第23話 自分の中に一本の折れない芯を

 アキトがフェアリーを助けた次の日、アキトは平静を取り戻していた。リビングでアキトがぼ~っとしていると、フェアリー達がやってきてアキトの髪を引っ張る。


「かみさま。かみさま」 「あそぼ?あそぼ?」


 フェアリーはそれぞれフィーとリーと名付けられ、4従属神の協力の元、山脈の中の崖際の空間に高さ10mの1500坪と言う大きな部屋を作って貰い、リビングに通路を繋げていた。


 その部屋は花だけではなく林や川、石などが設置され、ミツバチの巣箱まで準備された庭園と呼んでもおかしくない様子となっていた。


「そうだね。何して遊ぶの?」


「とばすの。とばすの」 「きのみ。とばすの」


「優しくだよ?良い?」


「うん。うん」 「やさしく。やさしく」


「ちょっと行ってくるね」


「は~い」


 アキトはフェアリーに連れられ、フェアリー達の部屋へと向かう。そんな背中を6人の女性達は心配そうに見守る。


「ねぇ、アーシェ~。やっぱり焦り過ぎでは~?」


「・・かもしれませんが、フェアリーを助けるとなると、あれがギリギリのタイミングでしたので・・」


「落ち込んで元気のない夫の姿を見るのは辛いわ。私から教えちゃ駄目なの?」


「こればっかりは・・出来れば自分で気付いて頂きたいです。その人の生き方というかこれからの人生に大きく関わってきますから。やり方が間違っていたのなら教えて良いと思いますが」


「アキト様、可哀想なの・・」


「でも、これからの事を考えるとやはり今のうちに・・でしょうね。幸いもう少ししたら王国から返事が来る予定です。その際、先達からアドバイスが貰えるでしょう。皆様には申し訳ないのですが見守って下さい」


「そうね・・」


「「「「はい・・」」」」



 アキトはフィーとリーとのんびり木の実飛ばしをしながら、先日の事を思い出す。


(どうして俺はあの時、涙を流したのだろうか?そして、こんなにも気分が沈むのは何故なんだろう?あの時逃げることだって出来た。でも彼奴等は許せなかったんだ。やっぱり人を殺したから?でも、そんなに罪悪感はないんだよな。)


「かみさま。へたっぴ」 「へたっぴ。かみさま」


「あぁ、うん。ごめん」


「かみさま。いたいの?」 「いたいの?いたいの?」


「ううん。大丈夫だよ」


「ごはん。みつ」 「みつ。おいしい」


「おいしい。げんき」 「おいしい。げんき」


「そうだね」


 フィーとリーがぴゅーっと花畑に飛んでいき手に蜜をつけて帰ってきた。


「みつ。おいしい」 「おいしい。げんき」


 フィーとリーが蜜でベタベタな手を差し出してくる。


「ありがとう。でもお腹いっぱいだからフィーとリーで食べて?」


 アキトはフェアリー達の気持ちが嬉しかったが、気分が晴れることはなかった。自分のもやもやとした気持ちの正体に気づかないまま、3日が経ち、昼前頃、アキトのギルド会員証が震え、光りだした。


「もしもし?アキトです」


「すみません、シリウスです。国からの正式な返答なんですが、一応、国王から正式に書面でお願いしたいと言うことで、それに関しての書類も準備できました。都合の良い時においで頂けますでしょうか?」


「あぁ、なら今日は大丈夫なんですが、どうしますか?」


「そうですか。ならまた夕方にってことで話を進めます。それで終わったらまた一緒にお食事いかがですか?」


「いやいや、この間もご馳走になってしまったのに・・」


「良いんですよ。この国からしたら歴史的な一歩を踏み出す訳ですからね。アキト様達には本当、感謝してるんです。そのくらいの事はさせて頂けませんか?」


「・・そうですか?では、すみません。甘えちゃいますね」


「えぇ。お待ちしています。では、失礼しますね」


「貴方。返事が来たの?」


「うん。でも国王が書面に残したいらしくてさ、今夜またちょっと行ってくるね」


「えぇ。こっちは大丈夫だから」


「あーちゃん?」


「食事会もあるんですよね?なら、私は作りかけの世界儀の作成もあるので、おまかせします」


「うん、条件とか俺が決めちゃっていいの?」


「それは勿論。ただあんまり安くすると使い倒されますからね。だから最低1000億以上としておいて下さい」


「うん、分かった。でも、そんなにお金いる?」


「あまったら寄付すりゃ良いんです」


「それもそっか。まぁいいや。適当な時間になったら行ってくるね」


「「「「「はい」」」」」


「かみさま。おでかけ?」 「どこか。いく?」


「うん。ちょっと大事な話があるんだ。フィーとリーはお利口さんで待ってられる?」


「うん。うん」 「うん。うん」


「じゃあ、お利口さんにはお土産買ってくるね」


「おみやげ?おみやげ?」 「おみやげ?おみやげ?」




 夕方。アキトが冒険者ギルドに出向くと、受付嬢の前にギルドマスターが待っていた。


「いつも御足労すみません」


「いえ、いいんですよ」


「では、国王がお待ちですのでどうぞ」


「はい」


 ギルドマスター室には国王、王妃、鍛冶ギルドマスター、商人ギルドマスター、冒険者ギルド副ギルドマスターの二人も居た。


「いつもいつも御足労頂きありがとうございます」


「いえいえ。こちらが言い出したことですからね」


「では、早速こちらの書面を確認して頂きたいのですが・・」


「はい。失礼して拝見させて頂きますね」


 アキトは書面を確認し、報酬が3兆と内容的に王国側がかなり無理してるであろうことを理解した。アーシェの言う通り、あとで寄付すればいいやと考え、そのままサインする。


「ありがとうございます。いや~3ヶ月後には新しい時代が始まります」


「こちら側から言い出しといて何なんですが、そのお手伝いが出来てよかったです」


「じゃあ、アキト様。我々はこの後もあるので失礼します」


「はい。お疲れ様でした」


 鍛冶ギルドマスターと商人ギルドマスターと王妃、副ギルドマスターの二人が帰っていく。国王が残るが、これはビスタの天啓が、今夜はシリウスとカリム、そしてアキトで食事しろとのお告げを出したからだ。


「あれ?国王様」


「今晩は私もお付き合いさせて頂けませんか?」


「えぇ。それは構いませんが・・」


「では、どうぞ。花もない野郎会で申し訳ありませんが」


「野郎会ですか。それはそれでおつなものです」


「まずは乾杯といきたいのですが、アキト様お酒にします?ジュースにします?」


「ジュースで。なんかこの体は酔えないみたいなんですよ」


「あ~、ではこちらのジュースで」


「おぉ?これは炭酸?まさかコーラ?」


「えぇ、この味を出すのに苦労しました。なにせ覚えているのが炭酸と砂糖を使ってると言う事だけでしたから」


「ですよね。普段飲んでいても案外、原材料って見ないですもんね」


「では、かんぱ~い」


「「かんぱ~い」」


「あ~、この味。何かすごく懐かしい感じがしますね」


「そうでしょう。そうでしょう。私達も日本が懐かしくなってからはもう、取り憑かれたかのように料理、飲料と日本での味にこだわりましてね。転生者が来る度に国のお金を使ってまで開発させてましたからね」


「そこまでして?」


「えぇ。シリウスに聞いたかも知れませんが、私も転生者でして。この世界の厳しさに打ちのめされると、やっぱり日本での生活を思い出すんですよ。バカやっていても良かったあの頃が懐かしくて仕方がないんです」


「成る程、国を興すとなればそれは大変だったでしょうね」


「そうですね。敵対する勢力ばかりではなく、取得権益を守ろうと躍起になって私達の足を引っ張ろうとする奴らや裏切り者なんかも出ましてね。毎日のように命を狙われて、その対処をしているとやっぱりいろいろ思ってしまいますよね」


「毎日命を狙われるって・・ハード過ぎじゃないですか?」


「まぁ、きつかったですね。わざわざ殺したい訳じゃないけど、攻撃してくるなら対処しないと大切な人達が守れなくなりますし、やりたい事が出来なくなりますから」


「・・・・・・」


「私達はその頃はもう大分強くなってましたからね。そう簡単にはやられたりするような状況ではなかったです。でも、そんな事ばっかりやってると、やっぱり自分の気持ちが追いつかなくなりますよね。本当にこれで良いのかな?他に方法は無かったのかな?って」


「そうだな。あの頃は毎日泣いたり、愚痴ばっかりこぼしてたな」


「・・・・・・」


「あ、すみません。こんな殺伐とした話つまんないですよね?」


「いえ。かなり精神的にきつい状況だったみたいですけど、どうやってそんな状況を乗り切ったんですか?」


「まぁ、私達の場合、5人揃ってましたからね。お互い励まし合い、支え合って何とかしてきましたが、気持ちが楽になったのはやっぱり腹をくくってからですね」


「腹をくくる?」


「えぇ、覚悟を決めるって言うんですかね。自分達のやりたいこと・・日本のような国を作り、飢えた子供が居ない場所を作る。モンスターに襲われない場所を作る。その邪魔をする奴らは全部消す。そう決めてからは自分の心も守れるようになった気がしますね」


「覚悟・・ですか」


「えぇ」


 アキトはつい難しい表情で下を向き考え込んでしまう。カリムとシリウスはそんなアキトを見て思わず顔を見合わせる。


「アキト様。もしかして何かありました?」


「え?あぁ、すみません。何でもないんです」


「もし私達で良ければ話を伺いますよ?」


「・・・・・・」


「差し出がましい事を言うようで申し訳ないんですが、実はアキト様の今の表情が、私達が建国の際、散々思い悩んできたあの頃にそっくりなんですよね」


「・・そんな表情してました?」


「えぇ」


「自分でもよく分からないんですよね。どうしてこんなにも気分が落ち込むのかが」


「ふむ。なら愚痴でも吐き出してみませんか?誰かに聞かせるだけでも違いますよ?」


「・・そうですね。ちょっと詳細には話せないんですけど聞いて貰ってもいいですかね?」


「「勿論」」


 アキトはフェアリーを村人、里を村に置き換え、村を襲っていた山賊を対処する時に散々悩んで結果が出せず、仕方なく山賊をただ遠い海に転移させたこと。その後からどうにも気分が沈み、何が原因か自分でも判らないことを話した。


「転移させたとは言え、遠い海なので恐らく助からないでしょう。やっぱり人を殺したからなのかなぁ?とは思うんですが、不思議と罪悪感はそこまで感じないんですよね」


「ふ~む・・殺人は初めてなんですよね?」


「はい」


「多分、心がパンクした状態なんじゃないかと思います」


「心がパンク?」


「私達もそうだったんですが、頭は理解しているんですよ。あいつは悪い奴で仲間を殺そうとしている。仲間を助けるためにはあいつを殺すしか無いって。でもね、心は人殺しなんかやりたくない。俺はそんなことしたくないって拒否するんですよ」


「ふむふむ」


「そんな心身があいまいな状態で結果が出て、それが受け入れられないと、心がパンクしちゃうんです。心がマヒ状態になって、何も感じられなくなるんです。でも頭がその状態を理解してないんですよ」


「なるほど・・それはどうすれば良いんですかね?」


「時間が解決してくれる場合もあれば、自分の中で都合よく折り合いをつけるしか無い場合もあります。ですが、一番の解決方法は心身ともに同じ方向に向くこと。自分の中に一本、何があっても折れない芯を作り、芯を曲げないために腹をくくるというか、覚悟を決めるってことですね」


「自分の中に一本の折れない芯・・」


「私達はそれが建国でした。アキト様、自分がどこを向くのか自分の心と相談してみて下さい。そして自分の中に芯を作って、絶対にそれを曲げない覚悟を持って行動すれば、心がパンクすることは少なくなるんじゃないかと」


「なるほど。ありがとうございます。よくよく考えてみます」


「いえいえ、お役に立てたのなら良かったのですが」


「でも、アキト様は女神様経由の転生でしたよね?女神様にこの世界で何かしろとか言われなかったんですか?テンプレではよく世界を発展させろとか、世界を救えってのが・・!まさか!?この世界やばくないですよね!?」


「あぁ、それが自由にしろって言われてましてね。今のところ世界が危ないっては聞いてないですね」


「そうでしたか、良かった・・でも、自由って案外難しいですよね?」


「確かに。でも、今は皆さんのお陰で測量士となれましたし、世界の未知に挑むのはそれなりに楽しいですよ?」


「そのアキト様が遭遇してきた未知を私達にも教えて頂けませんか?」


「良いですよ。そうですね、まずはエンシェントドラゴンなんですが・・」


 こうして野郎共の夜は更けていった。












 













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