第17話
「(異能領域…魑魅魍魎が放つ、結界の事か…)」
噂で聞いた程度だが、存在事態は知っていた。
だが、実際に体感するのは初めての事だった。
緊張が走る影明に対して、逆に彼女は笑みを噛み締める。
「全く、歯応えなど無いと思っていたが、どうやら、少しは楽しめそうなやつが来たらしい」
邪継舘散は、暗闇の中、その様に言いながら鏡刃を引き抜いた。
影明も、その先に佇む相手を確認する。
其処には、黒い毛並みをした、群狼の姿が見えた。
「(黒色の…狼?これが魑魅魍魎かッ)」
影明は、先程の戦闘で群狼の群れの親玉であると思った。
邪継舘散は、影明が刀を構えた所を尻目に、彼に向けて静止の声を発する。
「貴様は其処で見ていろ、明らかに、この魑魅魍魎は貴様では実力不足だ」
彼女は、見るだけで実力を把握出来る。
今の影明では、この魑魅魍魎を倒す事は難しいと言った。
彼女の言葉に、影明はゆっくりと鏡刃を持つ手を緩める。
「(…邪継舘殿がそう言うのならば、そうなのだろう)」
今回は、邪継舘散に出番を渡す事にした。
動向を見守る影明、邪継舘散は周囲を見回す。
「(俺の生命力を…)」
影明は指鳴りを使って生命力を与えようとしたが。
「要らん、貴様の生命力は逆に酔う、不適切だ」
そう言われて、影明の生命力を拒否した。
この数週間、彼女が影明の生命力を吸った時に、酔った経験が悪しき事だと思っている。
だから彼女は、影明の生命力を摂取する事を否定した。
そう言われたのならば仕方が無いと、影明は思った。
「(逃げる事…は出来ない、異能領域では、逃げ道が塞がれている)」
異能領域は、魑魅魍魎が作り上げる世界だ。
自らが有利となる世界を作る為に、一度獲物を捕らえたら出られぬ様になっている。
影明は、肉体に纏わり付く粘りのある空気から、この状況下では自分の隠遁は意味を成さない事を察した。
「(同時に…俺の隠は意味を成さない、異能領域は即ち、魑魅魍魎の胎の中、手の上で踊っている様なものだからな)」
だから、影明はその場で、邪継舘散の動向を見守る事にする。
彼女は鏡刃を構えて、妖力を放出した。
「存分に遊んでやる…『雷霆煌琥』ッ」
一瞬、巨大な虎の様な紫電の線が浮かび上がったかと思えば。
彼女は鏡刃を自らの肉体に突き刺した。
「(肉体に、鏡刃を突き刺した…武将級の力を使う気だ、最初から本気かッ)」
刃がゆっくりと、彼女の体内へと入っていく。
一瞬の輝き、紫電が周囲に散っていったかと思えば、彼女の手の先から、三つの三日月の様な刃が出現した。
これが、彼女の武将級の融合体であるらしい。
「喰らえ…ッ!」
彼女は大きく腕を振り下ろす。
すると、三日月の刃の先端から、紫電が放たれた。
『
一撃必殺。
触れれば肉体を切断する雷の刃。
暗闇が朝日を迎えるかの様な煌きが開かれた。
「(凄まじい紫電の刃…ッ、周囲の闇を照らす程の一撃ッ!!)」
影明は、彼女の凄まじい攻撃を見た。
あまりの威力に彼は興奮を隠せない。
「(成程…異能領域は、この一撃で何とか逃れる事が出来るか、ならば、実力は其処まで強いと言うわけでないな、なら…)」
彼女の渾身の一撃ならば、何とか異能領域を脱せると認識。
群狼は、先程の斬撃を受けたが、肉体が粘液の様に蠢くと、地面に吸収されていく。
「ッ」
消えたかと思えば、邪継舘散の背後へと顔を出した。
「(背後から奇襲ッ、異能領域なら、何処でも顔を出せるのかッ)」
影明は背後に居ると声を出そうとした。
しかし、彼女は既に、魑魅魍魎の動きを知っているらしい。
「…ふん、その程度か、浅知恵だな」
彼女に牙を剥いて攻撃しようとした群狼の肉体が裂けた。
彼女の肉体は、既に多くの紫電が散っている。
『
肉体を雷に変換し、攻撃の回避と同時に雷の攻撃を行う攻防一体の構え。
この状態で彼女に攻撃しても、大した怪我にすらならない。
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