第18話

 


彼女の絶対的強者の風格を眼に焼き付ける。

彼女の姿は正に闘神の様に彼の目に映っていた。


「(凄い…これが、これが武将級かッ)」


喉を鳴らす。

彼女の強さを垣間見て、影明は羨望を浮かべると同時に、己の弱さを恥じた。


「(俺が付け入る隙すらない…勉強になると思う反面、何も出来ぬ自分が恥ずかしいッ)」


影明は息を緩める。

それは、彼女の傍に居るからと言う安心感だからだ。


「(このまま、魑魅魍魎を討伐する事が可能だ…ッ)」


戦場では、常に張り詰めた空気が漂っていた。

この数週間で、影明の有体が変化しつつあった。

絶対に犯してはならない戒め。

呼吸に生命力を乗せると言う行為。

忘れてはならない、この異能領域は、魑魅魍魎の住処だと。


「(なんだ、魑魅魍魎が…?)」


影の群狼が蠢く。

影明と邪継舘散の間に、暗闇の壁が出現した。

高速で壁が建築されていくのを一瞬遅れて理解した邪継舘散は影明に視線を向ける。


「おいッ!!影明ッ!!」


叫ぶが、声は暗闇によって吸収されていく。

異能領域内部で分断されてしまった事を、影明は察した。


「(なんだ、急に、邪継舘殿の姿が消えた…いや、これは…分断された)」


周囲には星空の様な闇が広がっている。

影明は迷う事無く、腰に携えた鏡刃を引き抜いて構えた。

分断されたと言う事は、単純に戦力を別たれたと言う事だ。

この状態であれば、相手が何をするのか、分かり切った事だ。


「(と、言う事は…玖式流ッ!!)」


影明は、自らに迫る魑魅魍魎に対して攻撃可能状態へと持ち込む。


「来いッ魑魅魍魎ッ!!」


影明が、技術を以て魑魅魍魎と応戦しようとした最中。

彼の意気込みは次第に萎んでいく。


「(…く、玖式、玖、式、流…)」


喉奥が熱くなっていき、影明は、背筋が凍る様な思いをした。

鼻の奥から臭って来る焼け焦げた様な臭いは、何かを思い出そうとしていた。


「(な、んだ、この、感覚…何か、知っている、俺は…これを)」


影明は喉を鳴らす。

自らの記憶の奥底から訴えかけて来る。


「(過去の記憶だ、俺の、村を滅ぼした…あの時の、記憶…がッ)」


思わず、頭を抑え込んだ。

影明は、この暗闇の空間の中で、何かが来ている事を理解した。


「(人、影?なんだ、これは、この、魑魅魍魎、は…)」


人の姿。

何処までも黒い長髪を生やした女性が、影明の視界に映る。


「 」


白い肌に、赤い唇が、開くと声を漏らした。

だが、遠くに居るのか声が聞こえない。


「(なんだ、何を、人影、何を、言って…)」


何を言っている、と思った最中。

人の姿が、一瞬にして、影明の目前に立ち尽くすと。


「 みつけた 」


口を開き、老若男女の声色を混ぜた様な合成音が耳元で囁かれた。

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