傷。
しかし今では自分の血肉ではないが腕は生えている。
そのことがより一層彼女の方が怪我が重たいと考えてしまう。
しかし話を聞く限りでは彼女の方が影明よりも早く復帰したらしい。
「(俺が見る限りは重傷だった…大丈夫だったのか?)」
それでも体中は傷だらけだったはずだ。
後遺症は残らずとも傷跡は肌に残るだろう。
そう思っていた。
彼女の部屋の前に立つ。
深く深呼吸をした後に襖の前から声をかけた。
「…失礼致します」
しばらくの沈黙。
留守かと思われた。
しかし少しの間を開けて部屋の奥から声が聞こえてくる。
「…影明か、入れ」
彼女の声だ。
その行為を聞いて影明は安心した。
いつも通りの記憶のある声に彼女が生きていると安心感を覚えたのだ。
彼女の許可が出たことで影明は襖を開ける。
「はッ」
襖の奥へ入る。
頭を下げると同時に、彼女に向けて頭を下げた。
彼女の姿を眼に入れる事は無かった。
それすら烏滸がましいと思ったのだろう。
「邪継舘殿、今回の仕事、俺の力不足でご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
影明は一呼吸で謝罪の言葉を口にした。
これ程までに簡潔な言葉は無いだろう。
しかし、影明の想いを乗せた言葉だ。
重々しい言葉の後、再び沈黙が灯る。
熱が体中に感じ入る。
影明はそれが無言の重圧である事を察した。
「…顔を上げろ、影明」
彼女の許しを得て、影明は喉を鳴らした。
「…はい」
ゆっくりと顔を上げる影明。
そして、目の前に居る彼女を視界に入れる。
ようやく、影明は彼女の容態を確認する事が出来た。
「…ッ、邪継舘殿」
彼女は仕事帰りだと言うのに武装はしていなかった。
と言う事は、彼女の仕事は肉体を酷使する魑魅魍魎との戦いでは無い。
即ち、外回りと言う名の身体を慣らす外出だろう。
彼女の服装は、妙齢な女性が好む着物の恰好をしていた。
そして、問題なのはそこでは無かった。
本来ならば、体中傷だらけであろう彼女の姿。
今にして見れば、彼女の怪我は無く、傷一つ無かった。
「あぁ、かなりの深手だったんだがな、貴様の生命力を吸った事で、治癒力が上がったらしい、傷も、早々に塞がり、痕も無くなった」
彼女の説明を受けたが、問題は其処では無かった。
影明は、彼女の顔を見た。
「…その、眼の部分は」
彼女の目元には、布が巻かれていた。
両目を塞ぐ様に、黒色の布で目を覆っている。
「まあ、流石に眼は再生はしなかった、隻眼として生きる事になるだろうが」
隻眼と言うが。
何故、両目を隠しているのか。
その答えを、彼女は察して答える。
「まあ、両目を隠しているのは、単に訓練の様なものだ、だから気にするな」
気にするな、と、彼女はそう影明に言った。
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