第25話 新世界儀を設置しましょう

 新世界儀を設置する日。リビングでは7人とフィーとリーがのんびりと朝食を摂っていた。3ヶ月も一緒に暮らしているとフェアリー達もテーブルの上に座り、皆と一緒の時間に食事をするようになり、皿から蜂蜜を手ですくって舐めるようになっていた。アキトはさっさと自分の食事を終わらせ、そんなフィーとリーの様子を目を細めにっこにこな笑顔で見ていた。


「フィー、リー。今日は俺達お仕事だから、エリと一緒にお利口さんで留守番してるんだよ?」


「うん。うん」 「うん。おみやげ?」


「お土産欲しいの?何が良いかな?」


「おいしい。おいしい」 「おいしい。おみやげ?」


「そっか。何かあるか探してみるね」


「うん。うん」 「うん。うん」


 そんなアキトとフェアリー達の会話を暖かく見守る女性陣。フェアリー達は食事が終わると魔法を使って自分達の手を綺麗にするとアキトに向かって手を振った。


「おしごと。ばいばい」 「ばいばい。かみさま」


 そしてぴゅーっと部屋に戻っていった。


「大分、俺達の生活に慣れてきたみたいだね。あんな小さな手でバイバイだなんて、うちの子達可愛い」


「アキト様、親ばかですねぇ。お土産どうするんですか?」


「あーちゃんに教えてもらったジャックブレイブビーの蜂蜜を後で取りに行ってくるよ」


「蜂蜜だってそんなに種類がある訳じゃないんですから。いずれネタ切れしますよ?」


「は~い。じゃあ、さてそろそろ時間だね。行こうか。エリ留守番お願いね」


「「「「「「はい」」」」」」




 アキト達はまず王宮に転移した。


「おぉ、アキト様。そして皆様、おはようございます」


「おはようございます。早速ですが設置していきますね」


「はい、お願いします」


 アキトが王宮の設置場所の前まで歩き、アイテムボックスから先ず台座を出し、向きを気にしながら設置した。そして新世界儀を出すと、台座より2mほどの高さに合わせる。そして(浮け、その位置から動くな、壊れるな)と念じながら手を離すと真っ黒い新世界儀が台座の上に浮いた。


「おぉ」


「わぁ」


「アーシェ」


「はい。座標登録開始します」


「国王様、王妃様。この新世界儀は座標登録が始まりました。1時間したら王妃様のアーカイヴをリンクさせて下さい。冒険者ギルドでの調整が終わり再測量が開始されれば反応があると思います。そして王妃様が使いやすい正面、下側に中央サークル王国の表示が来る予定ですが、調整が終わってみないと何ともなので後日様子を見に来ますね」


「はい、ありがとうございます!」


「では、商人ギルドに移動しますので失礼しますね」


「はい、ありがとうございました~」


 アキト達はそのまま商人ギルドに転移した。


「あっ!おはようございます。今日はよろしくお願いします」


「おはようございます。王宮はもう設置してきたので同じように設置していきますね」


「はい、お願いします」


 アキトは王宮と同じ手順で作業を行い、アーシェに座標登録を行ってもらう。


「既にこの世界儀の座標登録は始まってますので、このまま様子を見て下さい。私達はこの後、冒険者ギルドに行ってもう一つ新世界儀を設置したら予定通り動きます。その後、再測量によって地図も広がり出すと思うので、それからなら商人ギルド会員証の更新をして構いません。もし表示位置がおかしかったら後で直しに来ますので確認お願いしますね。」


「はい、ありがとうございます」


「では」


 そしてアキト達は冒険者ギルドに転移した。


「お待ちしてました。どうです?順調ですか?」


「えぇ、王宮と商人ギルドの新世界儀はもう座標登録が始まってるので、ここもさっとやっちゃいますね」


「えぇ、お願いします」


 アキトは既に手慣れたと言ってもいい感じに新世界儀を設置し、アーシェが座標登録を開始した。


「座標登録開始しました。これで座標登録さえ終われば3つの世界儀がリンクします。そうしたら後は手順通りに」


「そうですか、ありがとうございます。お待ちの間お茶などどうでしょう?」


「ありがとうございます。ですが、私はこの待ち時間にちょっとだけ用事があるので、少しの間、席を外します。すぐ戻りますね」


「あれ?何かトラブルでも?」


「いえ、私用です。本当すぐ戻りますから。アーシェお願いね」


「はい」


 そうしてアキトは前もってあーちゃんがマーキングしてくれたジャックブレイブビーの巣に蜂蜜を採りに行き、アキトがジャックブレイブビーに集られながらも何とか巣の一部を頂くことに成功した。


 そして座標登録開始から1時間後。


「アキト様。座標登録終了しました。ギルド会員証の更新お願いします」


「うん、分かった」


 アキト、アーシェ、フレア、アウラ、ディーヴァ、ガイアの6人がそれぞれギルド会員証の更新を行う。


「うん、OKみたいですね。じゃあ手順通りにお願いします」


「はいなの。じゃあ、北から東方面行くの」


「あたいは東から南方面にゃあ」


「私が南から西方面ですね」


「私は西から北方面ですわね~」


「俺はアーシェと国境沿いを回るね。じゃあ各自行動を!」


「すみません、アキト様お願いします」


「はい。じゃあ、シリウスさん行ってきますね」


 アキトはそう言うとアーシェとともに自宅の山脈の上、15km程の高さに転移する。


「ここから国境沿いにぐる~っと4万8千kmの旅か。あーちゃんお願いね」


「お任せ下さい」


 そう言うとアーシェは正面からアキトに抱きついた。


「ちょっ!」


「いいじゃないですか、二人っきりなんですから。でも仕事中ですからね?我慢して下さいね」


「・・・・・・」


 アキトは無言でアーシェを抱きしめると空を飛び始める。三ヶ月の合間に訓練を行い自分の能力を次々と開花させていったアキトは既に独力でマッハ10で飛行できる様になっていた。


 新世界儀の設置により新システムに移行したこともあって、本来飛ぶより転移での測量の方が圧倒的に早く、楽なのだが、アキトはアーシェに話があるためわざと空を飛んでいた。アーシェもそれを理解し黙ってアキトに抱きついている。


「しっかし、この国は大きいよね。ただ国境線を回るのだけでも大変だ」


「そうですねぇ。それだけ彼らが努力し、国民に認められたということでしょうね。幾ら転生者が多い国と言っても、力ずくだけではこれだけの国を維持するのは大変ですから。やはり彼ら5人はかなりのやり手なんでしょうね。しかも彼らはフットワークも軽いですしね」


「そうだね。真似できない部分は多いけど目標にさせて貰ってるよ」


「・・そうですか。アキト様はいずれ主神となられるのですから、下っ端の神様の管理ぐらいはお願いしたい所なので、出来れば全部真似して欲しいのですが」


「うん・・それでね、あーちゃん」


「なんですか?」


「俺さ、国王様達みたいに、何かを管理するとか、皆が幸せになれるような仕組みを考えることなんて、まだまだ全然出来ないけどさ・・」


「はい」


「それでも、こんな俺でも、もうフィーやリーみたいな困っている子達を助けることぐらいなら出来ると思うんだ」


「・・そうですね」


「でも、それが出来るのはエリから貰った力のお陰だし、あーちゃんがいなければ、どこで誰が困ってるなんてことも分からないし、俺自身の力じゃ結局成し得無い事だって事も分かってるんだ」


「困りましたね・・いずれ主神として宇宙を管理される立場となられるのにそんな弱気では」


「・・うん、ごめん。でも、それでも俺、フィーやリーみたいに困っている人達を助けたいと思ったんだ。例え借り物の力と知恵だったとしても、困っている人達を見捨てたくないし、助けてあげたいんだ」


「・・そうですか」


「でも俺がこうしたいって決めてもさ、結局はあーちゃん頼りになるから、みっともないし、情けないかもだけど、それでも今後あーちゃんをそういった我が儘で振り回すことがあるかも知れないから・・ごめんね?先に謝っておくね」


「・・何故、今そんな告白を?」


「うん、俺、自由にしていいよってこの世界に来て、正直何をどうして良いのかなんて分からなかったんだ。でも、やっとやりたいことが見つかったから、その決意をあーちゃんだけには知ってて貰いたかったから・・かな?」


「そうですか。はぁ、もう本当に・・何かと思ったらまさかダメ男宣言とは」


「え?え?」


「仕方ないですねぇ。そりゃ勿論?私はアキト様の秘書ですので?永遠にお側にいてお手伝いさせて頂きますよ?嫌とは言わせませんからね?」


「うん!」


「ですが、その事はエリミナーデ様や4従属神様達にも伝えて下さいね?フィーやリーのように王国に渡せない者達を助ける時に彼女達の援助も必要になるんですから」


「うん!」


 アーシェはアキトを抱きしめる力を少しだけ強くし、アキトの胸に顔を埋める。


(全くアキト様ったら私がいないと駄目なんですねぇ。とは言え、ようやく完全に魂が前を向くようになりましたね。これで一安心です。後は魂を修復し、少しずつ魂の強度を上げていくだけ・・)


(しかし困っている人達を助けたいとは流石、慈愛の神と言ったところでしょうか。やっぱり、そうなるようになっているんですね。まぁ、それはともかく勿論、私のことも拾い上げてくれるんですよね?待ってますよ)




 それからアキト達は5時間掛けて中央サークル王国の国境周辺の測量を終えた。


 4従属神達は転移で再測量を行い、市や街の重要な部分だけの転移システム近辺を開放し、途中からアキトとアーシェが合流して効率を更に上げた。


 冒険者や商人は王都や王都近辺の再測量を行い、夕方には国内の主要な転移システムの開放とまだらながらも半分ほどの国内の再測量が完成した。


 アキト達が本日の仕事の終了を報告しようと冒険者ギルドに訪れるとシリウスが世界儀の前で待っていた。


「お疲れ様です。いや~、ありがとうございました。とりあえずこれで必要最低限の流通網は確保出来ました」


「いや~良かったです。ところで世界儀の方に不具合とかなかったですか?」


「今のところはないですね。ただ、やっぱり大きくなった上に効率が良くなったせいか面白いように開拓されていきましたね。特に国境付近は凄かったですね。あれどのくらいの速さで移動したんですか?」


「マッハ10ですね」


「マッハ!?」


「でも、こうやってみると国内にまだ黒い部分が多いですね」


「まぁ、どうしても山や畑など流通網に関係ない部分は仕方ないです。ですが商人ギルドが町や村、そして縁のある農家を回る事となっていますし、冒険者ギルドで山や谷など回ることになっていますから、国内はもう大丈夫です。ただ、あの金山だけ余裕のある時にお願いしてもいいですか?」


「分かりました。今日はこれで終わりますが、明日にでもやっておきますね」


「すみません、お願いします。ところで今夜どうです?」


「すみません。今夜は妻が家で待っているものですから」


「そうですか。まぁ落ち着いたらまたよろしくお願いします」


「はい、こちらこそ。今日はこれで失礼しますね」


 アキトが自宅に戻るとフィーとリーがぴゅーっと飛んでくる。


「おかえり。かみさま」 「かみさま。おみやげ?」


「ただいま。お土産はね、まだ絞ってないから待っててね。夕ご飯の時に食べようね」


「うん。うん」 「うん。わかった」


「貴方、お帰りなさい。どうだったの?」


「ただいまエリ。予定通りには進んだかな」


「そう、それはよかったわ」


「ちょっと蜂蜜絞ってくるね」


 アキトはどこかに転移していった。


「エリミナーデ様」


「うん?どうしたのアーシェ?」


「アキト様の魂は完全に前を向きましたね。これからは困った人達を助けたいそうです。後ほど本人より報告があると思います」


「そう、良かったわ。一旦はどうなることかと思ったけど、本当良かったわ」


「えぇ、ですが助けるのは良いんですが、助けた後の事がまだ・・いずれ御力をお借りするようになるかと」


「夫のためなら構わないわよ」


「ありがとうございます」






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今回4従属神が転移して測量した中央サークル王国の転移システムですが、各町村の高速インターを開放したと考えて頂けると幸いです。中央サークル王国では利便性の優先を考えて各町村の中央に来るよう転移システムを配置しているため、転移システムを測量して開放することは大体の町村の測量もついでに完了します。


ちなみに転移システムを利用出来るのは、王宮にある世界儀登録の兵士や医師達。商人ギルドの世界儀登録の商人達。冒険者ギルドの世界儀登録の冒険者達です。利用する際、本人確認も行われます。一般人は利用できません。


当然、測量を兼ねているため証を持っている人達は国内のどこにいるかがわかってしまいます。管理する側が有利になるシステムですね。


今話で第一章が終了です。次は閑話を挟んでから第二章に移ります。


ストックが少なくなってきたので、明日より1日1話で投稿させて下さい。すみません。













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