第13話 さぁ!初仕事ですよ!
次の日の朝。7人でリビングで測量について話し合う。
「アキト様、マップを確認して下さい」
「ん?」
「世界儀とリンクさせましたので、今後マップの薄く黒くフィルターが掛かっているところは未踏破の部分と見て下さい」
「拡大、拡大、拡大。あぁ成る程。うん分かりやすいね、これ」
「では早速どこから測量を開始するかですが・・」
「そうだね。どこか候補があったりする?」
「えぇ。やはり初手から金星掴んでいこうかなと。アキト様の給料アップの為に」
「え?いきなりそんな場所が?」
「えぇ。地図を見て頂くと分かるんですが、この大陸って南東側が大きな海なんですね。で、そこを進んでしばらく行くと1000mクラスの大海蛇がわんさか居る海域があるんです。その海域が結構広く、こちらの大陸の各国はろくに船も通せず、そっちの開拓が全然進んでいない訳なんです」
「ふむふむ」
「で、実はこの大海蛇の肝臓から作られる肝油が、いずれ行くことになる北西3万5千km程の距離にあるマグダルという国の一部地域に数年おきに起きる局所的な伝染病、通称バダラ病の特効薬でして」
「え?すごくない?特効薬って」
「まぁ、私達からすれば「治れ」って念じるだけなので特に問題ないのですが、近辺に住む人間からしたらすごく喜ばれるでしょうね」
「おぉぉ、いいじゃん、いいじゃん」
「ですが、それだけでは中央サークル王国からすると大海蛇の魔石と知識が得られるだけで利益は薄いです。ので、そのまま海を超え南東にある大陸を目指しましょう。そこには国と言うには小さい街と言うか集落が幾つかありますが、実は誰にも見つかっていない金山があるんですよ。恐らく勝手に採掘しても問題ないので喜ばれると思います」
「成る程。正に金星か」
「ただ、ここからだと直線距離でも3万2千kmです。時速100km程度じゃ何時まで経っても帰ってこれません」
「そこで転移?」
「いえ、それでは測量の仕事が疎かになるので、単純に飛行速度を上げます」
「どのくらいまで?」
「マッハ10です」
「マッハ!?」
「約123倍までスピードを上げます」
「・・それってかなりすごくない?」
「そうですか?転移よりは遅いですよ?」
「いや、そうじゃなくて!下手な所飛んだらえーっと、ソニックブームだっけ?で色々ひどいことになるようなことを何かで見た気がする」
「下手なところを飛ばなきゃ良いんです」
「いや・・うん、まぁ確かに」
「帰りは転移でいいので、途中大海蛇を何匹か退治して肝臓と魔石を頂いて、それから金山近辺の測量をして大体8時間で今日の仕事を終えたいと思います」
「成る程、了解。有能な秘書の言う通りにします」
「ふふん、分かって頂けましたか。私の有能さが」
「となると、私アウラと」
「私、ディーヴァがお手伝いできそうですね~」
「ん?」
「高速で飛行するならどうしても空気の壁が邪魔になりますが、私がアキト様の通り道の空気の比重を上半分を軽くするのと下半分を重くする事で真ん中を薄くすればアキト様の飛行速度を上げることが出来ると思われます。かつアキト様と我々の周囲だけ穏やかな空気を配置すれば呼吸も温度も問題ありません」
「私は~大海蛇の捕獲ですね~。どんなに海底深くに潜っても~私にお任せで~」
「うん、そっか。じゃあお願いしようかな」
「では、アキト様、アウラ様、ディーヴァ様と私の4人で行ってまいります」
「えぇ、貴方頑張って」
「うん、初仕事頑張ってくるね。エリ」
「これ4人分のお弁当にゃあ。頑張ってにゃん」
「アキト様頑張ってなの。でも次はガイアも一緒に行きたいのです」
「そうだな。陸地が多い所でお願いしようかな」
「絶対なの!」
「うん。じゃあ行ってきま~す」
「いってらっしゃーい」
ソニックブームを考慮した結果、海上15km程の高さを飛ぼうと言うことになり、山脈の上をゆっくり高度を上げつつあるアキトの背中にアーシェが、右側からアウラが、左側からディーヴァが抱きつき、アキトは幸せ押しくら饅頭状態になっていた。
「え?あ、ちょっ・・」
「アキト様、仕方ありません」
「何が!?」
「高速で移動するとなると、幾らアウラ様の神威を使って頂くとは言え、なるべく表面積を減らした方が良いと言うのは分かりますね?」
「うん、なんとなくだけど」
「と、なるとこれが最適の形なのです」
「いや、まぁ、うん。そうだな」
「随分あっさり折れましたね・・さては!」
「思ってない!思ってない!変な事なんて考えてないよぉ!」
「そうですか・・ところでアキト様」
「何?」
「これが『当ててんのよ』です」
「はい、『当ててんのよ』でございます」
「『当ててんのよ』~」
「っ!?」
「さぁ、アキト様のやる気が上がった所で参りましょうか。さぁ、飛びますよ~」
「うわぁぁぁぁん」
四人が力を合わせて飛ぶとあっという間に速度がマッハを超え、アーシェが指定したマッハ10に辿り着く。
「このまま2時間も飛べば大海蛇のいる海域ですね。頑張ってください」
「うん、何かすごい勢いで飛んでるけど、それでもそこそこ時間かかるんだね」
「そりゃそうですよ。でも私達だからこそ、ここまで早く飛べてるんですよ」
「そうだろうなぁ。じゃなきゃ50年も頑張ってあれだけしか地図開拓できないっておかしいもんな」
「まぁ、大海蛇あたりなんかは普通、船上で戦わなくてはいけませんからね。でも船に体当りされたらそこで終わりですし。この世界の冒険者がそこを通り抜けるのはかなり困難でしょう。上手く倒せたとしても引っ張って帰るのは他の大物が食いついてきますから無理ですし、大海蛇を倒す旨味はないですよね。となればやはりこの海域は放置されやすいです」
「なるほどなぁ」
「だからこそ大海蛇の魔石は高価買取アップに繋がる訳ですね」
「おおぉぉ」
「じゃあ~私、頑張っちゃいますね~」
「うん、ディーヴァ期待してる」
「うふふ~お任せあれ~」
そんなこんなで辿り着いた大海蛇の生息海域。空から海を見ていると、とても長い蛇が大海原を泳いでいるのが分かる。アキト達は大海蛇を狩り魔石と肝臓を採取するためゆっくりと高度を下げていた。
「何あれ、あんなでっかいの?リヴァイアサンとか言われても信じちゃうよ」
「この世界でリヴァイアサンと呼ばれる個体はあれの30倍は大きいですね」
「いるの!?リヴァイアサン!しかもそんなに大きいの!?」
「えぇ、こことは違う海域なのですぐには会えませんが」
「ちなみにリヴァイアサンのステータスってどんなもの?」
「はい、こちらになります」
名前 リヴァイアサン
性別 ♂
状態 不明
体力 586500000
攻撃力 542500000
防御力 535000000
知力 6950000
素早さ 485000
運 26
情報
ザタナ海溝をなわばりにする神海竜族の個体。全長凡そ30km。普段は海の底深くで回遊している大型の魚やクラーケンを捕食したり海底から湧き出る魔素を吸収している。リヴァイアサンが気まぐれで海面に出てくると津波が起きるので出現が分かりやすい。
「え~、なかなか強いじゃない。やばくね?」
「そうですね、水中だと苦労するかも知れませんが、それでもアキト様の敵ではありませんね」
「全長30kmってことは魔石はかなり大きい?」
「はい、100m超えてきます」
「100m超える!?」
「でも~そんなに大きな魔石どうするんでしょう~」
「単純に割って使いますよ?」
「そうなんですか?」
「はい、海というか水棲系の魔石は水魔法の媒体になりますからね。工業でも一般家庭でも需要は幾らでもありますから。なのでサンショウウオ系のモンスターは長年養殖されています」
「へぇぇ。で、あの大海蛇のステータスってどんなもの?」
「はい、こちらです」
名前 大海蛇
性別 雌
状態 安定
体力 760000
攻撃力 820000
防御力 600000
知力 35000
素早さ 450000
運 10
情報
海蛇より進化した個体で食欲が旺盛。時折ウォータージェットで空を飛んでいる鳥系魔物を撃ち落として捕食することもある。産卵期には凶暴化し、
「共食いするんだ?」
「みたいですねぇって見つかったみたいですよ!来ます!」
「任せて~」
大海蛇がアキト達目掛けてウォータージェットを放つが、ディーヴァが手を翳すとウォータージェットが散らされアキト達に届くことはなかった。そのままディーヴァは
「え~い」
と、気の抜けた掛け声で手を上に向けると、大海蛇に海が絡まったような姿で空中に浮き上がる。 大海蛇は逃げ出そうと藻掻くが、海が大海蛇の体の自由を奪い、大海蛇の体はまっすぐ一直線になる。
「アウラ~」
「お任せを」
アウラが手を翳すと大海蛇の首がスパンと切れ、頭が勢いよく海に落ちていく。
「アーシェ、どう切れば良い?」
「解体データ送りますね」
「ありがとう。では、参ります」
アウラがそのまま手を振ると解体ショーが始まり、余分な部分は全て海へ落ちていった。空中に浮かんでいるのは大海蛇の肝臓、そして魔石だった。アウラはそれをそのまま引き寄せるとアイテムボックスにしまった。
海では大海蛇の血や肉に刺激されたのか大型の魚や他の大海蛇が集まってきており海面が大きくざわつき始める。
「入れ食いですわね~。連続で行きますわよ~アウラ」
「あぁ、お任せあれ。ディーヴァ」
そうしてアキトの目の前で次々と大海蛇の解体ショーが始まり、合計8個の魔石と肝臓を入手した。
「あ~俺、出番無かったね」
「アキト様のお手を煩わせる訳には行きませんので」
「その通りですわ~」
「良いんじゃないですか?お互いが協力しあった結果ですもの。結果オーライってやつです」
「・・そうだね」
「それに私達はもうハーレムの一員なのですから」
「はぁっ!?」
「今後ともよろしくお願いしますね~。アキト様。お声が掛かるのをお待ち申し上げます~」
「誠心誠意お仕えさせて頂きます。何かあればどうぞご用命を」
「ちょっ!まっ!」
「昨晩、エリミナーデ様から許可を頂いたんですよね?皆さんご存知ですよ?」
「・・・・・・」
「良いですか?アキト様。エリミナーデ様も受け入れた。そして私達も受け入れた。後は?」
「俺だけって?」
「そうです。この人生だけではありません。アキト様が主神となってからも私達は付き従うのですから。それってもう家族ですよね?」
「そう、だね」
「なら、アキト様が受け入れて皆で幸せになれば良いんですよ」
「・・うん」
「だから、アウラ様が頑張ったのも、ディーヴァ様が頑張ったのも、お互いがやれることを全力でやっただけ。そうしたらアキト様はどうするんですか?」
「そうだね。うん、ありがとうアウラ、ディーヴァ」
「褒められちゃいましたわ~」
「勿体ないお言葉」
「アキト様。魔石と肝臓の数はこのくらいあれば良いでしょう。先に進みますよ?」
「うん」
アキトが高度を上げ始めると、今度は背中にディーヴァが、右側にアーシェが、左側にアウラが抱きついてきた。
「・・・・・・」
アキトは何か反応するとアーシェにからかわれる事が分かっていた為、心の中で(びーくーる、びーくーる)と念仏のように唱え、無言で空を飛び始める。
そのまましばらく空を飛んでいると大陸が見え始める。そこは植生が豊かで果てしなく広がる森とかなり凸凹とした山脈が広がっていた。
「アキト様。マップを見て下さい。金山の位置をマーキングしました」
「うん、ありがとう。ってこっちか」
アキトはアーシェの指示に従い金山を目指す。そして辿り着いた金山は上から見ると山脈の一部で崖がきつい場所にあった。足場となるようなものもなく、まるで山が金の採掘を拒み守っているかのようであった。
「これ、どのあたりに金鉱あるの?」
「この金山の場合、下から真ん中あたりですね」
「そうなんだ?とりあえず周辺の安全確認の為、このあたりの測量範囲を広げるように丸く飛び回るよ?」
「は~い」
「このあたりはマップでも強そうなモンスターいないね。このまま報告でも大丈夫かな?」
「良いんじゃないでしょうか?割と条件の良い金山を選びましたので、あとは勝手にやるでしょう」
「そうだね。じゃあ報告しに王都に行く?」
「そうですね。ついでに大海蛇の魔石も買い取りをお願いして、初仕事成功のお祝いに奮発して高級な食材いろいろ買って帰りましょう」
「それは良いですわね~」
「エリミナーデ様もお喜びになるでしょう」
「じゃあ王都に飛ぶよ~捕まってて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます