第27話
今の影明は、魑魅魍魎に囲まれた袋の鼠。
恐怖に怯え切った彼では、最早絶体絶命の危機とも思えただろう。
だが、片腕を無くした満身創痍の影明は、それでもしぶとく生きていた。
「はぁ…はッ」
魑魅魍魎が影明を喰らおうとしても、彼は鏡刃を使い敵を攻撃する。
「(左…来る、玖式流・『
鏡刃を振るう。
鏡は光を反射する事で、生物の目に景色が映る。
反射性能を利用する事で、斬撃自体を反射して遠方へと弾き飛ばす。
魑魅魍魎を殺し、影明は肩で息をしながら鏡刃を振るう。
「はぁ…はぁ…ッ」
今度は正面から蚯蚓の様な形状をした魑魅魍魎が二体、迫って来た。
「(前方…二体、玖式流『
玖式流の百骸九竅は、鏡と鏡を向き合わせる事で、鏡の中に鏡の景色が写り込み、その写り込んだ鏡にはまた合わせた鏡の景色が写り込む…と言う広がり方を現実へ反映させる。
鏡刃を振るい、斬撃を現実へと引き出す事で、斬撃の軌跡を別方角から放つ。
即ち、一振りで二振り、四振りにも成り得る同時連撃を可能とする。
その斬撃によって二体の魑魅魍魎を斬り殺して、影明は未だ、己が生きている事に驚愕した。
「なん、で…」
既に肉体は瀕死である。
このまま、死んでもおかしくはない。
いや、魑魅魍魎に囲まれて、死なない筈が無い。
「(なんで、俺はまだ、死んでない?)」
其れなのに、彼は生きている。
生き残っている。
魑魅魍魎に囲まれて、死を連想し、死に怯えているのに。
「(これ程の魑魅魍魎を相手にして、生きている方が、不思議だろうが)」
彼は、自分は生き恥を晒していると思った。
「(其処までして、俺は生きたいのか?)」
だが、魑魅魍魎が彼を狙う度に、鏡刃を振るい、敵を斬り殺していく。
「は、ァァッ!!」
それは、反射だった。
「(違う…これは、俺じゃない)」
今まで詰め込まれた技術が、影明を生かしていた。
「(俺の肉体に染み込んだ、技術が、俺を生かそうとしている…)」
絶望しても、それでも尚、身体が動く様に。
「(攻撃による反射、防御、回避、反撃…それらを叩き込んでくれた人が)」
彼女が、影明を鍛えて、生き残る為の技術を教えた。
その場に彼女が居なくても、影明が一人でも大丈夫である為に。
「(俺を、生かそうとしているんだ)」
全ては、邪継舘散の功績。
「(…邪継舘殿、…俺を生かしてくれるのは、貴方の技術だ)」
恐怖に怯える己を恥じた。
影明は、傷の痛みも忘れて、鏡刃を握り直した。
「…退け、
振り向き、邪継舘散の方角へと向かい出す。
影明の心には、怖れよりも、救済の心が優っていた。
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