閑話 フィーとリーと一緒にお出かけ

 新世界儀の設置まで王国側の準備を待つだけとなったアキト達は以前からアキトの希望だった海中散歩に出かけることとなった。


「いや~楽しみだ。あ、でもフィーとリーどうしよう?」


「留守番で良いんじゃないでしょうか?」


「そうにゃあ。万が一、人間に見つかると面倒にゃあ」


「う~ん・・ねぇ、あーちゃん。人が居ない場所で海中散歩できそうな場所ってある?」


「まぁ、沖に出れば幾らでも」


「いや、なるべくモンスターが居ない場所で。出来れば怖がらせたくないかな」


「ふ~む。ちょっと待ってくださいね」


「うん、お願い。出来れば、あの子達にもいろんな楽しい経験させてあげたいんだ」


「アキト様の言う条件に沿う場所を見つけましたよ。無人島でモンスターが少ない場所がありますね」


「無人島?いいねぇ。じゃあそこで。フィーとリーを呼んでくる」




 アキトはフェアリーの部屋に行くとフィーとリーを呼ぶ。


「かみさま。かみさま」 「かみさま。かみさま」


「フィー、リー。今日はお出かけするよ」


「おでかけ。おでかけ」 「おでかけ。かみさま」


「うん。今日はみんなで海に行くんだよ。お魚さん見に行こう」


「みんな。うみ?」 「うみ?さかな?」


 初めて聞く言葉にフィーとリーは並んで首を傾げる。アキトはフィーとリーのその行動が可愛くてつい笑顔になる。


「そう。でも危ないから俺の側にいるんだよ?」


「うん。かみさま」 「かみさま。うん」





 そんな感じでアキト達が向かったのはあーちゃんお勧めの無人島のモンスターの少ないエリア。そこには遠浅の海岸が続いており、海のモンスターの生息域を避けた小魚が集まるエリアだった。


 生まれて初めて見る海にフィーとリーは既に興奮気味であった。アキトの周りを飛び回りながらも視線は光を反射しキラキラと光る水面に固定されていた。


「おおきい。いけ」 「いけ。きらきら」


「そうだね、大きいね。さぁ、フィー、リー。海に入るからね」


「では~まいりますね~」


「フェアリー達がどう動くか分からないので念の為広めにしておきますね」


「ガイアは道を作るの」


「みんなありがとう」


 ディーヴァとアウラが協力してエアドームを作り、ガイアが道を作り、アキト達は海の中を歩いて進んでいく。


 海の中ではガイアが珊瑚や海藻が豊富な場所を避け、曲がりくねった遊歩道を作成した。目の前には色とりどりの珊瑚や海流にゆれる海藻の森、そこに隠れ住む小魚達の姿が見える。


「あの動いているのがお魚さんだよ?」


「おさかな?おさかな?」 「おさかな?おさかな?」


「そう、お魚。いっぱいいるね」


「おさかな。いっぱい」 「いっぱい。おさかな」


 更に先に進み、海深5mくらいになると、揺れる水面が差し込む光を踊らせ、色とりどりの小魚達が群れをなして泳ぎ、幻想的な光景を見せるようになる。フィーとリーは興奮してエアドームの中を飛び回るようになった。


「ふふ、フィー、リー。危ないからね。俺のそばを離れないでね」


「うん。かみさま」 「かみさま。うん」


 時折、現れる50cm位の大きめの魚を見てフィーとリーは


「おさかな。おおきい」 「おおきい。おさかな」


と驚き、海底にいる大きいエビやカニを見ては


「おさかな。こわいの」 「こわいの。こわいの」


おののく。


 フィーとリーが怖いと言ったものは、フィーやリーに気付かれないようにアキトがニコニコしながらも、うちの子になにしてくれとんじゃあ位の勢いでこっそり捕獲しアイテムボックス行きとなった。


「俺さ、こういう水族館みたいなのんびりとした感じ、実は好きなんだ」


「そうなの?じゃあ時々来ましょうか?」


「うん。ありがとうエリ。エリは楽しめてる?」


「ふふっ。勿論よ」


 2時間くらい掛け、ゆっくり海底を散歩し戻ってくると、フィーとリーは驚き疲れたようでアキトの頭にしがみつきそのまま眠ってしまう。


 アキトが歩くとフィーがずり落ちてきてアキトはあわててキャッチする。


「???」


「ごめんね。寝てていいよ」


 アキトは左の掌を上にしベッド代わりにすると、フィーはすぐにスヤスヤと寝てしまう。エリに頭の上のリーを取ってもらい右の掌に乗せてもらう。


「次は両胸にポケットが付いた服か、肩掛けのおんぶ紐みたいなのを準備すべき?いや歩く振動がこの子達には大きいよな?となると、浮かぶベッド・・いや俺が飛べば良いのか。ならやっぱり両胸にポケットが付いた服か肩掛けのおんぶ紐を準備しよう」


 アキトは空中を数十cm浮いた状態で砂浜のキャンプ地点に戻る。アキトの掌の上で寝ているフィーとリーは見ていると可愛いが、両手が塞がったアキトは何も出来なくなり、皆がテキパキとバーベキューの準備をしているのを見ていることしか出来なくなった。


「アキト様、海鮮バーベキューの準備が出来ましたよ~」


「うん、ありがとう。ごめんね、何も手伝わなくて」


「いえいえ。ささ、アキト様。フィーとリーはこの上に寝かせましょう」


 アキトが振り向くとそこには土の壁の小屋があり、その中には丸い台座にヤシの葉を何層も重ねたベッドがあった。


「ガイアかな?ありがとうね」


「この位お安い御用なの」


 アキトはゆっくりフィーとリーをベッドに寝かせるとバーベキューに参加した。


 こちらの世界に来ても日本食にこだわる国王様達が転移システムを利用し海産物も新鮮なまま王都に運ばせていたこともあって、既にアキトもエビやカニ、刺し身を食べる機会はあり、それはとても美味しかった。


 しかし、やはり獲れたての大きいエビやカニの浜焼きには敵わない。アキトは焼き上がったカニの足やエビの身にかぶりつくと口内に広がる旨味の暴力にもだえた。


「あ~、やっぱりたまんない。定期的にエビやカニを仕入れに来るべきかもしれないね」


「確かに美味しいわね。それもありかも知れないわ」


「お任せ下さい~。アーシェ、後でマップデータ下さいな~」


「は~い」


 そんなこんなでアキト達がバーベキューを楽しんでいるとフィーとリーが起き出してきた。


「かみさま。ごはん」 「おいしい。ごはん」


「お?おはようフィー、リー。今、準備するね」


 アキトは小さな皿を2つ作りだすと、アイテムボックスの中から蜂蜜を取り出し皿の上に垂らす。そしてその皿をテーブルに乗せる。


「はい、どうぞ」


「かみさま。ありがと」 「ごはん。ありがと」


「いっぱい食べるんだよ」


 フィーとリーはお腹が空いていたのだろう。かなりの勢いで蜂蜜を手で掬い舐め始めた。


「この子達はやっぱり俺達と同じものは食べられないんだよね?」


「無理ですね。体の構造が違いますから。草食動物に肉食えって言ってるようなものですよ?」


「そうか~。まぁ仕方ないか」




 アキトは食事を終えたフィーとリーと共に浜辺を散策した。アキトは砂浜に落ちていたピンク色の貝殻を拾い掌に乗せるとフィーとリーに見せる。


「これね、貝殻って言うんだよ。綺麗だね」


「かいがら?きれい」 「きれい。きれい」


「欠けもないし、これお土産にしようか?海に来た記念に」


「おみやげ?おみやげ?」 「おみやげ?きねん?」


 アキトはもう一枚綺麗な貝殻を探し、形の良い黄色い貝殻を見つけ出した。


「これもお土産にしようね」


「うん。きれい」 「おみやげ?きれい」


「お、やどかりだ。フィー、リー。これ見て、やどかりっていうんだよ」


「やどかり?やどかり?」 「やどかり?やどかり?」


 アキトがフィーとリーにいろいろ教えながら散歩をしているのを後ろからついていくエリ達が微笑ましく見ていた。


「アキト様はあの子達が可愛くて仕方ないんでしょうね」


「そうね。あんなに優しい表情になって・・ふふふっ」


「そうなの。アキト様が心穏やかでいられるのなら、あの子達を拾ったのは正解なの」


「まぁでも、あんなの見せられると羨ましくなっちゃうにゃあ」


「確かに~。羨ましくは感じてしまいますね~」


「私達もそのように愛して頂けるよう尽力するのみです」




 そんな穏やかな時間が過ぎ、陽が傾く頃にアキト達は帰宅した。


「かみさま。ありがと」 「たのしい。ありがと」


「そう?あっ!これお土産ね」


 アキトは先程のピンク色と黄色の貝殻をフィーとリーに渡す。


「ありがと。おみやげ?」 「おみやげ?ありがと」


フィーとリーはそれぞれお土産を抱きかかえながらぴゅーっと部屋に戻っていった。


「しかし楽しかったなぁ。みんなありがとう」


「うふふ、そうね。みんなありがとう」


「良かったにゃあ。あたい達も楽しかったにゃあ」


「えぇ。新鮮な魚介類は美味しかったですね」


「またいつでも~お声がけ下さいね~」


「楽しかったの!また行くの!」


「アキト様。今度、あの無人島をリゾート地として改造しましょうか?近くにあの場所の存在を確認している国もありませんし」


「そうなの?なら、手つけちゃおうか」


「はい。いろいろ計画立てますね」


「うん」




 その頃フィーとリーは巣箱に貝殻を持ち込み、部屋の隅に貝殻を飾った。


「きれい。うれしい」 


「うれしい。たのしい」


「りー。たのしい?」


「ふぃー。うれしい?」


「うん。うん」 「うん。うん」


 フィーとリーはお互い顔を見合わせにっこり笑うとお土産話に花を咲かせたのであった。









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