第28話 理想と現実
「・・なら、せめて子供達だけでも・・」
「アキト様。勿論、奴隷の中には子供もいます。しかしその親もいます。子供達が可哀相だから助ける。でも親達は駄目だ。それが通用しないのは分かりますよね?なら子供達の親もってなれば、残された人達はどう思うでしょうね」
「・・あーちゃん、どうしてそんな意地悪を言うの?」
「ここがアキト様の分水嶺だからですよ」
「え?」
「あの女の両親だけ助けるのなら、まだ中央サークル王国も気分良く4名の亡命を受けてくれると思いますし、アキト様も心残りが出来るでしょうが、測量の仕事を続けられます。そのうち、この国はいずれ西の国と戦争し、滅びるかも知れませんが、西の国の手が入ることで何年、何十年か後には国としてまともになって復活するでしょう」
「・・・・・・」
「ですが、王達を殺し、奴隷達を助けるとなると、その後の援助が必要です。ですが中央サークル王国で全てを賄うのは無理です。奴隷と困窮している人の数が多すぎます。更に南の国が攻めてきます。それを凌ぎ、南の国を何とかしようとしたら、今度は南の国の奴隷の問題も出てきます」
「・・・・・・」
「どうしようもないのが国をまとめることが出来る人がいないことです。その教育、育成にどれだけ時間がかかるか。そしてそれをアキト様は熟すことが出来ません。国政のやり方なんて知らないんですから当然ですよね?」
「・・・・・・」
「一番の問題は手を出したらもう引っ込められないことです。どんなにアキト様が苦しくても辛くてもやり遂げるまでは終われませんよ?この問題は困っている人達の命を助けて済む問題ではありません。心も助けなくてはいけないし、国も助けなくてはいけないんですから」
「うぅっ・・」
「下手するとアキト様が10年位この国に縛られます。測量なんてやってる場合ではなくなりますよ?そこまでして助けたいんですか?見も知らぬ奴隷達を」
「・・・・・・」
アーシェに正論を突きつけられアキトは思わず困惑する。困っている人を助けたい。でも難題が多すぎて、自分がどうすれば困っている人を助けられるのかが分からない。自分が情けなくて悔しくて涙が出てきた。思わず俯くとそんなアキトをアーシェが優しく抱きしめる。
「いいですか?アキト様。困っている人を助けたい。それは素晴らしい思いです。ですがその思いを貫くには自分を犠牲にしなきゃいけない場合があります。重荷を背負わなきゃいけない場合もあります。ですが、それだって限界があります。幾らアキト様が神であろうともね」
「・・うん」
アキトはアーシェを抱きしめ、声を殺して泣き続けた。
(折れちゃいましたかね?ですが、アキト様は助ける事ばかりに目が行き過ぎて、助けると言う事がどういう事かに気付いていません。ヒントは出したし、そこから推測出来る情報も沢山あるんですけどね)
(いざとなればゴリ押しだってあるし、禁じ手もあるんですが、まぁ、気付かないなら大失敗する前にここで引き返した方がまだましです。今は折れても、いずれこの経験を活かして成長してくれれば、それでいいですからね)
「とりあえず、あの女の両親を助けて連れていきましょう。待っているはずですので」
「うん・・」
「奴隷を見ると心がきついでしょう。両親にはマーキングしたのでここからガイア達のところまで飛ばすと良いですよ」
「分かった・・」
アキトが力を振るう。マップのマーキングが移動し、浜辺に移動した。
「じゃあ、浜辺に戻りますか」
「ねぇ、あーちゃん」
「はい?」
「俺、やっぱ諦められない。まだやるだけの事もやってないのに諦めたくない」
「・・じゃあ、どうするんですか?」
「中央サークル王国の国王様に何か良いアドバイスは無いか聞いてみる」
「ふむ。そうですか。なら浜辺経由で王国に帰りましょう」
「うん」
アキト達が浜辺に戻るとヨウコと両親が泣きながら抱き合っている所だった。
「ガイア、ディーヴァありがとう。何もなかった?」
「何もありませんでしたわ~」
「問題なかったの!」
「あ、父と母を助け出してくれたんですね。ありがとうございます!」
「おぉ、そういう事だったのか。本当にありがとうございます。助かりました」
「本当にありがとうございました。この子だけじゃなくユイトまで。もう会えないと思ってました・・うぅ」
「いえ、助けられてよかったです。それで娘さんにはお話したんですが、ここからずっと北側に中央サークル王国という私達がお世話になっている国がありまして、もし皆さんが良かったら、そこに保護を求めてみませんか?」
「え?・・」
「えっと、保護?」
「えぇ、慌てなくていいのでゆっくり考えてみて下さい」
「あ、あの!すみません」
「どうしました?ヨウコさん」
「もし私の自宅に飛ぶことは可能ですか?」
「えぇ、出来ますよ」
「なら、お願いします。あの人の思い出さえ取り戻せたらもう、こんな国に居たくありません」
「・・分かりました。一旦、家の上空に行って様子を見ながら家に入る感じでいいですか?」
「はい。お願いします。お父さん、お母さん。ユイトの事見ててね」
「あぁ、分かった」
「えぇ、行ってらっしゃい」
「では、行きましょうか。アーシェ」
「はい。マーキング済みです」
アキトはヨウコと手を繋ぐと転移した。
アキトとアーシェ、そしてヨウコがヨウコの自宅の上空に転移し、ヨウコの自宅を確認すると扉は破壊されボロボロの状態となった家が見えた。
「ど、どうして・・?」
「これは一体・・?」
アキトは周囲の様子を確認しながら降りていくと、ヨウコの目に涙が溢れた。
「私達が何をしたって言うのよぉ・・」
ヨウコの自宅は明らかに何者かに荒らされた跡があり、家具も破壊され、壁や床に穴が空いていた。ヨウコが茫然自失となりながらも自宅に入るもその様子を見て膝から崩れ落ち、動けなくなってしまっていた。
アキトは静かにこの惨状を引き起こした犯人に怒りを覚えながらもヨウコの夫の遺品を探す。
「ねぇ、アーシェ。何か大事な物は残ってそう?」
「見てみますね・・えっと、小さな写真が一枚なら、このあたりに・・あった」
アーシェが何かをつまみ、掌の上に乗せて見せてくれた。それを見てみるとブローチから外されたような小さな丸い写真だった。そこにはヨウコが赤ちゃんを抱き男性と並んで撮った写真だった。
「他はもう無い?」
「そうですね。残念ながら」
「そうか・・」
アキトはヨウコに振り向くと
「ヨウコさん。残念ながら、これしか無さそうです」
茫然自失となっているヨウコにその写真を見せる。ヨウコはその写真を大事そうに両手で包み抱きかかえると号泣し始めた。すると隣の家から痩せた女性が玄関口に現れた。
「ヨウコさん、無事だったのかい!?」
「え?あ、ぐずっ、ナタージャざん・・」
「これね、なんかね、兵士達が来て家探ししていったのよ。証拠品だって言って明らかに金目の物ばっかり持ち出して・・」
「・・ぞう、でずか・・」
キョロキョロと周囲を気にする隣の家の女性。するとなにかに気付いたのか驚いた表情となる。
「っと!早く逃げな!兵士が来るよ!」
と小声で言い放ち、隣の家の女性はさっと自宅に逃げ込んだ。しばらくすると兵士が二人ヘラヘラとした調子でやってきた。
「隠されたお宝はあるかなっと、ん~何だお前ら。泥棒かぁ?ちょっと来てもらおうか」
「あれ?この女・・おい、ちょっと顔を見せろ!」
兵士がヨウコを掴もうと手を伸ばした瞬間、アキトがその兵士達を魔法で吹き飛ばした。
「本当にもう、何でこんな奴らばっかり・・」
アキトはヨウコの肩に触るとそのまま浜辺へ転移する。
「お?なっ、どうしたヨウコ!」
「何があったの!?」
「おどうざん、おがあざん・・うわぁぁぁぁ」
両手を胸に抱えながらしゃがみ込み、号泣するヨウコを見て困惑する父と抱きついて何とか慰めようとする母。アキトは何も出来ずただ見ていることしか出来なかった。
しばらくして幾分落ち着いたヨウコが両親に何があったかを説明すると両親は肩を震わせながら落ち込んでいた。
「そうか、あいつらの中では俺達はもう死んだ事にされてたんだな」
「元々ろくでもない奴らと思っていたけど、泥棒までとはねぇ。もう終わりだね、この国は」
「アキトさん、すみません。私達を中央サークル王国で保護してくれませんか?」
「はい。アーシェ。ブレンシアってとこマーキング出来る?」
「既にマーキング済みです」
「ありがとう。ディーヴァ、ガイアもありがとう。俺達ちょっと王国行ってくるから先に戻ってて」
「分かりましたわ~」
「はいなの~」
ディーヴァとガイアがテーブルとイスを片付けて転移していく。
「じゃあ、すみません皆さん。このベッドを触って下さい」
アキトはユイトが寝ているベッドにヨウコとその両親が触れたのを確認してからブレンシアに転移した。
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