第11話 異世界の『測量士』ってどんな仕事?

 どうも皆さん、アキトです。冒険者となるべく冒険者ギルドにやってきました。そしたら何故か、妻、保護者付きで逆圧迫面接受けてます。ギルドマスター室には重い空気が漂ってます。俺はもうこの場から逃げたいです。


 え?どうしてそうなったって?そんなの俺にも分かりません。しかも目の前に並んで座っている5人とも表情はぎこちないし顔色は悪いし、目は逸らされるし。


 面接官の中に冒険者ギルドのギルドマスターが居るのは分かる。俺は冒険者ギルドの冒険者になりに来たんだから。


 何でいきなりトップとの面接?っては思ったけど、冒険者ギルドってビルの中にあって自動ドアやエレベーター、エスカレーターもあって、まるで前世の会社っぽい感じなんだよね。前世の就職のための面接もこんな感じだったし、異世界に来たのにって違和感はあったけど、まぁそういうものなのかなって納得は出来たんだ。


 でも、何で商人ギルド長が居るの?って思ったけど、彼の場合、魔石が絡んでいるのかなって思えば、まぁそうなのかなって何とか納得は出来た。


 でも何で鍛冶ギルド長が居るの?地竜の魔石を売るっては連絡したかもしれないけど、その他の素材なんて持ってないよ?期待しているのかも知れないけど何かごめんね?


 一番分からないのが国王と王妃だ。何で国のトップが俺の就職の面接してんの?しかも王妃様は治療ギルド長でもあるらしい。仕事が出来る御人なんだろうなっては思うけど、本当何でここにいるの?治療ギルド関係ないよね?


 お互いの顔をチラチラ見て肘でつつき合ってるし・・もしかしたら情報の伝達にミスがあってやっぱりここに国王と王妃が居るのはおかしいって事?これはどういう事なの?俺はどうしたら良いの?


 隣りに座ってるエリは何故か目を細めてじっと5人を見てるし。


 ガイアは岩から作った大盾構えて俺の左前にいるし。ねぇガイア?これ面接だよ?戦いに来たんじゃないよ?そして誰も突っ込まないし。俺?勿論突っ込めません。


 後ろの4人は並んで立っているっぽいけど、面接中に振り返る訳にも行かないから、表情が見えないし。


 お互いの挨拶が終わってから既に5分。全く会話が進みません。どうしたらいいの?これ・・


 俺がひたすら困惑していると、後ろからアーシェの凛とした声が響く。


「この国を治めるトップの5人が礼を尽くし、我らが主人アキト様とエリミナーデ様を出迎えた事は評価します。ですが今回、私共はアキト様の就職について訪問したのはご存知ですよね?なら先ずは業務内容の説明。雇用条件の説明がないと話が進みませんよ?何時までアキト様、エリミナーデ様をお待たせするのですか?」


「はっ、はい!失礼致しました。では、先ずはこちらを御覧下さい」


 アーシェの一声に弾かれるように立ち上がった冒険者ギルドのギルドマスターがテーブルの上に地球儀のような物を置いた。その地球儀はざっと見で1/10程は地図が記入されているものの、その他は真っ黒だった。


「これは地図の魔道具で世界儀と言い、この世界を表したものとなっています。この地図が記載されている部分が、我ら冒険者ギルドがこのシステムを造り上げてから約50年の間に開拓出来た部分になります」


(この世界は元の世界の4倍の表面積があるってあーちゃんが言ってたけど、その1/10しか開拓出来てないってことは、元の世界の半球くらいの面積も開拓できていないってことか)


「そしてこちらのシステムは調査端末をギルド会員証に組み込んであり、ギルド会員証を持った人物が黒い部分を踏破するとこの世界儀に反映され地図が表示される仕組みとなっています」


「つまりギルド会員証を持って旅をすれば良いってことですか?」


「測量するだけならその通りです。現在S級を始めとした測量士の皆さんにご協力頂き、未知の開拓を行っていますが、S級でも手こずるような環境、モンスターが現れることもあって難航している現状です」


「ふむ・・」


「しかし、未知の部分に危険な病原菌がいるかも知れない。凶悪なモンスターがいるかもしれない。未知の文化があるかも知れない。有益な資源が眠っているかもしれないと考えると私共は少しでも把握して置きたいと考える訳です。危険があるなら対処方法を持っておきたい。有益なものがあるなら確保しておきたいというのは施政者としては当たり前のことですから」


「まぁ、分かります」


「そして何より、この世界はモンスターがいることもあって命が安い世界です。もしかしたら我々が知らない未知の部分で誰かが困っているかも知れない。子供が泣いているかも知れない。でもこの国に来れば助けてあげられるかもしれない・・そんな状況であればやっぱり何とかしてあげたいと考えている訳です」


「ほほぉ、それは立派な考え方ですね」


「ありがとうございます。ですが、その道程はなかなか困難です。例えば・・ここを見て頂けますか?」


 ギルドマスターが指さしたところは線状に地図が記載された部分であった。


「ここは飛行能力をもった測量士が空を飛んで開拓を行った部分です。おそらく一気に範囲を広げようとしたんでしょうね。真っすぐ飛んでいって・・何かに襲われたか自然災害に巻き込まれたかは不明ですが、ギルド会員証がここで止まってしまいました」


「・・・・・・」


「そしてこちら。本当に小さくて分かりづらいかもしれませんが、点が見えますでしょうか?」


 ギルドマスターが指さした部分には真っ黒な中に本当に小さい点がついていた。


「ここは転移能力持ちの測量士が向かった先なのですが、転移したあと恐らく現地で10mほどは移動したのだと思いますがそこで止まってしまいました。やはり何かあったのだとは思います」


「・・・・・・」


「飛行能力を持つ測量士も転移能力を持つ測量士もS級・・個人でドラゴンは倒せる実力を持った者達でした。そんな実力者であっても難航しているのが『測量』なのです。ですのでアキト様にはその御力を見込んで、是非とも冒険者ギルドに加入して頂き測量士となって頂きたいのです」


(でも、やっていることは冒険者のそれと変わんないような?)


「まぁやっていることは探索、探検、冒険・・既存の冒険者と大きく変わらないのですが、地図の完成を目的としているため測量士と別個に呼称しています」


「なるほど(くっ、心を読まれたか?)」


「ちなみに報酬と致しまして、かなり危険な仕事であることから月収1000万。もし地図の拡大を成功した場合には、入手した素材や魔石をどんな状態の悪いものでも無条件での買い取りをお約束致します。無論、通常の買取も行いますが、地図の拡大が最低条件であることをご理解願います。またその他資源の発見や未知の発見については報告を頂き、確認が取れれば追加報酬としてお支払い致します」


「ほぉ。その確認というのはどうやってやるんです?」


「えぇっと・・」


 ギルドマスターがチラっと国王と王妃を見ている。


「アキト様、アーカイヴで確認するんですよ」


「「「「「!?」」」」」


「アーカイヴ?確か情報の保管庫だっけ?」


「そうです。新しい何かを発見すると、その情報がこの世界のアーカイヴに記録されますので彼女はそれを覗けるのでしょう。ですが、その効果が及ぶのは既知の部分・・恐らく開放された地図の部分だけ。未知には対応できないので困っているんでしょうね」


「「「「「・・・・・・」」」」」


「へぇ、なるほど。そのあたりの事はともかく、確認が出来るのなら安心だね」


「その・・あ、あの、話を続けさせて頂いてもよろしいですか?」


「はい、どうぞ」


「報酬の支払いについてですが、それにも問題が有りまして、報酬は我が国で使用している通貨でお支払いするのですが、未知の世界では使えないんです」


「まぁ、そりゃそうでしょうね」


「なので稼いだお金を使うには我が国まで戻ってこなくてはならず・・新しい文化を見つけた場合に際して通貨の代わりとして宝石や珍しい鉱物を準備してありますが、相場も分かりませんし・・転移能力持ちであればそのあたりもカバー出来ますが、無ければその場、その場を自分で何とかしてもらう・・そういった感じになります」


「あ~、なるほど」


「勿論、『測量』は冒険者ギルドのみならず国をあげた事業となりますので、もし測量士となって頂けるのであれば、冒険者ギルドのみだけではなく国としても全面的なバックアップをさせて頂きます」


「あぁ成る程。だから国王様達がここにいる訳ですか」


「その通りです」


「それで・・いかがでしょうか?」


「例えば未知の部分で孤児を見つけた場合は連れ戻っても保護してくれると言うことですか?」


「勿論です。無論、感染症対策などを行うため少々の間淋しい思いをさせてしまうかも知れませんが、人道に悖ることは絶対に致しません」


「ふむ。もし、新しい鉱山や植物などの資源を見つけて報告したとしてもどうやって取りに行くのですか?」


「安全が確保出来る場所については転移能力を持ったチームを作成して派遣といった形になります」


「なるほど。例えば孤児、もしくは助けたい人が未知の種族であっても大丈夫ですか?」


「それは・・感染症対策を行った上でこの国の施策に対応できるのであれば、ですかね。もし対応できないのであればどこか住む場所を見繕って一箇所にまとまって頂き、最低限の援助で見守っていくという形になるでしょうか」


「ふむ。最低限とは言え、援助はして頂けるんですね」


「まぁ、国の施策に対応出来ないとは言え、敵意を持たないのであればもう少し手厚く援助しても国民は納得させられると思いますが、流石に敵意を持たれると可愛そうだと思っても援助はしずらい・・そのため最低限と表現しました」


「なるほど。で、あればそうですね。その理念に俺は賛成します。俺を冒険者ギルドに加入させて下さい。測量士になりたいと思います」


「本当ですか!ありがとうございます」


「どこまでやれるかは分かりませんが、全力を尽くします」


「ありがとうございます。では早速ギルド会員証を作成しますのでこちらの用紙の要項をお読み頂きサインを頂けますか?あ、あと地竜の魔石をお持ちでしたら買い取りさせて頂きますので、この場で構いませんので提出をお願いしてもいいですか?」


「あ、はい。じゃあこれをどうぞ」


「ありがとうございます。それで買い取り分のお金は現金として受け取るか、ギルド会員証に入金するか選べますがいかが致しましょう?」


「あぁ、せっかくだから観光してみたいのです。現金として貰っても良いですか?」


「国内であればギルド会員証でキャッシュレスで買い物ができますよ?地方になるとキャッシュレスが出来ない店舗もありますが・・」


「あ~そうなんですね。とは言え、お小遣いとしても渡したいし、やっぱり現金でお願いします」


「かしこまりました。ではお預かりします」


「就職おめでとう。貴方♪」


「うん、ありがとうエリ。俺、頑張るよ」


「「「「「御就職おめでとうございます。アキト様」」」」」


「うん、皆もありがとう」


「じゃあ今日はお祝いにゃん。いっぱい食材買って帰るにゃあ」


「スィーツ、スィーツもお忘れなく~」


「ふふ、そうだね」



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