第12話
あの日の一件以来。
影明は正式に、射累々天呼の下で働く事になった。
と言うものの、他の隊員には未だ伏せられている。
少なくとも、影明が実戦投入するには、ある程度の実力が必要だった。
屋敷の片隅に小屋を建てられて、影明は其処に住む事になった。
敷地内に建てられた小屋だが、なんと、影明が前に棲んでいた小屋よりも広く、綺麗なので文句は一つも無かった。
その小屋で生活して早くも二週間程。
「おい…貴様」
日課の素振りを終えた影明に話し掛ける邪継舘散。
「(あぁ…邪継舘殿か)」
影明はばつが悪い顔を浮かべた。
その表情を見て、彼女は不満が残る顔をする。
「なんだその顔は…こっちは貴様の顔など見たくはないと言うのに…」
そう言い、彼女は影明の腕を掴んだ。
「さっさとこっちに来い…まったく…ッ」
これから、影明と邪継舘散は、仕事へと繰り出すのだ。
「(何時にも増して苛立ちを隠せないらしい)」
影明は、彼女の顔を見て辟易とした。
あの一件以来、彼女は頗る態度が悪いのだ。
「(それも当たり前か…あの時の事を引き摺っているのだから)」
あの一件。
影明の生命力が籠った吐息を吸った事で発情した事だ。
あれ以来、射累々天呼との関係も悪くなっていたらしい。
「(しかし…射累々様も大人気ない)」
影明は、そんな邪継舘散と共に仕事をする。
それは、射累々天呼の命令だった。
「(『そんなに邪継舘の方が良いのなら、二人で居れば良い』なんて言って…殆どの任務を俺と邪継舘殿にするなんて…)」
教育の一環で、影明の成長には邪継舘散が適任だったらしい事もある。
だが、はぶてている彼女の態度から、明らかに私情混じりの様に思えた。
「おい、早くしろ…次の任務に遅れるだろうが」
苛立ちを隠せない様子で、邪継舘散に急かされる。
「(邪継舘殿は、その事が気に入らないのか、俺に対するあたりも強くなっている気がする)」
影明は彼女の顔色を窺いながら歩く。
「(…まあ、関係性はこの際、仕方が無い事だろうが…)」
悪い事が多いが。
「(逆に、俺からすれば、この関係性は大変都合が良い)」
しかし、影明は彼女との仕事は決して悪い事では無かった。
「(なにせ、武将級の戦闘を間近で見れる)」
基本的に仕事は階級別に分けられる。
武人級ならば武人級の仕事。
武士級ならば武士級の仕事が割り振られる。
武人級で全滅すれば、武士級に繰り上げられる。
武士級が全滅すれば、武将級に繰り上げ…と言った具合だ。
応援や派遣は、基本的に滅多に無い事だった。
「(他の武人衆とは違い、武将級に守られながら経験を積めるのだからな)」
だから、彼女との仕事は少なくとも、影明の成長に繋がる事が多かった。
「(まあ、…本当の所、関係性が良ければ、それに越した事は無いのだが…)」
それ以上は過ぎた願いだと、影明は思っていた。
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