第27話 転生者ヨウコ

 アキトは外輪船に向けゆっくりと降りていく。すると作業員がアキト達の姿に気づき大騒ぎとなった。


 アキトは甲板に降りると、作業員達にマヒを打ち込み無力化したが、騒ぎを聞いた仲間達が武器を構え、船の中から出てきてその対処に追われることになる。


「結構いるんだね」


「あと80人居ますよ。頑張って下さい。転生者は機関室に居ます。この船のマップデータと転生者の位置をマーキングしましたので確認お願いしますね」


「うん。いつもありがとう、アーシェ」


 アキトは襲い来る作業員、兵士達にマヒを打ち込み次々と無力化して機関室への道を進む。機関室のドアの前に着くと、マップにはドア越しの壁に数個の赤い点が確認できた。きっとアキトがドアを開けた瞬間に襲うつもりなのだろう。


「くだらない・・」


 アキトはそう吐き捨てると、マップの赤い点目掛けてマヒを打ち込んだ。するとドアの向こう側で何か倒れたような物音がした。


 アキトがドアを開け機関室を進むと、動力部分を担当する箇所に一人女性がいた。


「ママッ!」


 アキトが抱きかかえてる子供が母親の姿を見て腕の中で暴れ始める。


「え?ユイト?」


 女性がこちらを向き驚いていると、近くに居た兵士が女性を背にした。


「この騒ぎはお前の所為か。何者だ!?」


「そういうの良いから。女性に枷つけて無理やり働かすってお前こそ何者だよ?ふざけんな」


 アキトは兵士に向けマヒを打ち込む。


「ぐっ!?あ、ぁ」


 兵士が倒れるのを見届けると、アキトはこの近くに動く赤い点が無い事を確認してからアキトは子供を手放した。子供は転生者のところに駆け出していき、その胸に飛び込んだ。母子は泣きながら相手を抱きしめ再会を喜び合っている。その様子を見てアキトは心が暖かくなった。


「まだ上に5人居ます。3人がこちらに向かって来ます」


「うん、ありがとう。急ぐね」


 アキトは転生者に歩み寄ると足についている枷を外した。


「とりあえずここから脱出します。いいですね?」


「助けてくれるんですか?」


「えぇ。とりあえずはここを出てからで」


「あ、待って下さい。どうやって貴方がここに来たのか分かりませんが、出来ることなら、この船を壊したいんです。こんな戦争に使うものなんか必要無い!」


「分かりました。とりあえず失礼しますね」


「え?」


 アキトは転生者を子供ごと抱きかかえると上空に転移した。


「え?え?えええ!?」 


 アキトは先程まで居た場所に火の魔法を転移させ火事を起こす。火は燃料に引火しあっという間に大火となる。


「火事を起こしました。乗組員はまぁ、運が良ければ助かるでしょう。浜辺まで10kmくらいだし」


「え?え?」


「とりあえず、安心して話せるところに行きましょう」




 アキトは転生者とその子供を保護し、浜辺の人が居ない場所に移動し、事情を説明した。


「今更ですが、初めまして。私はアキトと言いまして、隣の彼女はアーシェ。中央サークル王国と言う、ここからずっと北側にある国の測量士です。地図を作る仕事をしています」


「あ、初めまして。私はヨウコです。船を作らされていましたが、本職は服飾士です。この子はユイトです」


「で、まぁ一瞬で移動したり、空を飛んだりしたので色々ご存知かもしれませんが、私、それなりに特殊能力を持っていまして。実は貴方が戦争の準備の為に、子供を人質にされて無理やり働かされてるって事に気付きましたので、勝手ながらこうさせて頂きました」


「あ、はぁ・・」


「それで、人質を取ってまで無理やり働かされていたところを見ると、この国にいるとまた同じ危険な目に遭う可能性があります」


「はい」


「なので、もし良ければ、中央サークル王国に保護を申し出て見ませんか?」


「えっと、あの、その・・」


「そうですよね。貴方の都合もあるでしょうからゆっくり考えて下さい。アーシェ、フレアにお弁当頼んでアイテムボックスに入れてもらって。船に乗っていたし果実多めが良いかも」


「はい」


「私、どうしたらいいんでしょう?」


「私が出来るのは、ここから貴方達を中央サークル王国に移動させる事位です。ちなみにそこは日本人の転生者が作り上げた国で、子供が飢えることのない、安全な国を目指して作られています」


「日本人の、転生者?」


「えぇ。まだ私も王都位しか知らないんですが、ビルが立ち並び、機能的な町並みが揃えられていて、流通網が完備されているので食事も新鮮な素材を使っていて美味しいですよ」


「あ?え?あっと・・」


「良いんです。ゆっくりと考えて下さい。もう少ししたら食事も届きますから」


「はい、すみません」


 ヨウコは泣き疲れて寝てしまったユイトを抱きしめながら考え込んでいる。アキトは急かすことなく、その様子を見守り続けた。


「あの・・」


「はい」


「実は私、父と母も捕まっていまして。どこにいるのかも分からないんです。なので、この子だけ安全な場所に移動をお願いできませんか?」


「貴方はどうするんです?」


「父と母を探します。私がミシンを作ったばっかりに父も母も人質にされてしまったので、私達だけ逃げるなんて・・それにあの人の形見も家にありますから」


「ふ~む、他に捕まった人はいないんですか?」


「えぇ、他にはいません」


「ちょっと待ってて下さいね」


 アキトは少し離れると冒険者会員証をいじり、シリウスに連絡した。


「あ、度々すみません。アキトです」


「もう着いたんですか?」


「いえ、まだなんですが、更に二人増えても大丈夫ですかね?」


「えっ!?まぁ、それくらいなら大丈夫かと」


「ありがとうございます。今、悩んでいるみたいなので決まったらまた連絡します」


「分かりました。決まったら連絡下さい」


 アキトが振り返るとアーシェがテーブルとイスを出し、おまけにベッドまで出していた。テーブルにはお弁当を準備し、ヨウコに話かけていた。


「急にいろいろあって大変でしょうが、アキト様に頼れば問題はありません。まずはご飯を食べて元気になったほうが良いですね」


「すみません、ありがとうございます」


「アーシェありがとう。ガイアとディーヴァを呼んでくれる?」


「はい」


 一瞬の間が空き、ガイアとディーヴァが現れた。


「お呼びですか~アキト様~」


「何か御用なのです!?」


「ありがとう、ガイア、ディーヴァ。少しの間、この二人を守って欲しい」


「かしこまりました~」


「分かったの!お任せ下さいなの!」


「アーシェ。二人を助けに行くよ。場所わかる?」


「既にマーキング済みです」


「ありがとう。行くよ」




 アキトはマーキングに向けて転移した。そこは倉庫の上空だった。


「倉庫の地下に牢屋?そんな所にいるの?」


「えぇ、あそこは奴隷用倉庫みたいです」


「奴隷?」


「えぇ、この国は奴隷制度があるみたいですね。人権もないただの使い捨ての労力として」


「なっ!?・・」


 アキトが厳しい表情となる。そこにアーシェが追い打ちをかける。


「この国には現在16万人しか人口がいないのに約5万人もの奴隷がいます。さらに生活に困窮している奴隷候補は10万人います」


「・・そんなに?」


「原因は王とここの南の国です。南の国から入り婿で来た現王が民に重税を掛け、妻と王族、貴族を陰で暗殺し、奴隷を作って国外に流し自分のやりたいようにやっています。暗殺を恐れ、王に賛同した貴族は贅を尽くして民の生活を圧迫したのです」


「・・・・・・」


「駄目ですよ、アキト様。悪い王を退治すればハッピーエンドなんて甘いこと考えてませんよね?」


「っ!」


「王や貴族を全て殺して倉庫から食料を開放したとしても、困窮している人達が急に食べ物に困らなくなるなんて事はありえません。種を植えて育てて収穫してそこからやっと安定して食べられるようになるんです」


「・・・・・・」


「なら、その間、援助すれば良いんじゃないかって?誰が援助するんです?測量の仕事もほったらかしにして、アキト様が一人で15万人を支えるんですか?下手すりゃ収穫まで一年近くかかりますよ?15万人の食事が一日どの位必要か分かりますか?約150tから200tですよ?それを一年近くですよ?」


「う・・」


「そして、その援助を中央サークル王国に任せるのもおかしな話です。だってそれはアキト様がここの困ってる人達を助けたのではなく、アキト様が中央サークル王国に押し付けただけになりますから。下手すりゃ中央サークル王国も共倒れですよ?」


「あ・・」


「最悪なのは国を運営できる人がいないことです。もし、このままここの王達を皆殺しにすると、国として崩壊します。その流れについていけない農民は力のある農民、もしくは兵士達に同じように食い物にされるでしょうね」


「・・・・・・」


「そして、王を殺すと南の国が攻めてきます。ここの王が南の国と繋がっていて結託してこの国を食い物にしていますから」


「・・・・・・」


「正直、この国は詰んでいます」


 アキトはアーシェの非情な言葉に絶句した。



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