第35話
気がつけば影明は見慣れた天井があった。
呆然とその天井を見つめている。
「…ん」
最初は意識がはっきりとしない影明だったが次第にこの部屋の中がお嬢様の屋敷である事を察して大きく目を開かせた。
「あれ…ここ、は?」
影明の戯言に反応する声があった。
幼い少女の声だった。
影明の両方の耳元から声が聞こえてくる。
「あー」
両方という意味合いは2つの声が聞こえてくるという意味だった。
「おきたー」
全く同じ声色が影明の耳の左右から聞こえてきた。
ひょっこりと影明の視界に入ってくる灰色の髪をした少女たちの姿。
瞳の色が両方違い、白と黒と言う色をしていた。
そして頭部からは犬の様な耳が生えている。
「(な、なんだ、顔が瓜二つ…双子、…犬耳?)」
驚きのあまり影明は体を起こした。
一体どうやって帰ってきたのだろうか、お嬢様の屋敷の一室である事を察した。
「(見覚えのある天井…射累々家の屋敷、か…?)」
呆然としてた影明は自分が意識を失う前の事を用紙に一筆書きした文字を水面に浮かばせて墨汁がじんわりと広がっていくように思い出す。
自分が闇の魑魅魍魎と戦っていた事。
自分の肉体に魑魅魍魎が入り込んだ事。
そして邪継舘散が倒されてしまった事。
そこまで思い出して影明は声を上げた。
自分の事はどうでもよかった。
「…や、邪継舘、どのはッ!?」
そのままに叫んだと同時に影明は立ち上がろうとした。
そして本来なかったはずのもので影明は体を支えた。
「(ッ…片腕に、違和感)」
影明は違和感を覚える腕の方を見た。
戦いによって隻腕となっていた影明。
彼の腕は片方はなくなっているはずなのに。
「…?!」
再び影明は驚いた。
ないと思っていたはずの腕が生えていたのだ。
「(俺の腕が、治っている?…いや、これは…)」
自らの指を動かす。
頭で念じると影明の思うように指が動いた。
腕や掌を自らの残った方の手で触ると感触があった。
その硬い鱗で覆われたような黒色の腕である事以外は影明を腕のように動いている。
「(黒い、禍々しい、まるで、魑魅魍魎と同じ様な)」
あの闇の魑魅魍魎と同じ色合いだったため不気味に感じた。
そんな影明の考察を無視するかのように双子は襖に手を伸ばして廊下へと飛び出していく。
「あるじさまー」
「おめざめー」
廊下の奥にまで響く双子の声。
10秒も足らず影明の部屋の中へと女性が入ってきた。
彼女の姿を見て影明は瞬時に喉が渇いて行き唾を飲み込む。
「…い、射累々、さま」
自らの主である名前を口にした。
彼女の表情は目がつり上がっていて今にでも叩っ斬りそうな雰囲気を醸し出している。
「この…馬鹿雄がッ…」
影明睨みつけて彼女はそう言った。
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