第13話

 

邪継舘散は、影明を尻目に射累々天呼の事を思う。


「(まったく…お嬢様も子供らしい)」


まさか当てつけの様に影明を育てる様に言うなど、私情も良い所だった。


「(元より、私の心はお嬢様の為だけにある)」


幼少期の頃から、彼女は射累々天呼に忠誠を誓った身だ。


「(あんな男と、破廉恥な真似をした所で…お嬢様に誓った忠誠が消えるワケではない)」


彼女はそう思うが、普通に考えれば、気になる男子が他の女によって接吻や口移し、唾液交換などすれば、怒らない筈が無いだろう。

まして上下関係が築かれているのならば、処罰はもっと重くても良かった筈だ。

そう考えれば、射累々天呼は寛大だと思えるだろう。


「(そう、そうだ…ボロクズの様な、男など、さして興味など無い)」


再び視線を影明に向ける。


「(で、あるのに…こうして共にするだけで、何か、腹立たしく思う)」


心中は騒めいている。

それがなんであるかは彼女には分からない。


「(そうだ、この男は、私がこれ程までに、あの時の事を頭に悩ませているのに、何も考えていないのか、平然と会話をしようとしている)」


生まれてこの方、恋心と言うものを知らない。

それ程までに、邪継舘散は射累々天呼の為に尽くして来た。


「(それが腹立たしいのだ、私は、こんなにも貴様の事で頭がいっぱいで、他の仕事も疎かになっていると言うのに)」


何も考えていない影明の顔を見るだけで怒りが込み上げてくるのは、まるで己の事を意識していない様に見える為だろう。


「(全ては、この男のせいだ、お嬢様との関係も亀裂が入ったのも…全部、全部ッ)」


怒りが込み上げてくる。


「…?」


影明はそれを察して、指鳴りで彼女に伺う。

かちかちと音を鳴らして、その内容を彼女は解読した。


「ん、なんだ…『調子が悪いのか?』…誰の」


声が漏れる。


「?」


影明は未だ、首を傾げていた。


「誰のせいだと、思っているんだ…貴様は」


少なくとも、自分のせいでは無いと、影明は思った。


「…(誰のせい?少なくとも、体調が悪いのは、邪継舘殿の管理不足では無いのだろうか)」


彼女の気持ちなど、影明は理解していない。

だが、それを言えば、再び邪継舘散は不満を募らせるばかり。


「(しかし…それを言った所で、また空気が悪くなるしな…どういえば良いものか)」


頭を悩ませる影明の姿を見てもどかしく思う邪継舘散は、鬱憤を晴らす様に叫んだ。


「…ッ、くッ、貴様に聞いた私が愚かだった、もういいッ知らんッ!!」


影明はこの場合、どうすれば良かったのかを考えるが、やはり考えた所で、意味など無かった。

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