第19話

 


分断された時。

邪継舘散は、今までの魑魅魍魎は本気では無い事を理解した。


「(ッ化物は決して本気では無かった)」


群狼の姿をしていたのは、彼女の脳内で先程戦闘をしていた群狼との戦闘経験を引き出そうとしていた為だ。

つまりは、群狼の実力を想定しての戦闘を行わせる事で、自分の力量で倒せると誤認させ、逃走と言う選択肢を潰す。


「(瀕死のフリをしていた、魑魅魍魎の本質は狡猾)」


油断、慢心を引き起こし、結果的に影明と分断されてしまった。


「(この私を虚仮にしたと言う事だ…慢心させた事で、隙を狙った)」


それは、魑魅魍魎の知恵に負けてしまったと言う事だ。

屈辱を噛み締めながら、彼女は影明が居た筈の壁へと目を向ける。


「(邪継舘散…貴様は、教育者として失格だッ)」


自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えて歯軋りをする。

だが、そんな感情は、今、この戦場では不要なものだった。


「(だが…この失態を受けて嘆き悲しむ暇等無い)」


握り拳を固めて、彼女は視線を魑魅魍魎へと向ける。

彼女がやるべき事はただ一つ、魑魅魍魎を討伐する事だ。

異能領域は、魑魅魍魎が操っている、即ち、本体を討伐すれば異能領域は解放される。


「失態は取り返す…一先ず、残滓如きが…私の前を遮るなッ」


紫電解放。

雷の嵐が周辺を舞う。

攻防一体の『  付和雷同全身全霊  いかづちにふれしもの、かみのそうくとなりてらいめいとなす』を発動した状態で、彼女は大型の三日月の刃を天へ向けた。


「退けッ…貴様らに用など無いッ…ッ!」


指先から紫電の球体が発生する。

雷撃を伴う紫電球体は、電磁の波を発生させる範囲型攻撃となるが。

群狼の姿は形状を変えて、無数の触手へ変わった。

星空の様な薄暗い闇とは違い、漆黒で塗り固めた様な黒の触手が、邪継舘散の方へと伸びていく。

槍衾の様に、無数の触手の先端が彼女の肉体を貫いた。


「かはッ…ッ(攻撃が…、通った…ッ、だとッ!?)」


自らの肉体を確認する。

黒の触手に貫かれた肉体は、紫電変換されていない。

触手が突き刺さる部分からは、赤と黒の色をした葉脈の様なものが浮き出ていた。


「(浸蝕能力…成程、戦闘能力すらも、この私を騙していた、と言う事か)」


先程まで圧倒していた魑魅魍魎は、本気ですら無かった。

その事を、文字通り骨の髄まで理解させられる。

この魑魅魍魎の能力、浸蝕は、触れた対象の実体を捉える事も可能なのだ。

だから、邪継舘散の紫電化を浸蝕によって上書きした。


「く、はッ…」


彼女は痛みで口から声を漏らす。


「(舐められた、舐められた…この私が、あの時の、あの頃と同じ様に…ッ)」


それは次第に、笑みに変わっていく。


「は、ははッ」


自分が舐められていると言う事を理解した。

それが、あの時と同じだと、彼女の記憶から蘇らせる。


「(あぁ…屈辱的だ、何とも無様、愧じろ、邪継舘散…)」


幼少期の頃。


「あの時を思い出す…何とも、私は、矮小な存在だと…」


自分は何よりも弱かった。


「思い、出させてくれたな…この、記憶を…ッ」


あの時の事を、反芻した。


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