第33話

生命力。

影明の肉体に流れる生命の源。

肉体を動かす活力でもある。


「(気配操作)」


玖式流『八面玲瓏』。

人は肉体から常日頃から生命力を垂れ流している。

この生命力を閉ざす事で、存在を認知され難くなる技能。


「(気配とは生物が持つ生命力の揺らぎ)」


万物には生命力が流れる。

自然も生物も同じ事だ。

それでも、味と言うものがある。

魑魅魍魎が好む人間の味。

影明が放つ臭いは、魑魅魍魎を酩酊させる稀血の上位。

だから、ただひたすら、自分と言う存在を隠す為に隠匿の技能を学び続けた。


「(それを操作する事で、生命力を完全に消し去る事が出来る)」


影明の『八面玲瓏』、他の武人衆よりも高い性能を誇る。


「(ならば、逆はどうだ?)」


生命力を閉ざす事の逆。

逆に生命力を解放するのだ。

邪継舘散から教わった、達人の気配読み。

気配そのものを誤認させる玖式流『黄霧四塞』。

限りある生命力を、影明は意識的に放出する。


「(俺の生命力を、気配操作により全面的に押し出す)」


迫る魑魅魍魎。

影明は水中に潜む烏賊の如く、生命力の霧を発生させた。

魑魅魍魎は真面に影明の生命力を喰らう。

それも、影明が意識的に放出した生命力。

その濃度は、腕を喰らった時よりも高かった。


「(血に酔い、肉に溺れる、俺の稀血は媚薬の如く)」


準備は整った。

影明は、薄れかけた意識の最中、肉体に残る僅かな生命力を必死に練り上げる。


「酒池肉林だ、遠慮は要らん、食い平らげてみろッ」


魑魅魍魎は影明の生命力を喰らい、意識が混濁しているのか、影明を通り過ぎて、闇の顎で地面を喰らう。


「ぐ、あッ…あむ、ぐぁッ!!」


影明を狙った筈の捕食行動は、無意味と化した。


「(全力の生命力解放、これに酔わぬ者は居ないッ)」


相手の攻撃が外れた事で、悠々と背後から攻撃する手段を得た影明。

片手で握る鏡刃に、全身全霊の力を込めて、己が学んだ技術全てを魑魅魍魎に叩き込む。


「(玖式流・『百骸九竅』・更加さらにくわえ・『三界流転』…)」


玖式流は複合する技能を使用する。

影明が使用出来る技能は極端に少ない。

技能と技能を混ぜ合わせる事で、効果を相乗的に増強する。


「更、加…ッ」


鏡刃の合わせ鏡の要領で斬撃を同時に複数実現させる同時連続斬撃の『百骸九竅』。

光を反射する鏡の性質を利用し、斬撃を遠方へと射出する斬撃飛翔の『三界流転』。

この二つを重ね合わせる事で発揮されるは、複数の斬撃を同時連続で飛ばす『鏡花水月きょうかすいげつ百花繚乱ひゃっかりょうらん』であるが。


「(『二河白道にがびゃくどう』ッ)」


更に、影明は自身の肉体を鏡の反射の性質を利用して高速移動する『二河白道にがびゃくどう』を加えた。

これにより、複数の斬撃を同時に連続して飛ばすと言う性質に、高速移動と言う属性を含められた。

複合された三つの技能。


「『鏡花水月・刀光剣影』ッ!」


一振りで生まれる八つの斬撃。それが同時に射出される。

八つの斬撃は、本来別軌道の軌跡を描き、四方八方へと敵を囲う様に斬撃を放つ。

だが…其処に『二河白道にがびゃくどう』を加えた事で、本来曲がる筈だった軌跡が曲がる事なく一筋の斬撃となり、魑魅魍魎へと向かって行く。


「(俺が放てる限界の八連撃…それを一つに纏めて打ち出す、俺が使える奥義…)」


斬撃が魑魅魍魎へと直撃した。

盛大な斬撃の音、爆発にも似た音が響き渡ると共に、影明は土煙に見舞われる。

手で土煙を払いながら、影明は言った。


「やったか…?」


怨敵を殺す事が出来たか。

影明は疑問を浮かべていた。

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