第二章

第26話 中央大陸

 新世界儀にシステム移行した次の日。アキト達はリビングで測量について相談していた。


「今日はどうするんですか?」


「シリウスさんから金山の測量はお願いされているんだ。で、ついでに南東の海域の測量範囲も広げようと思ってる。でも転移で行けばそんなに掛からず終わると思うから、昼には戻ってくるつもり」


「ふむ。海域の測量も確かに必要ですが、この国が南東の大陸といずれ交易するとしても海路ではなく空路になるでしょうね。その方が早いですし、やはり大海蛇の脅威はこの国の冒険者達からすると大きいですので」


「海域の測量はあんまり必要ない?」


「地図の完成には必要ですが、今の所この国と南東の大陸がどの位離れているかを目で確認出来るぐらいの意味しかないですね。あとは海流の向きと危険海域の場所くらいでしょうが、そこまで漁船を出してる訳ではないですしね」


「ふむ」


「むしろ、この大陸の形と文明圏がどこに存在するのかを示したほうがこの国には有益でしょうね」


「じゃあ、転移で飛んで金山近辺の測量。その後まっすぐ海域を転移しながら測量し、そのままこの大陸の海岸線を測量って形が良いのかな?」


「えぇ」


「なら、そうするね」


「はい。じゃあ行きましょうか」


「うん」


「「「「「いってらっしゃーい」」」」」




 

 アキトとアーシェは金山に転移した。測量範囲が広がったお陰で、転移しただけで以前ぐるぐる回って測量した範囲をあっさり超えた情報を王国に齎した。


 そこからアーシェが自宅まで200km置きに並べたマーキングを追ってアキトがマップ転移を繰り返した。王国から金山までのまっすぐな海域の、団子のような形の測量をアキト達は自宅を出てから10分で終わらせて帰ってきた。


「よし。じゃあここからこの大陸を測量だね」


「えぇ。南西方向から向かい、海岸線を視点転移を繰り返すだけです。この大陸を中央サークル王国は中央大陸と呼称してますが、確かにアキト様達が拠点を持つこの大陸は中央大陸と言って間違いないでしょう。また、この世界で一番大きい大陸がここです」


「一番大きいんだ?測量大変そうだね」


「海岸線を回るだけで14万km近くありますから」


「14万km!?」


「なので数日に分けたほうがいいですね。観光しながらって感じで」


「そうだねぇ。でも14万kmって元の世界3周半位だよ?そんなに大きいの?」


「まぁ、そうですね。海岸線が入り組んでいる場所もそれなりにあるから、というのもありますが、単純にこの大陸が大きいんですよ」


「そうなんだ」


「ちなみに中央サークル王国は中央を名乗っておきながらこの大陸では東端です」


「それはやめたげてよぉ」


 アキト達は自宅から海岸線を南西方向に測量を開始した。転移で飛んだ後マップを確認し、気になるポイントがあればアキトがアーシェに質問し、アーシェがアキトに説明。その後転移すると言った感じでゆっくりと進めた。


 たまに、黄色い点が沢山集まってる場所や海の中に黄色い点が見えることもあった。


「やっぱり漁村が結構あるね」


「まぁ、そりゃ海岸線を測量してれば、ほぼ漁村だとは思いますが・・」


「違うって。人が結構いるんだなって事」


「やはり、モンスターが多い世界ですからね。モンスターの生息域となる山や森の近くは危険ですから。生活圏を増やそうとして森を開拓する国王達みたいな人もいれば、危険を避け比較的安全な場所に逃げる人も居ます。海側に逃げるのも当然といえば当然かもですね。海のモンスターは巨大化しやすいので浅瀬には来ませんし」


「そうなんだね。まぁ、確かに農民のステータスを見たらモサイノシシ一匹でも出たら危険だしね。分かるような気がするよ」


「この世界は転生者が多いですからね。やはりそこを上手く扱える国王達は開拓するのには圧倒的に有利ですね。転生者達もモンスターを退治して、開拓して綺麗どころに言い寄られれば悪い気もしないようで、なんだかんだと国王側の良い様に使われてますしね」


「まぁ、うん。分かる気がする・・」


「家族が増えれば大黒柱は稼がなきゃいけないですからねぇ。ね?大黒柱様」


「世知辛い世の中だよね・・」


「さぁ、さぁ。それならお仕事頑張りましょうね。どんどん先に進みますよ」




 アキトはその後も転移を繰り返し測量を続けた。すると中央サークル王国から南にかなり離れた場所の海の中に蒸気外輪船を発見した。


「え?あれって外輪船?初めて実物みた」


「ふむ・・どうやら開発者は転生者のようですね。なのにスクリューを開発せず効率の悪い外輪船ですか。何やらありそうですね。どうします?関わりますか?」


「あーちゃんがそう言うってことは何かあるんでしょ?」


「良いんですか?本当に関わりますか?」


「何、脅さないでよ・・なんか理由があるんでしょ?聞かせてよ」


「まぁ、簡単に言うと、転生者が国に人質を取られて仕方なく外輪船の開発に協力しているってことです」


「え?外輪船の開発の協力ってのはともかく、人質ってどういう事?」


「戦争に使うために船が川を登れるように改造しているのが開発の理由ですね。ですが、開発者本人は本当はそういう開発はしたくないそうです。女性ですしね。拒否したところ人質を取られました。ちなみに人質はその転生者の子供。夫を亡くし、生活のために足踏みミシンを作ってしまったのを国にバレたのが今回のきっかけですね」


「子供を人質に?・・戦争ってどことするつもりなの?」


「ここから更に西の国ですね。ちなみにそこも転生者が王となり新しい国を興そうとしている所で、現在、国中が荒れています。王は中央サークル王国と同様、無辜の民を助けたくて王になろうとしてますね」


「成る程。他国のごだごだに紛れて領土を増やすつもりなのか・・だけど子供を人質ってのが気にいらないね」


「アキト様、言っておきます。アキト様が介入し転生者とその子供を助けたとすると、確かに戦争抑止の一助とはなります。ですがこの国の王は西の国の侵略を諦めません。ですので、いずれ戦争は起きます」


「戦争は止められないってことね。ならその転生者と子供を助けてもいいよね?」


「そこはアキト様の思うがままで」


「決めた。助ける。でも受け入れ先を決めなきゃ。シリウスさんに先ず電話を・・」




「はい、ギルドマスター・シリウスです」


「すみません、シリウスさん。アキトです」


「おぉ、アキト様。どうなさいました?」


「保護して貰いたい人がいるんですが、今の私の位置分かります?」


「あ、すみません。少し移動するのでお待ちを・・」


「・・・・・・」


「って、お待たせしました。随分南に行ったんですね?」


「えぇ、この大陸の形と文明圏だけ、まず調べとこうと思いまして」


「成る程、ありがとうございます。で、保護したい人とは?」


「マップの私の居る所に国があって、そこにいる人なんですが、どうやら転生者のようなんです。その人とその子供を助けるつもりです」


「なるほど。では、申し訳ないんですが王都の南300kmにあるブレンシアと言う都市の入口に感染対策の施された隔離施設があります。保護し終えたらそちらに運んで頂きたいのですが。到着したら私もアーミラを連れて向かいますので」


「分かりました。ここまで話を進めといて何なんですが、まだ本人達の確認を取っていないので、確認が取れたら連れて行ってからまた連絡しますね。では」


「えっ!?」





「・・アキト様。信念を持ったのは喜ばしいですが、遠慮なく周りを振り回すようになりました?」


「まぁ、助けてから連絡でも良かったかも知れないね・・」


「まだまだですねぇ。とは言え、助けたい人数とタイミングにもよるでしょうから、そこはとやかくは言いません。で、どちらを先に助けるんですか?」


「子供。牢屋の中に入れられてるなんて可哀相だ」


「なら、この国の王城の地下牢屋です。子供なので見張り兼保母が付いています。マーキングしました。マップ確認して下さい」


「分かった。行くね」


 アキトは牢屋の中に転移すると3歳くらいの男の子が一人、下を向きながら静かに泣いていた。アキトはその子供を抱きかかえるとすぐにまた転移した。


「え?えええ?何これ!ここどこ!?怖いよぉ!」


「あ、大丈夫だよ。暴れると危ないからね」


「うわああああん!ママァ!ママァ!」


「アキト様・・やっぱり母親の方を先に・・」


「ごめん。ねぇ僕、泣かないで。お母さんのところに行こう?」


「え?ママ?」


「うん、でも泣いて暴れると、ママのところに行きづらいんだ。お利口さんに出来る?」


「本当にママに会えるの?」


「うん、お兄ちゃんが連れて行く。約束する。だから泣かないで」


「・・うん」


「アーシェ、母親はどこ?」


「あの外輪船の中です」


『アキト様、逃げられないように足に枷をつけられています。だから先程の子どものようにいきなり転移しないで下さいね』


 久しぶりに頭の中にアーシェの声が響く。その内容にアキトの心に怒りの炎が灯る。


「・・分かった。良いかい?僕、これからあの船に向かうね。そこにママがいるんだって」


「本当?」


「うん、だけどママを助けるためだから、その間、静かにしてくれる?」


「うん」


「行くよ」


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