第20話
幼少期の彼女は集落の生まれだった。
そこでは実力の伴っていない人間は迫害されていた。
成長した彼女は何とも高圧的で傲慢な人物だった。
しかし小さかった頃の彼女は現在とは見る影もないほどに臆病で弱々しい存在だった。
暴力が絶えない環境、幼い彼女は自分よりも大きい存在から暴力を振るわれる日々だった。
『ごめんなさい、ごめんなさい』
両手で頭を抱え込みながら暴力を止めるよう泣きながら訴えかける彼女。
『ぶたないで、なぐらないで』
彼女の弱々しい態度は他の人間の嗜虐心をくすぐらせた。
音楽を奏でるように叩けば様々な音を出す彼女は他の人間にとってのおもちゃのようなものだった。
『いきてて、ごめんなさい』
時には自分の存在全てを否定されたことがあった。
『ごはんをたべて、ごめんなさい』
時には他人が用意した食べ物を家にしてそのことを謝罪するよ迫られたことがあった。
『なにもできなくて、ごめんなさい』
生まれてきたことを後悔することに彼女は様々な人間からいじめられてきた。
「(私の存在は否定された、その度に、私は謝り続けた)」
なぜ自分がこのような目に合うのかわからなかった。
『なんでもします、ゆるしてっ』
殴られること叩かれること蹴られること罵られること心身ともに痛めつけられた彼女の尊厳は踏みにじられた。
『もう、いたいこと、いやなんですっやめッ、やめてッ』
生きていることがこんなにも地獄であるなど彼女は幼少期の頃から知り尽くしていた。
そしてその全ての原因は己が最も弱いせいだからだ。
「(力が無いから、弱者として振舞い続けた…なんとも惨めで弱々しい…しかし、それが当たり前だと思っていた…)」
いつものように能力を振るわれて激痛を感じながら眠りにつく。
そのような毎日がずっと続いていくと思っていた。
だがある日の境にそれはなくなった。
彼女が住んでいた集落はどこからか収入源を得ていた。
畑や名産品なんてない崩れた家と復讐が漂うこの土地に利益を得る環境はなかった。
それでも集落の人間は食べ物を持っていたり高価な衣服に身を包んでいた。
この集落のほとんどの人間はよそへ出向き金品を強奪する盗賊だったのだ。
今回も同じように高価な品物を奪って集落へ戻っていた。
だが彼らは決して手を出してはいけない蛇の巣に手を突っ込んでしまった。
『ここに居る大人は、射累々家のお金を奪ったの、だから、殺された、何故だか分かる?』
お嬢様の家である。
そこから様々なものを強奪した盗賊たちは即日集落へと出向いて行き彼らのことごとくを殺した。
自らを暴力を振るっていた人間たちが死んでいく様を見て彼女は喜びを浮かべることはなかった。
自分も同じように殺されてしまうと思ったからだ。
彼女の質問に対して怯えきった彼女は質問に答える。
『…わるいことを、したから』
彼女の質問に対して彼女は首を左右に振った。
『いいえ…彼らには、力が無かったの、弱くてみすぼらしいから、殺されたの』
彼らに力があればこうして殺されることはなかった。
弱かったからこうして殺されてしまったのだ。
『それでも、この中で、貴方が一番弱い…だから、私は貴方を救けてあげた』
この中で一番弱いのは彼女だった。
集落の人間のほとんどは年老いた老人ばかりだった。
どうやら彼女は物心つく前に彼ら盗賊たちに身柄を奪われてこの土地に縛り付けた。
身代金を得るために彼女を奪ったのか。
単純な労働力を得るために彼女を連れてきたのか。
それとも単純に弱い者いじめをするために彼女を見つけたのか。
それは分からない。
だからこそ小さな子供がその体に傷をつけて痩せ細っているのを見れば他の盗賊とは違う被害者であることが見て取れた。
彼女はそれを憐れんだ。
『子供はね、弱いのが当たり前なの、大人になれば、強くなれる、勿論…それは努力次第…もしも貴方が望むのなら、強くなる道を引いてあげても宜しくてよ?』
だからこそ彼女は彼女に生きる道を与えたのだ。
その言葉に彼女はひどく感動した。
彼女に向けて手を差し伸ばす。
『さあ、貴方はどうする?』
その手を取らない理由などなかった。
彼女は彼女の言われた言葉が心に響き弱さこそは悪であると考えついた。
それ以降彼女は強さを求めた。
従士で一番の強さを手に入れるまでに成長したのだった。
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