第36話
彼女は影明に対して怒りを露わにしていた。
血を大きく振り上げて影明を殴ろうとしているまる彼女の暴力に影明は防御する事もなかった。
「主である、この私を、心配させるなど、何様のつもりだ、テメェ!!」
彼女の言葉に影明は慌てながら頭を下げる。
自分が避けていた布団を剥がして畳の上に頭をこすりつける。
の言葉を何度も何度も影明は口にしたまるその時影明は思わず自分がしゃべってはいけない事を忘れていた。
「も、申し訳、ありません…あッ」
口元に手を添えて呼吸とともに流れ出す生命力を止めようとしたが時既に遅し。
「(しまった…普通に、喋って…って)」
しかし影明の体内には違和感を感じた。
先程無意識に喋ってしまったのに生命力が漏れるような感覚がなかったのだ。
「(なんだ?…喋っても、生命力が漏れる様な感覚が無い…)」
影明は自分の生命力がなくなってしまったのかと考えた。
けれども生命力が外には出ていないだけで体内で流れているのがよくわかる。
影明はそれを感覚で理解できているのだ。
今回の仕事で生命力を解放した事により気配操作が無意識のうちにできているのではないかと影明は考える。
「この、ッ!」
お嬢様は影明の頭に向けて平手打ちを放った。
躾はなっていない子犬を暴力で訴えるかのように掌で影明の頭を叩いたのだ。
その一撃に影明の思考は一瞬で吹き飛んだ。
「も、申し訳、ありませんッ射累々様ッ」
頭を下げたまま彼女に詫びの言葉を入れる影明。
「許せるか…後で、テメェは私の部屋に来い…」
後でお嬢様の部屋へと向かって行き影明はそこでさらなるお仕置きを受けるのだろうと思った。
しかし影明は自分の事よりも他の事を考えていた。
「…あの、これは…俺の腕は、一体…いや、それよりも」
自分の腕の事も聞きたかったがそれよりも先に自分と一緒に仕事していて彼女の事が心配だった。
「…邪継舘、どのは?」
影明の言葉に呆れたようにお嬢様はため息をついた。
「はぁ…自分の腕の事よりも、散の事かよ…」
これほどまでに自分は重症であったのだが今は生きている。
それを考えれば自分の心配はしなくても良かった。
だとすれば逆に心配に思うのは彼女の方だった。
影明の心配する声に対してお嬢様は影明の思いを蹴り上げるかのような言葉を口にした。
「テメェとは違うんだよ、既に復帰してんだ、テメェは、一週間も眠ってたんだからな」
お嬢様の言う事が本当であればこの1週間で影明よりも早く怪我が治っていて仕事をしているらしい。
見上げた再生能力と忠義心だと影明は思った。
「お、俺が、それ程、までに?!」
意識が戻り暦を悟る。
影明は一瞬の出来事だったと思っていたのにそれほどまでに時間が経過していた事に驚いた。
「はぁぁ…散よりも先ずは、テメェの話だ」
影明の驚き方にお嬢様はうっかり毒気を抜かれた。
深くため息をついてその場にしゃがみ込む。
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