第37話
彼女は影明に言う。
「テメェの、その腕のな」
影明の変色した腕の方を見ながらだ。
それは影明が気になっているうちの1つだった。
影明はお嬢様の方を見た。
「結論から言えば、テメェの腕は、魑魅魍魎だ」
お嬢様にそう言われた影明。
驚いていた。
しかし声を上げるほどではなかった。
うすうすと自分の腕がどうなっているのか感じ取っていたのかもしれない。
「肉体に魑魅魍魎が侵入されて、肉体から外側に向けて食われそうになってたんだよ、テメェは」
影明は自らの手を開いた。
両方の腕はそれぞれ違う色をしていた。
自分の意志で動くがこの腕は魑魅魍魎からできている。
「俺の、身体が…?」
魑魅魍魎に体内から侵入されて内側から食われていたはずだ。
だが何が原因で影明の腕として動いているのか。
疑問が再び疑問を浮かばせた。
そもそもなぜ自分が助かったのか不思議だった。
その答え合わせをするようにお嬢様が布団の上で転がっている双子の方に指をさしながら言う。
「だが、すんでの所で、双子がテメェを助けたんだ」
遊び呆けている双子に影明は視線を向けた。
「え?」
この無邪気な子供達が影明を助けるほどの力を持っていた事に驚きだった。
「テメェらが任務に出て一週間程だったからな、流石に遅かったから、派遣を出したんだよ」
新たな情報に影明は頭を悩ませる。
自分とメイドが一緒に仕事に出てから1週間も経過していた。
体感時間。
いや仕事に出てから戦闘が始まるまで1日もかからなかったはずだと影明はそう思っていた。
「(一週間?確か、仕事場へは一日、其処で仕事をしていたから…少なくとも、六日間は外に出ていた?時間に、矛盾が発生している?)」
影明の疑問にお嬢様は答えてくれる。
「結界の中は時間の感覚が違う、ここだと一時間だが、結界内部だと一日、一年がざらだ、運が良かったのは、テメェの生命力が急に仕事の地点から漏れたからだ、そのお陰で、双子がテメェを探す事が出来た」
異能領域内部では現実世界の時間と時差が起きているらしい。
わずか数時間がまさか1週間もの時差が発生しているなど影明は思いもしなかったが。
双子たちは布団の上で手足を動かし泳ぎながら片手を上げて自分のおかげだと言わんばかりに興奮していた。
「おかげー」
「こうろうしゃー」
双子のその言い方は自分を褒めて欲しいと言っているように聞こえた。
影明は双子の方に顔を向けると深々と頭を下げる。
「そ、そうか…忝い、双子どの…」
言動と実力が伴っていないように思っている影明。
しかし人を見かけで判断してはならないと思い彼女たちの壮大さに感服するほかなかった。
影明が双子と二人の事を一括りにしたために2人は頬を膨らませてご立腹な様子だった。
「はくろー」
「こはくー」
双子は自らの名前を交互に口にした。
後付のようにお嬢様が2人の名字を教えてくれる。
「…灰色の髪で、赤い髪飾りを付けた方が
灰色の髪。
小さな体。
体格も身長もおそらくは体重ですらも同じだろう。
全く持っての瓜二つ。
「(顔どころか、名前も似ている…覚え辛い)」
助けてくれた事には感謝しているがそれとこれとは別であり影明は逆に双子の事は覚えづらいと思ってしまった。
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