第21話

 


「…私は、其処で手を握った、それが、私の人生の最大の選択だった」


あの時の手の感触は今も覚えている。

強くなる為に、彼女は射累々家へと渡った。

あの時の恩人の選択が、間違ってない事を証明する為に。

彼女は強くなった。


「ふふッ…あぁ、あれから私は強くなった、そう勘違いしていた」


だが、その強さも、今では魑魅魍魎の前では無意味。


「だが、見ろ、邪継舘散…今の貴様は、あの時の私よりも弱い」


昔の己が、この光景を見ていたらどう思うか。


「あぁ…あぁ…」


そう思うと、彼女の心が、次第に変化を齎す。


「ごめん、なさい」


涙を流す。

幼い表情へと変わる。

唇が震えて、怖れを抱く。


「ごめんなさい、ごめんなさい…弱くてごめんなさい、どうか許して、お願いします…なんでも、します、ですから、どうか許して…お願い…」


女性らしい肉付きをした美女が、幼女の様に震えて怯えていた。

自らがその様に演じた時、彼女の口は歪んでいき、笑みへと変わる。

体中から熱が生み出されて、顔面が赤く紅潮していた。


「…ふふ、あぁ、なんて無様だ、…恥ずかしい、だが」


元より、性格が嗜虐的だった彼女。

しかし、それは彼女が受けた強者の姿を反映させているからに他ならない。

彼女の本質は、何処までも、他者から痛めつけられたいと願う事。

幼少期に受けた暴力から、彼女が尤も興奮する行為へと捻じ曲げられた。


「そんな自分が何よりも…興奮する」


被虐。

それが彼女の本質。

イジメられる事に性的興奮を覚えてしまう変態だった。


「今まで、強さを誇示して来た己が、弱みを付け込まれるなど…裸のままで民衆に晒される様な気分だ…ッ」


その中でも、彼女は今まで強いと思っていた大人が、より強い存在に蹂躙される様を見て性癖を開花させた。

自分もあの様に、強者故の矜持と傲慢さを抱いた状態で頭を地に擦り付けたい。

その為ならば、先ずは自分は強くならなければならない。

故に、邪継舘散は、強者の道を選んだ。


「さあ、蹂躙しろ、してみろ…私をもっと、惨めにしろ」


脳内で幸福成分が多量に分泌される。

このまま絶頂し果ててしまいそうな程に彼女は興奮していた。


「貴様たちは強い、きっと強い、弱い私が保証する」


三日月の刃を振るう。

手の動きに合わせて刃も動く。


「私を痛めつけて、罵り、犯してみせろッ!!」


熱が止まないのか、彼女は自らの衣服を破る。

半裸になりながら、彼女は武器を構えた。


「私はそれら全てを拒絶してやるッ!全力でだッ!その上で私を凌駕しろッ!!」


あの時の事。

昔の、幼少期の頃の彼女がこの光景を見たらどう思うか。


「私の努力を、実力を、全力をッ!!暴力を以てぐちゃぐちゃに、全てを台無しにしてみせろッ!!」


その返答は正しく。


「その為に、私は強さを手に入れたのだからッ!!」


熱の籠った息を吐き、興奮していたのだろう。

自らが、圧倒的強者に蹂躙されるのだから。









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