第24話 フェアリーと信念

 次の日。アキトは目覚めると、自分の右手を空中に翳し、それを眺めながら考える。


(俺の中の芯か。芯ってきっと信念の事だよな。そして、どんな理由があろうと信念を通す覚悟か・・それは何となく分かったけど、俺の信念?俺はこの世界で何をしたいんだろう?エリや皆を守るってのは当然だけど・・測量?う~ん)


 アキトの中でもやもやとした気持ちに幾分折り合いがついたのか、昨日と比べると少しアキトの表情が柔らかくなっていた。その事にアキト本人は気が付いていないが、その様子をベッドで隣から眺めるエリは満足げな表情を浮かべる。


「貴方。おはよう♪」


「おはようエリ」


「一つ大きな仕事を終えたけどこれからどうするの?」


「そうだねぇ。先ずはフィーとリーが寂しがってないか見るのと、あーちゃんが新しい世界儀を作ってるなら台座を作ってしまいたいかな」


「うん、それなら私もそれに付き合うわ」



 二人がリビングに出ていくと従属神が揃っていた。


「おはよう。あーちゃんは部屋で作業かな?」


「おはようございます。えぇ、そうみたいです」


「アキト様、エリミナーデ様。ご飯出来てるにゃあ」


「うん、ありがとう。じゃ頂こうか」


「そうね」


 食事をするアキトとエリミナーデ。それを見守る4人の従属神達もアキトの少し柔らかくなった表情を見て穏やかな表情となっていた。そんな時フィーとリーがやってきてアキトの髪を引っ張る。


「かみさま。かみさま」 「ごはん。げんき?」


「うん、ご飯食べて元気だよ。フィーとリーも食べた?」


「みつ。おいしい」「ごはん。たべた」


「そっか。じゃあ、俺がご飯食べたらお部屋に行くから遊んでていいよ」


「うん。うん」 「うん。うん」


 フィーとリーはアキトの言葉を受け部屋に戻っていく。


「可愛いよね。まるで小さな子供みたいだ」


「そうね。でも、あの子達が一番懐いているのはやっぱり貴方ね」


「そう?」


「だって髪の毛を引っ張って甘えるのは貴方にだけよ?」


「そうなんだ?あ、そうだ。昨日お土産あげるって言ったんだよな。えっと、あの子達が何時までも安全で、健やかにいられるように・・っと」


 アキトは空中に力を込めると、空間から男性用の親指の指輪のサイズ位の薄い輪が2つ現れる。


「貴方。それは?」


「あの子達の王冠。防御機能とか回復機能とかいろいろ付いてるやつ」


「甘いのね?」


「俺があの子達を保護するって決めたからね、それなら俺が全力で守ってあげなきゃ。さて、ごちそうさま」



 食後、アキトとエリがフェアリー達の部屋に行くと、フィーとリーがすぐに飛んできた。


「かみさま。あそぼ」 「あそぼ。あそぼ」


「うん。その前にフィーとリーにお土産があるんだ」


「おみやげ?おみやげ?」 「おみやげ?おみやげ?」


「うん、これなんだけど、頭にかぶるんだ。おいで」


 アキトが掌を差し出すとフィーとリーがそこに座る。アキトはフィーとリーの頭に先程の小さな王冠をかぶせた。


「りー。すごい」 「ふぃー。すごい」


「ぽかぽか。うれしい」 「うれしい。ぽかぽか」


 フィーとリーはお互いの姿を見て喜んでいる様子だ。


「どう?かぶってて痛くない?重くない?」


「へいき。ありがと」 「ありがと。かみさま」


「どういたしまして」


 フィーとリーは余程王冠が嬉しかったのか、アキトと遊ぶのも忘れ、じゃれ合うように二人でぴゅーっとどこかに飛んでいってしまった。その様子を見てアキトとエリは微笑み合う。


「ふふ。喜んで貰えたのなら良かった」


「ふふ、そうね」


 そのままアキトはエリとフェアリーの部屋の中を散歩する。部屋のほぼ半分以上が花畑であり、花畑の真ん中を分断するかのように小さな川が流れ、隠れて遊べるように林程度に木も植えてあった。花畑の花はいろんな種類の花が集められ、色ごとに植え替えられたた為、まるで虹で作り上げた絨毯のような風景を見せていた。


 花畑の上をはしゃぎながら飛ぶフィーとリーの姿を見て、アキトは嬉しくなるとともにフェアリーの里を襲った人間達に対し激しい怒りを覚えた。


(あーちゃんにお願いすれば、きっとフェアリーの里を襲った奴らの居場所も分かるんだろうな。でも探し出してそいつらを殺したって、そんなの俺が気晴らしに殺すだけになるし、死んだフェアリー達はもう戻らない)


(せめて、こういう子達を守れれば・・ってそうか。シリウスさんやカリムさん達もきっとこんな思いをしたから・・だから国を作ってまで守ろうとしたんだ)


(本当に偉いよなぁ、あの人達は。尊敬に値する人達だ。今の俺には真似出来ない事が多いけど、せめて・・その思いだけでも真似させて貰ってもいいかなぁ?)


 アキトが静かに決意していると、フィーとリーがアキトに気付いて飛んでくる。


「かみさま。かみさま」 「かみさま。かみさま」


「ん?」


「うれしい。かみさま」 「ぽかぽか。ありがと」


「うん、俺も嬉しい。ありがとう」


 アキトがフィーとリーに向けた笑顔は優しく、何か吹っ切れたような迷いのない笑顔だった。それを見ていたエリはあぁ、もう大丈夫だと確信した。


 アキトとエリはそのままリビングに戻るとガイアと共に台座の模型を何種類か作成し、皆で品評会を行い、その中から選ばれた1つを3つ作ることにした。アキトが台座を作成する為、ガイアと共に森へ行き台座を作っているとアーシェがやってきた。


「お疲れ様です~」


「お疲れ様なの」


「あーちゃんもお疲れ。こっちは形が決まったから後は作るだけ」


「そうですか。じゃあ私も頑張らないとですね」


「うん。でも無理しないでね」


「大丈夫です。こうやって息抜きにアキト様の顔を見には来る位の余裕はありますから」


「そっか。なら良いんだけど」


 アーシェはアキトの何か吹っ切れたような優しい表情を見て安心する。


「・・吹っ切れましたか?」


「・・うん、まぁって、心配させちゃったかな?」


「そんなのはどうでも良いんですよ」


「ねぇ、あーちゃん」


「はい?」


「フェアリーってどうやって数増やすの?やっぱ人間と一緒?」


「え?まさかフェアリーと?・・吹っ切れすぎました?流石にそれは私でも引くんですけど」


「何言ってるんだよ!フィーとリーに仲間がもっといれば、あの子達も安心かなと思ってるだけだよ」


「勿論、冗談です」


「・・・・・・」


「フェアリーは、フェアリークィーンが年に一度仲間を生むというか増やすんです。だから、フィーかリーがフェアリークィーンに進化出来れば、仲間は少しずつですが増えていきます」


「増やす?」


「えぇ、空中からぽんって」


「そうなんだ?そういう事ならまだ道は残されているんだね」


「でも、進化は難しいですよ?それなりに経験を積ませねばなりません」


「それって敵を倒してレベリングみたいな?」


「いえ、普通に長く生きていれば・・ですが。150年くらい生きると進化します」


「150年か。フィーとリーって何歳なのかな?」


「フィーが48年、リーが39年ですね」


「じゃあ、まだまだだ」


「そうですね。フェアリーの数を増やしたいんですか?」


「あと100年近く2人っきりってのも可哀相かなって。俺達がいつまでこの世界にいられるかわからないのもあるしさ」


「ふむ・・現実的ではないですが、1つだけ手はあります」


「あるの!?」


「進化の実というものがあります」


「おぉ!」


「ですが、フェアリーって花の蜜と蜂蜜しか食べられないじゃないですか?実がなる前の花の蜜で代用しなきゃいけないんですが、それだと濃度が薄くて数をこなさなきゃいけないんですね」


「ふむふむ」


「そして、この世界にはその木が1本しかありません」


「その木を増やすってこと?」


「いえ、その木は増やせないんです。進化の実には種がないので」


「えっと、接ぎ木で増やすのも無理ってこと?」


「はい。他の木と組織の組成があまりにも違いすぎますので。木と呼んでいますがあれはもう別の植物というか生物と言った感じです」


「そうなんだ・・どこにあるの?」


「リザードマンの集落があって、そこで代々守っています。そこで年に一度、一個しか生らない実をその年の成人した男性の中で最も優秀な人物に渡しているみたいです」


「その花の蜜だけちょっと貰う訳には行かないかな?」


「無理ですね。この世界が出来た時にこの世界を創った神がリザードマンに与えたものなので。御神木扱いです。手を出すなら普通にアキト様VSリザードマン全体の戦争が起きます。アキト様にその覚悟があるなら大丈夫ですが」


「流石にそれは・・ってそれは隠さなくていいの?」


「人間は進化しませんから。それに、もし人間が手を出して戦争になっても普通にリザードマンが勝ちますから。下手な転生者くらいなら相手になりません」


「あ、そうなんだ?そっかぁ、う~ん」


「ねぇアキト様。フィーとリーが淋しいって言ったんですか?」


「いや、それは聞いてないけど・・」


「なら、気にしなくていいと思いますよ」


「そう・・なのかな?」


「あの子達が可哀相だと思うのなら、アキト様がいっぱい遊んでやって下さい。それであの子達は大丈夫ですよ」


「それでいいの?」


「えぇ。フェアリーってそんなものなので」


「そうなんだ。ところでフェアリーの他に緊急で保護が必要な子達っているの?」


「今のところ、他の希少生物たちは上手く隠れてますね。必要な時はまた御案内しますね」


「分かった。よろしくね」


 それから3ヶ月間の間、アキトは時折お互いの進捗状況の報告を食事会という形でシリウスやカリムと行ったり、フィーとリーを連れて皆で海中散歩に行ったり、アーシェ、フレア、ディーヴァ、アウラ、ガイアが新しく冒険者ギルドのギルド員となるため会員証を発行して貰うのに、そのついでと王都でデートを順番に一人ずつ付き合わされたり、フィーとリーの部屋を増築して果物畑を作ったり、新しい能力の開発を行ったりと自由に過ごしていた。


 そして世界儀の設置予定地の建設が終了し、新しい世界儀を設置する前日。アキトは王都に来ていた。


「あぁ、アキト様。ようこそいらっしゃいました」


「シリウスさん。お疲れ様です」


「いよいよ明日ですねぇ」


「そうですね。一応手順の再確認ですが、設置は王宮、商人ギルド、冒険者ギルドの順で行うと。そして冒険者ギルドで私とうちの5人が最初に更新し、そのまま国境と遠方の転移システムの再測量を私達が行う・・でいいですか?」


「えぇ。その後、順番で飛行能力持ちと転移能力持ちから更新して貰う予定です。でも本当に転移システムのみならず国境の方の再測量までお願いしても良いんですか?」


「はい。まぁ既に分かってると思いますが、私達にはそういう手段があるので。国防のために必要かなと。まぁ、王都に近い所はお任せしますが、それなら何とか一日で転移システムも移行出来るかなと」


「いやぁ、正直助かります」


「いえ、ではまた明日」


「はい。また明日よろしくお願いします」










 








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