第14話

 

改めて、影明は思う事があった。


「(この人と一緒に任務をして、良かった事がある)」


魑魅魍魎の討伐。

今回は、多数の群狼だった。

人と同等の大きさをした狼は牙を剥くと影明たちに向かって走りだす。


「(それは無論、彼女が武将級としての力を見せてくれる事だ)」


邪継舘散は腰元に携えた鏡刃をゆっくりと引き抜く。

そして、迎え来る敵に対して、涼しい顔をしながら告げた。


「悪いな魑魅魍魎、少々、今の私は機嫌が悪い」


鏡刃から妖力が放たれたかと思えば、紫電が周囲に散った。


「その身、一片たりとも、残らぬと思え」


それは攻撃では無い、異能発動前の余波に他ならない。


「征くぞ『雷霆煌琥らいていおうこ』ッ」


叫び、異能を解放する。

それと共に、紫電が群狼たちに向けて放たれる。


「(これが、彼女の鏡刃…『雷霆煌琥』)」


紫電に触れるだけで、群狼の肉体が弾け飛んだ。

電気の塊を肉塊が受ける事で、爆発を生み出し内側から弾けたのだ。


「(雷を操る雷獣を討伐した事で、彼女の鏡刃に呪いが宿った)」


仕事をする上で、彼女の情報を教えて貰った影明。

その能力は実に破格、他の異能よりも上位に位置する能力だ。


「(紫色の雷電を司り、自らの意思で雷電を放つ事が出来る)」


群狼は成す術がない。

ただ向かい、敵に近付き、牙で敵を食い殺す。

遠距離、中距離、近距離、全てに置いて余念が無い邪継舘散の能力とは相性が悪い。


「(その威力は絶大…例え、どれ程強固な魑魅魍魎であろうとも…その肉を貫通する雷を放つ)」


百は居たであろう群狼の魑魅魍魎。

今では蜘蛛の子を散らす様に、逃走している。

本能が、彼女には逆らう事が出来ないと感じているのだろう。

それでも、彼女の攻撃を止めるべく、迫る果敢な群狼も居た。

直感と反射神経を駆使して紫電の落雷を回避すると、邪継舘散へと飛び掛かる。

隙を突いた攻撃だが、邪継舘散は平然としていた。

鏡刃を構えると、群狼に向けて一振りで切断する。

一切の焦りも慢心も無かった。


「(無類の強さだ…それに加えて、彼女の剣術も合わされば、先ず右に出る者は居ないだろう)」


未だ、勝てぬと分かっていても迫る群狼。

紫電と剣術を使い、邪継舘散は戦闘を続行する。


「(異能の方は今の俺には難しいが…彼女の動きはとても参考になる)」


その内、群狼の一体が、彼女の後ろを通り過ぎた。

影明の方へと近付いている、いや、群狼は見えていない。

ただ、彼女を過ぎ去り、そのまま逃げようとしているのだろう。

邪継舘散は、敢えてその逃走を見逃した。


「おいッ貴様ッ、そちらに魑魅魍魎が行った、そちらで対処しろッ!!」


影明の育成の為に、敢えて見逃したのだ。

そして、影明は気配を操作して、群狼が分かる程に生命力を出す。

群狼は、影明の生命力の匂いにつられた。

他の群狼も、影明に目を向けて、狙おうとしたが…邪継舘散がそれを遮る。


「(そして、手頃な魑魅魍魎を此方へと送ってくる…一応は、俺を教育しているのだ)」


影明と、群狼の一対一にする構図へと整えさせた。


「…ッ!!」


影明は、鏡刃を抜き放つと共に、玖式流を使役。

群狼の毛を裂いて皮に刃を突き刺して、肉体を切り裂いた。


「(彼女の教育に、少なくとも俺は応えなければならない、俺が、前線へと出ても大丈夫な程に力を付ける…それが、射累々様のご意向でもあるからだ)」


約束は守られている。

ならば、影明もその約束の為に、強くならなければならなかった。

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