第28話
異能領域。
獲物を捕らえる空間。
彼女の全力を以て、異空間は破壊された。
星空の壁がガラスの様に砕け散って、元の空間へと戻る。
これによって、魑魅魍魎側の有利性は失ったが。
その代償は大きい。
邪継舘散の肉体は限界を迎えていた。
彼女を口の中からは大量の血が流れ出している。
魑魅魍魎の攻撃は彼女の自慢の刃すらも砕き壊して地面に突き刺さっている。
「が…ごほッ」
膝をつきながら彼女は口の中に溢れ出してくる血液を吐き出す。
腹部は貫かれていて臓物が見えていた。
「はぁ…はッ…くくッ」
体が痛みを感じない。
ようやく自分も冷たい肉体へと変わっていくらしい。
彼女が殺し続けた魑魅魍魎と同じように死骸へ変わっていくのだ。
彼女は待ちわびていたようにつぶやく。
「あぁ…ようやくか」
この時をどれほど待ったか。
当人以外は知るよしもないだろう。
「全力を尽くして、この体たらく…」
自分の実力ではこの魑魅魍魎を倒す事はできない。
それが痛いほどに痛感した。
もはやなす術もなかった。
手先が震えている。
幼い頃に味わったきり忘れていた感情だ。
「これが、私が感じ得る恐怖と言うものか」
それが彼女の肉体を支配している。
時期に時間が経てば自然と死んでしまうだろうが。
それよりも早く魑魅魍魎が彼女の息の根を止めるだろう。
「死を間近にして、怖れを抱いている」
彼女はその瞬間を待ちわびていた。
唯一無二全ての生命が出発しそして行き着く終点。
全力を出してそれでもなお自分よりも強い存在に蹂躙される。
彼女はあの頃から何も変わらない。
「ならば…あの時の続きだ、それを口にしようか」
表情を曇らせた。
今にでも泣きそうな顔だ。
唇を震わせて恐怖を肉体全体で味わう。
「…やめて、たすけて」
彼女は絶対的強者に向けて命乞いをした。
「殺さないで…死にたくないの、お願いします」
彼女の息は荒くなっていた。
顔が赤くなっていて絶頂を迎えてしまいそうだ。
「いやっ、痛い事、しないで…」
己が弱いという事実を受け入れて全ての権利を強者に委ねる。
屈辱で背徳的。
彼女の人生はここで完成する。
そう思っていた。
「だー。めーえ?」
魑魅魍魎は彼女の言葉を理解しているのか震える彼女に向けてそのように言った。
どんなにあがいても覆らない事実。
魑魅魍魎に殺されてしまう事に彼女は恍惚とした表情を浮かべながら最後まで命乞いをする。
「あぁ…いやぁああッ!お願いします、なんでも、しますから、殺さないでッいやァ!!」
演技が佳境に差し迫る時。
「…」
はるか先の荒野からやってきた影明と目があった。
大きく声を荒げている彼女は次第に声量がしぼんでいく。
「ぁぁぁ…」
彼女の喜びに満ちた表情は次第に恥ずかしさを表す赤面に変わっていった。
気まずそうに押し黙る影明。
それを見て彼女は声を荒げた。
「何を見ている、貴様、と言うか、何故戻って来た」
なぜ影明が戻ってきたか彼女はそれを聞いた。
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