第34話

影明の渾身の一撃を受けた魑魅魍魎はそれでも生きていた。

今田人間としての肉体を捨ててもその声色は人間のような声をしていた。


「う、あぁ…あ、うぅ…」


影明は驚いていた。

まさかこの一撃でも死なないとは思わなかった。

だからと言って諦めるという理由は存在しない。


「(これでも、まだ生きている…のか、存外に、しぶとい、なら…)」


影明の体内はカラカラになっていた。

既に限界を絞り出している。

これ以上生命力を使う事は自らの死を意味した。


「もう一発、を…ぐッ」


刀を振り上げようとしたがもちろん先程のような芸術的な機能は発揮する事はできない。

手足が震えている。

度重なる疲労によって筋骨が壊れかけていた。


「(身体が、限界、かッ)」


ならば影明は仲間に頼る視線を浮かべた。

彼女の方を見るがしかし先程の雷によって彼女もまた限界を迎えていた。

応援は期待できない。


「(邪継舘殿…は、ダメだ、動いていない、限りを尽くしたんだ)」


影明は呼吸を整える。

この状況でやはり最後に物を言うのは自分の力のみだった。


「(俺が、やらなければならないッ、この手で)」


長年の復讐を遂げるために。

歯を食いしばり今にでも壊れそうな筋肉を振り絞り影明は命を燃やして魑魅魍魎と戦う。


「おわら、せるッ」


闇の衣を纏いつつある魑魅魍魎。

肉体を再生しようとしている。

暗闇は魑魅魍魎の味方だった。

早くしなければ再生すると影明は思ったのだろう。

接近して刀を振り上げた。

あらん限りの声を荒げて刀を振り下ろす。


「お、ォォ!!」


極度の集中力の最中。


「  」


影明は魑魅魍魎の言葉を聞いた。


「(化物が、何か、を)」


集中していた影明はその言葉の意味を一瞬遅れて脳内に流し込み理解する。


「 ごめんね 」


魑魅魍魎の声に影明はなぜ謝ったのかわからなかった。


「え?」


気迫が削がれた影明。

一体どういう意味であるのか意識をそちらに傾けてしまう。

それが命取りだった。


「ッぐ、あッ!!」


闇の魑魅魍魎は魚のように動いた。

闇の顎が開かれると、舌先が伸びる。

影明の切断された片腕に向かって舌先が伸びると傷口に魑魅魍魎が入り込んだ。


「(ば、化物、が、俺の腕、傷口にッ)」


影明は驚愕した。

まさか自分の肉体を内側からむしゃぶり食おうと考えているのか。

影明はどうにかしようと考えた。

だけど頭も体も限界だった。


「(く、クソッ、ダメだ、身体が、限かッ…ッ)」


体の中に入り込んでくる魑魅魍魎。

本来ならば激痛なのだろうが影明はそれすらも感じなかった。

ただぷつりと糸が切れるように影明の意識は途絶えた。

そして影明は長い眠りに着いた。


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