第15話

 

口を閉ざしながら肩で息をする影明。

そんな彼の姿を見て情けないと思っている邪継舘散。


「…おい」


膝ついている影明に対して彼女は彼を呼んだ。

彼女の声に反応しようとするが、疲れ切っているのか動くことができない。


「…ッ」


せめて彼女の声に反応するように手を挙げるので精一杯だった。

そんな影明の行動に対して彼女は冷たく言い放つ。


「膝を突いて、もう疲れたのか?」


影明を嘲笑するかのような口ぶりだった。

影明は何も言わない。


「…」


邪継舘散の言葉に甘んじて受け入れることしかできなかった。


「指鳴りを使えぬ程に衰弱しているのか…その程度で、良くも魑魅魍魎を殺せると宣ったな」


酷い言い方である。

それでも影明が反論しなかったのは、疲れ切っているせいではない。

全ては彼女の言った事が正論だったからである為だ。

だから、影明は反論を口にする事が出来なかった。


「…(返す言葉も無い)」


影明は項垂れていた。

やるせない表情をしている影明に対して彼女はため息をついた。


「手を出せ、肩を貸してやる」


彼女は影明に向けて手を伸ばす。

彼女は何も頭ごなしに影明を叱っているわけではなかった。

問題なのは影明の戦い方だった。


「…どれ程努力を重ねても、肉体には限界が存在する」


全力を尽くして化け物を殺す。

我武者羅な戦い方は凄まじい力を発揮する反面、冷静さを欠けた行為が多くなる為に、無茶な戦いの最中、命を落とす者が多かった。


「精神が幾ら強くとも、肉体はそれに付いては来れない」


復讐に燃える精神性は立派なものだがそれでは肉体の限界を迎えやすくなる。

そのことに関して彼女は影明に苦言を呈していたのだ。


「私が言いたい事は唯一つ、貴様は少し、急ぎ過ぎだ」


このままの戦い方をすればいずれは命を落としてしまう。


「もっと、自分の力量にあった戦闘を行うべきだ」


影明の戦い方があまり利口ではないと彼女は言った。

その言葉を影明は素直に受け止める。


「…(俺は少し焦っていたのか?…いや、ただ単純に、自分の成長を好ましく思っていた、伸びしろがあるからと、多少無理をしたんだ)」


自分の何がダメであったのかを即座に影明は反省した。


「(…いや、それは言い訳か、邪継舘殿は俺よりも実力が上…頭では否定しているが、俺はどうやら、早々に邪継舘殿と同等の位置に立ちたいと思っていたみたいだ)」


彼女の言うことは正しい。

それだけが影明にとっての救いのようなものだった。

強い人間から具体的なことを言われるとその通りにすれば強くなれると思ったためだ。


「(猛省しなければならない…邪継舘殿の言う通りだと)」


深く深呼吸をして心を入れ替える。

影明は彼女に向かって頭を下げると差し伸ばしていた手を掴んだ。


「ほら、足に力を入れろ、引っ張る、ぞッ?!」


彼女は腰を入れて影明を引っ張った。

その瞬間思っていた以上に影明の体は軽かった。

そのため影明の体は簡単に浮き上がり勢い余って影明の手のひらが彼女の片乳をつかんでしまった。


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