第25話
異能領域から抜けた影明。
彼が居なくなったこの領域内で邪継舘散は深く深呼吸をする。
「くはッ…この空間で、影明の匂いが強く充満している」
影明の血液の匂いで充満されたこの空間の中で彼女は強がりを見せた。
この空間内には影明の血管から散布された生命力が充満している。
それを嗅ぐ事によって邪継舘散の中に影明の生命力が流れ込んできた。
それが彼女にとっては酔いが回るものであり、意識の混濁や運動神経の低下に繋がってしまうが、この際彼女には関係の無い話だった。
「それだけで、なんとか気合が入ると言うものだ」
彼女の言葉に魑魅魍魎は聞き捨てならないと表情をしかめっ面にして彼女を睨んだ。
「あなたのものじゃない」
不愉快極まりない、魑魅魍魎の表情に彼女は愉悦に浸っている。
「そうか、黙っていろ人擬き」
彼女は魑魅魍魎に対してそのように蔑んだが結局のところはその言葉は彼女の強がりである事がわかる。
「はッ…しかし、それでも私は貴様には負けるだろうな…」
自分の実力では彼女には勝てない。
たとえ万全の状態だったとしても勝つ事は難しいだろうと彼女を脳内では物語っている。
「貴様はどうやら、今まで出会って来た魑魅魍魎の中で一番強い」
魑魅魍魎から発せられる瘴気。
一度でも気を緩めばその隙をついて説明の一撃を与えられそうなほどに相手はこちらを注意深く見ている。
もしもこの状況下で勝つ事ができるのだとすればそれは影明の生命力を喰らう事だろうが。
「…恐らく、影明の強化ですらも…敵わないだろう」
彼女は首を左右に振ってその想定を諦める。
彼女の言葉に魑魅魍魎は首を傾げた。
「かげあき?」
聞いた事もない言葉だった。
あの小さな子供がそういう名前である事を魑魅魍魎は初めて知ったのだ。
影明の名前を知っている。
それだけで彼女は魑魅魍魎に対して知識に対する優位性に勝ち誇った表情をした。
「貴様が喰らおうとした者の名だ、それくらい知っておけ」
いよいよ彼女は体に力を込め始めた。
戦闘の準備を整えている。
彼女の鼻腔には影明の匂いで溢れている。
食欲と性欲両方を刺激されるような香ばしい匂いだ。
「確かに…あの男は、食べてしまいたい程に、良い匂いをしている」
口の周りを濡らした舌先で舐め回す。
影明の生命力を食らえば強化できる可能性もあったかもしれない。
「だが…強化などたかが知れているだろう?」
影明の生命力。
確かに彼女は影明の生命力を吸って力が溢れてくる事は分かっていた。
だがそれでもこの魑魅魍魎を倒す事はできない。
そして何よりも彼女は影明の生命力とは相性が悪かった。
「濃い生命力を喰らえば、酔ってしまうからな…元から、私の肉体は、奴の生命力には合わぬと判断した…」
そこまで行ったところで彼女は話を切り上げる。
「…過ぎた話を、今更掘り返した所で、だな」
すでに影明はこの異能領域から脱出している。
その時点で彼女の目的は達成していた。
「さあ、始めるか、化物」
鏡刃と融合し魑魅魍魎の力を手に入れた彼女。
三日月のように鋭い刃爪を手の動きと共に動かす。
「私が参る、墓場の底へとしゃれ込もうか」
彼女はここで死ぬつもりだった。
それは一見物悲しい事ではあるが同時に彼女の悲願を達成できる可能性もあった。
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