第17話 ギャップ萌え

 今日はエリ主導のエンシェントドラゴン狩りの日です。天気も良く正に狩り日和といったところでしょうか?朝から皆、やる気に溢れています。きっと楽しみだったんでしょうね。


「エンシェントドラゴンをエリミナーデ様の所まで追うのです!ガイアに任せて欲しいの!」


 見た目はまだ幼さが残る美少女ガイアがふんすふんすとやる気を見せています。話の内容は物騒ですが、その姿には微笑ましさを感じますね。思わず頭を撫でてあげたくなります。


「なら私は待機の間、エリミナーデ様の側でハープを演奏してますね~」


 耳のところに小さなヒレがついてるおっとり系マーメイド美女のディーヴァが優しく微笑んでます。その姿には何故か不思議と癒やされるんですよね。まるで全身からマイナスイオンが出ているかのようです。


「にゃはは、あたいは現地ならではの食材探しするにゃあ」


 猫耳系巨乳美女な料理人フレアがゆったりとしっぽを揺らしています。その姿を見るとついついしっぽをブラッシングしたくなります。ねこじゃらしで構ったら乗ってくれるでしょうか?一回試して見たいです。


「準備は全て整っております」


 キリっとした表情でかちっとしたメイド服に身を包むクールビューティーなエルフのアウラはしっかり者のメイドさんです。その姿は全てお任せ出来る安心感があります。頼もしいですよね。ボンキュッボンのメイドエルフは中学生の時の憧れでした。ありがとうございます。


「楽しみだわ。ここしばらく狩りなんてしていなかったし。ありがとう貴方♪」


 とっても綺麗な俺の奥さんのエリ。スタイルも良くモデルとしても活躍出来そうな見た目からは想像出来ない位の発言内容です。ですが、まだまだ未熟な俺はギャップ萌えの域に達していません。思わず引きつった笑顔で返してしまいます。これは何とかしなくてはいけませんね。


「ほらアキト様。マーキングは済んでますよ~行きますよ~」


 いつものように元気で賑やかなダークエルフのあーちゃん。俺の好みドンピシャの美人さんです。いつもありがとう、色々と助かってます。でも性癖弄りで俺の心を抉るだけはマジ勘弁して下さい。お願いします。


 で、そんな6人が何故か俺を中心にくっついて幸せ押しくら饅頭スペシャルバージョンを披露しています。あれ?おかしいな。それぞれが転移出来るはずなのに。でもお陰で体のあちこちが幸せです。良い匂いがたまりません。しかも全員俺の顔を見上げてます。これから出かけなきゃいけないのに、俺の本能が|д゚)ノ やぁと顔を出してきます。そんな時は魔法の呪文を心の中で唱えます。


(びーくーる。びーくーる)


 ふぅ、落ち着きました。では名残惜しいですが転移しましょう。



 転移で辿り着いた場所は深い山の奥。どこかの国の名景と呼ばれてもおかしくないくらいの絶景です。ここでも天気が良く、空気が澄んでいて遠くまで見通せます。デートコースとしても良いんじゃないでしょうか?


「じゃあ追い込んで来ますなの」


「準備を済ませたら私も行って参りますね」


「あたいは現地ならではの山菜採って来るにゃあ」


「では、お待ちの間は私のハープをお聞き下さいませ~。る~るら~♪」


 ガイアとフレアがどこかに出かけ、ディーヴァは歌い出しました。ディーヴァのハープに併せた歌声は美しい音色となり、心地よく俺の心に染み込んできます。隣りにいるエリもあーちゃんも穏やかな表情です。あぁ来て良かったなぁとつくづく感じます。そんな中、テーブルやイスをセッティングしお茶まで入れ始めたアウラ。ディーヴァの歌を邪魔しないよう静かに静かに作業しています。


 準備された椅子に腰掛け、淹れたてのお茶を頂きます。あ~、お茶が美味しい。ふとエリと視線があい、思わず微笑みあってしまいます。心が暖かくなってくるのが実感でき、あぁ、これが幸せなんだと強く思い知らされました。ついつい心だけではなく口も軽くなって会話に花が咲きます。


 そんなこんなで30分ほど経った頃でしょうか?遠くから


「グギャアアアアアア」


 と獣が鳴く声が聞こえます。その声に反応したのか、エリの目に剣呑な光が宿り、口角が上がっていきます。あぁ、やっぱりまだまだ俺は未熟ですね。


 ズーン、ドズーンと重く響く大きな獣の足音が聞こえ始め、山の間に大きな影が動いているのが見え始めました。近づいて来るとよく分かります。大きなドラゴンです。ってか山ぐらいあるので大きすぎではないでしょうか?ドラゴンはしきりに後ろを気にしています。良く見るとドラゴンの後ろに小さな影が見えたり消えたりしています。恐らくガイアが頑張って追い込んでいるのでしょう。あとで褒めてあげなくてはいけませんね。


「ガアアアアアアッ」


 巨大なドラゴンがガイアを嫌がってか大きな叫び声をあげます。すると隣りにいたエリが突然立ち上がりました。ドラゴンを見て満面の笑みで拳を握りしめています。あぁ、なんてうちの奥さん可愛いんでしょう(混乱)


 巨大なドラゴンがこちらまであと1km位まで近づいた瞬間、エリの姿が消えました。次の瞬間ドラゴンの頭が弾け飛び、そのまた次の瞬間エリが戻ってきていました。


 やってやったと凄く満足そうなエリの笑顔は、少し返り血を浴びてはいるものの、見た者を虜にする魅力がありますね。(錯乱)


「エリミナーデ様、お見事なのです!」


「あ~ガイア様。残念ながらこれは違いますね。これはグレートマウンテンドラゴンです」


「え~!?そんな~。エリミナーデ様ごめんなさいなの」


「いいのよガイア。それならもう一回頑張れるかしら?」


「はいなの!今度こそ本物を追い込んでくるの!」


 美女と幼さの残る美少女の心温まる会話に俺も温かい目で遠くを見守ります。


「グアアアアアアッ!」


 そんな時でした。山の奥からまた獣の叫び声が聞こえ、そちらの方向を向くと山が崩れていくのが見えました。


「あっ!ガイア様あれです!きっとアウラ様が追い込んでいる最中だと思います」


「分かったの!援護してくるのです!」


 ぴゅーっと走っていくガイアを心の中で応援し、エリの顔を拭いてあげようとハンカチを取り出して水魔法で少しハンカチを濡らしていると、隣からオーラのようなものが感じられました。


 見ると、エリの体からまるで漫画のようにオーラが溢れ出し、シュインシュインと音が聞こえてくるようです。(幻聴)


 エリは山が崩れた方向を見ながらとびっきりの笑顔でなんかうずうずとしています。きっとエリに尻尾があったらめっちゃブンブンと振られてるんだろうなぁというのが見て取れます。


 あ、また山が崩れました。山の陰からさっきの大きなドラゴンより更に大きなドラゴンが見えます。どうやらこっちに向かってきていますね。


 するとエリがポキポキと指を鳴らし、腕を軽く回し始めました。準備運動ですかね?やってやんよぉ!という意気込みが痛い位にひしひしと伝わってきます。


 お?良く見るとアウラとガイアがこっちに向かって走ってきます。どうやら追い込むのではなく、囮として引き連れて来たみたいですね。エンシェントドラゴンの視線がアウラとガイアを追いかけています。時折ブレスを吐いているみたいですが、アウラとガイアは見事に躱してますね。流石です。


 エンシェントドラゴンがあと1kmといったところまで迫った時、こちらに視線を向けてきました。こちらというか、きっとエリに気付いたんでしょうね。するとエンシェントドラゴンは身を翻して逃げようとしました。アウラとガイアがそれに気付き、尻尾に攻撃を加えますが、エンシェントドラゴンはそれでも構わず逃げようとします。身の危険を感じたんでしょうね、流石に長く生きた龍は違います。すると、


「ちっ」


 と魂が底冷えするような舌打ちが聞こえたかと思うとエリの姿が消えました。


「ガッ・・」 ドガガガガガーン


 エンシェントドラゴンの首が断末魔の声を上げつつ吹っ飛んでいき、そのまま山が2、30個崩れていきます。きっとエリが力を抑えきれなかったのでしょうね。大災害っていえばそうなのですが、安心して下さい。周りに村や集落なんてありません。当然ですよね?あんなに大きいドラゴンが生息する地域に暮らそうなんて普通誰も考えませんから。だから問題無し。


「やったーやりましたよ~、流石エリミナーデ様」


 アーシェが走り出していきます。


「流石はエリミナーデ様ですわ~」


 ディーヴァは倒れたエンシェントドラゴンを見てニコニコとしています。


「お?終わったにゃん?丁度良いタイミングだったにゃん」


 フレアも帰ってきました。山菜など一杯取れたんでしょうか?


 ガイア、アウラ、アーシェを引き連れてエリが帰ってきます。俺に気付くと嬉しそうに微笑んでいます。


 「お帰りエリ。お疲れ様」


 俺はエリを労いつつ、エリの顔についた返り血を濡れたハンカチで優しく拭き取ります。


 「ありがとう、貴方♪」


 俺を見上げ恥ずかしそうにするエリには心をときめかされました。そこで俺はようやく未熟を卒業し、ギャップ萌えに至りました。よくよく考えてみると簡単なことでした。普段大人しく清楚な妻が大暴れする姿に萌えるのではなく、大暴れする彼女が見せるこういった仕草がとても可愛らしく萌えるのだと。いや~奥が深いですね。でも、それって普段エリが大暴れする必要がある?あれ?(大混乱)


 エンシェントドラゴンの魔石はとても大きく直径20mくらいある球形でした。なるほど、これを改造すれば新しい世界儀になると。あーちゃんに確認しましたが、ほぼこの大きさのままの世界儀となるようです。でもこんな大きいものを設置する場所を中央サークル王国は準備しているのでしょうか?後で確認しないといけませんね。


 と、俺が考えているうちにどんどんとエンシェントドラゴンの解体が進んでいき、早速エンシェントドラゴンの肉を使ったバーベキューが始まりました。地竜の時にも感じたんですが、魔素を多く含んだお肉ってとても美味しいんですよね。不思議ですよね。


 大きく作られた鉄板の上には所狭しといった感じで肉や野菜が並べられており、フレアの神威のお陰で鉄板の全ての部分で常に同じ温度が保たれるので肉の取り合いにはなりませんでした。ただアーシェが肉を食べながら、次々と焼き上がる肉の丁度良い食べ頃のタイミングを指示するという焼肉奉行っぷりを発揮。一人忙しくしていました。


 皆、お出かけ先でのバーベキューという雰囲気の中、美味しいものを食べているからなのかニコニコと笑顔です。ついつい俺も嬉しくなります。そんな時でした。俺の冒険者ギルド会員証が震えながら光ります。そう言えば連絡用ツールとしても使用できると言っていましたね。俺に連絡が来たということでしょうか?


「はい、もしもし」


「あ、ギルドマスターのシリウスです。アキト様、今、お時間大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫ですよ。ちょうど良かった。こちらからも報告したいことがあったんです」


「う?えっ?・・そうですか。あっ、なら今日冒険者ギルドにお出で頂くことは可能ですか?実は私からもちょっと相談事がありまして」


「良いですよ?でも今ちょっと出先なもので。そうですね、夕方位でも良いですか?」


「はい!ありがとうございます!お待ちしています!では失礼します」


「貴方?どうしたの?」


「何か冒険者ギルドマスターから連絡があって相談したいことがあるんだってさ。俺も報告したいことあるし、夕方になったらちょっと顔出してくるね」


「ふむ・・ならばアキト様。新しい世界儀は設置から機能するまでに1時間。転移システムは1時間だけ凌げば再測量で使用可能なのでそのまま飛行や高速移動能力を持つ冒険者達は王都に集めさせとけと言って安心させてやって下さい。ただ、こちらもあと2つの魔石を集めなきゃいけませんし、世界儀を作る処理に3つで3週間かかります。その間にこれだけの大きい世界儀を保管できる場所を作成するよう伝えて下さいね。お互いの準備が整ったら設置に行きますよと説明して下さい」


「うん・・ってあーちゃんは来ないの?」


「どうやらギルドマスターは今の相談もそうですが、アキト様の歓迎会をしたいそうです。なのでお一人でどうぞ」


「歓迎会!?」


「まぁ、前世なら毎年行われてましたよね?ギルドマスターはアキト様と仲良くしたいみたいですよ?いい機会じゃないですか。同士が増えますよ?」


「それはやめてってば!・・でも、そっかぁ歓迎会かぁ。昨日怖がられたのかなって思ったけど・・」


「あちらさんもアキト様がおそらく元日本人の転生者だろうと見抜いていますから。ただ、やっぱり人間ですからね。自分の物差しで相手を測ってしまう。自分ができないことをあっさりやってしまう相手には思わず畏怖してしまう。愚かなことです」


「・・・・・・」


「ですが、せっかくのお誘いです。いろいろお話でもしてきたら良いんじゃないですか?」


「姿形が前世と違うのに元日本人ってばれちゃうんだ?」


「そうですね、相手に対する礼とか態度とか。そのあたりに特徴が出ちゃいますね」


「そっか。ならまぁ、ちょっと参加してこようかな」


「えぇ。ちなみにギルドマスターの同士レベルは10です。はっきり言って猛者です」


「どういうこと!?」






 


 






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