第32話

雷霆煌琥。

元となった魑魅魍魎『雷絶王虎』を討伐した事により、邪継舘散は呪いを受けた。

紫電を撒き散らし、天候すらも操り、雷を降り注ぐ雷絶王虎。

その雷の権能を、此処で暴発させる。

――天神地祇光芒一閃――あまねくそらになりひびく、かみのいかずち、てんばつのひかり

空に向かい放たれる紫電が天を衝き、空に浮かぶ雲に奔ると、唯一人、闇を操る魑魅魍魎に向けて、天地を照らす雷が降り注ぐ。

闇で覆われた魑魅魍魎。

肉体を破壊する電熱が、魑魅魍魎を焼き尽くす。

ただの紫電ならば、闇の濃さにより攻撃を貫通する事は出来なかった。

常しえの闇を明るく照らす神雷だからこそ、闇を貫通し、魑魅魍魎に絶大な威力を与える事が可能になった。

影明は、彼女の攻撃を見て確信した。


「(これなら、勝てる…きっとッ)」


確実に、仇を討伐する事が出来ると。

神雷から逃れる様に、少女の肉体から離れる小さな影。

少女の肉体は、影が離れた事で、闇へと変わり、神雷に裁かれる。

恐らくは、少女の姿は闇の衣として着込んでいたのだろう。

であれば、この小さな影、狼の様な顎を持つ影が本体だ。


「いたぃぃ…いたい、いたぃいいッ」


影明の方へと接近する。

周囲の闇を吸収し、肉体が次第に増長していく魑魅魍魎。


「うにゃああッ!にげる、なッ!!」


邪継舘散は、怒りを浮かべながら雷を放つ。

だが、神雷の軌道には影明が居た。

迂闊に打てば、影明に当たる可能性すらあった。


「(こちらへ、向かって来るッ)」


影明は、鏡刃を握り締める。

剣先が震えている、身体の震えが止まらない。


「(ッ、くそ、震えるッ、だがッ)」


恐怖を噛み殺す。

影明は、心の奥底に刻まれた恐怖と対峙する。。


「来い…来いッ!!」


此方へと迫る魑魅魍魎。

前へ、前へと突き進むにつれて、影明の覚悟は決まった。


「(恐怖に打ち克て、何者にも畏れぬ心を抱けッ)」


全ては仇を討つ為に。

影明は今まで生き続けた。


「(俺の全てを、俺は信じなくても良い、だけど)」


邪継舘散。

彼女が教えてくれた技術、それだけは、彼を裏切らないと信じている。


「(俺を鍛えた、邪継舘殿の技術だけは、信じろッ)」


彼女の技術が、影明を鼓舞する。


「(仇を、断ち切れるとッ!!)」


敵を斬る事だけ、余念なく思考を、精神を、この一局に集中する。


「すゥぅぅぅぅッ」


呼吸をする、息を整える。


「やくそく、やくそくぅ!!」


魑魅魍魎は影明を喰らおうと口を開く。

逃げる真似はしない、逃げる意思は消え失せた。


「(俺を食い殺したいのだろう?ならば、くれてやる)」


この命を以て、相手を殺す。


「(俺の肉、血、身体に染み着いた生命力)」


全てを懸けて。


「食えるものなら喰ってみろッ!!」


叫び、雄叫び、絶叫する。

恐怖を踏破し、恐怖を超越し。

影明は、敵を殺す刃を返す。

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