第22話



魑魅魍魎が人語を発した。

それを聞いた影明の脳裏には負の感情が浮かぶ。


「(みつけた…だと?)」


それは影明も同じだった。


「(その台詞はこっちのものだ、俺が、お前を見つけた)」


影明は覚えている。

この人の姿をした魑魅魍魎が、影明の家族を喰らい、そして影明を見逃した存在であると言う事を。

影明は歯を食い縛る。

体中が震え出して止める事が出来ない。


「(ようやくだ、この手で、お前を殺す事が出来る)」


全ては、この魑魅魍魎を殺す為に生きて来た。

この魑魅魍魎を殺せば、恩讐の人生に終止符が打てる。


「(とと、かあか、ちびたちを殺した恨みを晴らせる)」


家族の顔を思い浮かばせる。

仇を討つ、心に近い、影明は鏡刃を強く握り締めた。


「(例え、俺の命が潰えようとも)」


勢い良く啖呵を切ろうとした。

貴様を殺す、等と格好の良い台詞を吐こうとした。


「てめ、えッ、を、殺す…ころッ」


だが、開けば歯が震えてかちかちと鳴っていた。

上手く、口が動かない、それ所か…彼の身体は、震え切っていた。


「(な、んだ…体が、震えてる…奴の異能か?)」


指先に視線を向ける。

痺れているかの様に、指が震えていた。

それは、あの時と同じだ。

家族を食われた日。

何も出来ず、魑魅魍魎に生かされ、震えていた頃と同じ。


「(違う…俺、びびッ)」


魑魅魍魎に恐怖を覚えている。

当たり前だ。

あの惨状の村滅ぼしから、大きな傷を付けられた。

心に刻み込まれた恐怖は、決して拭えるものではない。

そんな彼を嘲笑うかの様に、魑魅魍魎がゆっくりと近付いて来る。


「ふー、あー…あー…」


線の細い女性の様な魑魅魍魎が迫る。


「(なんだ、近づいて…)」


そして、彼女は笑った。

口の端が目元まで近づいて、人間の笑い方を模倣する化物として。


「やくそく、はたすね」


その言葉と共に、彼女の背後が蠢いた。


「(口、背後、口が、開いて…ッ!)」


イヌの様な口をした無数の魑魅魍魎が影明に向けて伸びていく。

影明は一瞬遅れて、その影から逃れようとしたが…それよりも早く、影明の片腕が闇に喰われた。

音など聞こえてこない、綺麗に腕が切断されて、影明の二の腕から先から血が流れ出す。


「わ、あッ」


腕が喰われた事。

その事実に気が付くまで数秒の時間が掛かった。

そして、脳内では指先を動かしている筈なのに、腕から先が無い為に、ようやく自分の腕が喰われたと言う事実を察すると。


「あ、ああああああッ!!」


切断面から流れ込んで来る激痛。

影明は歯を食い縛ったが、しかし今まで感じた事の無い痛みに、絶叫してしまう。


「(う、でッがッ、腕、がァ!!)」


必死に筋肉を動かして、血を止める応急処置。

血管で筋肉で圧し潰して、何とか血流を止めるが、腕を奪われた衝撃が大きい。

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