第9話 夫婦になりました

 アキトが目を覚ますと寝室のベッドの上だった。


「はっ!?主神様はどうなった!?」


「ふふっ。おはようございます、あ・な・た♪」


「え?」


 アキトが声をする方を見ると天界で見たあの美しい女性が隣に寝ていた。


「あ、もしかして?」


「そうです。貴方の妻のエリミナーデです。エリと呼んで下さい」


「体は大丈夫?俺、途中から記憶がなくて。上手く行った・・のかな?」


「はい。無事成功しました。大丈夫ですよ」


「そうか。良かった」


 まだ会って数日しか経っていないのに関わらず、エリの姿を見ていると何故か愛おしくて仕方がない。その薄い灰色の瞳も薄い唇も金色の髪もエリを形どる何もかも全てがアキトの胸の奥を激しく叩き、愛を溢れさせる。どうしてこんなにもエリに惹かれるのか?その理由は分からないがとにかく抱きしめたい。そう思った瞬間、アキトはエリを抱きしめていた。


「きゃっ」


「エリ。愛してる」


「・・うん。私も」





 その頃リビングでは、


「おぉ、アキト様が目覚めたようですね」


「そうですか。それはエリミナーデ様もお喜びでしょう」


「そうなの。これでアキト様の魂の傷もすぐに癒えるの」


「そうですねぇ~。アキト様は無自覚ですが~、承認欲求を満たしたいようですから~」


「そうにゃん。アキト様を肯定する存在は多ければ多いほど良いにゃん。エリミナーデ様はその最たるものにゃん、きっとアキト様の傷もすぐに癒えるにゃあ」


「フレア様の仰る通りです。ですがアキト様は強力すぎる力を制御できない事を理由に現地人との関わりを嫌がっています」


「そこは訓練次第じゃないにゃん?」


「それにはもう少し時間が必要でしょう。ですが、報告からすると、他人を信じて裏切られることや失望してしまうことを恐れているから距離を取ろうとしているのでは?」


「アウラ様、正にその通りです。ですが恐らく私達ではその部分は解決出来ないでしょう」


「どうしてなの?」


「私達が人間ではなく、既に他人ではないからです」


「「「「・・・・・・」」」」


「アキト様は天界に行かれた際、すごく巨大な皆さまとお会いになりましたよね?」


「そうなの。アキト様の魂は萎んでて黒くなってて可哀想だったの」


「そこで皆様がアキト様を労るような仕草を見せたため、アキト様は安心していましたが、それはエリミナーデ様がアキト様の魂を掌で包んだお陰で愛し子のフィルターが掛かったからです。ですから皆さんが顕現された後もエリミナーデ様の従属神という事でフィルターが掛かったままのアキト様は態度を変えることもなく接しられています」


「・・・・・・」


「私と出会われてからは、まるで幼児のようにすぐに甘えを見せました。それはきっとエリミナーデ様が私にアクセスするよう指示したから。私の名前が番号で声だけの存在であったから。そして有益な情報を示すことが出来たからです。その後、多少口調を崩しても態度が変わることはありませんでした。」


「・・・・・」


「だから、恐らく幾ら私達が肯定してアキト様が前向きになったとしても、現地人に裏切られるようなことがあれば・・」


「そんにゃんエリミナーデ様がこの世界をぶっ壊しちゃうにゃあ」


「えぇ、そうです。なので、アキト様には成功体験の他に距離を置いても大丈夫な信じられる友人を準備する必要があるでしょうね」


「アキト様が神であることを自覚して頂く方向は駄目ですか~?」


「恐らくそれでは魂が成熟しません。アキト様は今はまだ自分の事を神としての認識が甘く、特殊な能力を持つだと認識していますから。それはそれで丁度良いのですが」


「そうでしたね~」


「アキト様なら大丈夫なの。きっとエリミナーデ様との生活を向上させるために、頑張るはずなの」


「そうですね。時間は掛かろうとも、いずれアキト様の目は外に向くでしょうから。その前に私達もいろいろと動く必要があります」


「どんな感じに?」


「エリミナーデ様が降臨された事や私達がここに居ることは既に中央サークル王国の国王を始めとした重鎮達には知られています。アーカイヴの使い手がいますので」


「にゃるほどにゃあ」


「あちらから接触してくることはないでしょう。怒らせたら世界が終わることは理解していますので。なので明日、私が先触れとして顔を出してきます。ちょうどあちらで困っていることがあるみたいなので、それを仕事としてアキト様に熟して頂きましょう」


「ふむふむ~アキト様に成功体験を齎すと共に他人との関わりを繋げるような~?」


「その通りです。ですが、そのためには先ずアキト様が御自身の力を制御する必要があります」


「にゃあ先ずはアキト様の訓練が必要な訳だにゃあ?」


「はい。皆様には申し訳有りませんが、よろしくお願いします」


「まかせるにゃあ」


「ガイアも頑張っちゃうのです!」


「私にも任せて下さいね~」


「お任せ下さい」






 その頃、中央サークル王国では緊急会議が行われていた。出席者は5名。いずれも転生者であり、建国の祖達である。


国王カリム。


国王カリムの妻にして治療ギルド長、王妃アーミラ


鍛冶ギルド長 ミナデ


冒険者ギルド長 シリウス


商人ギルド長 ビスタ


 5名の表情は固く顔色は悪い。しかし国を代表するものとして、この国難に立ち向かわねばならなかった。


「なぁ、アーミラ。何回も聞くようで本当に申し訳ないんだが、その、本当に女神様が?」


「・・そうよ。全ステータスが100億の化け物よ。機嫌を損ねたら国どころかこの世界が終わる。そんな化け物が今、東海岸沿いに居る。何をしに来たのかなんて分からないけど、いずれ間違いなくこの国に来るでしょうね」


「100億って・・」


「絶対、勝てる理由無いじゃん」


「そうだな。たかが100万位で世界最強なんて奢ってた過去の俺を全力でぶっとばしたい気分だぜ」


「それだけじゃない。10億が1人、8億が4人、5億が1人居る。誰が来てもこの国が終わるわ」


「「「「・・・・・・」」」」


「だけどよぉ、問題はその神様達が敵対的な勢力かどうか?ってことじゃないのか?」


「違うわよ!幾らうちが服従の姿勢を示したとしても、どっかのばかがよそでやんちゃして怒らせたらうちまで巻き込まれるって言う話なの!」


「だったら、もうどうしようもないじゃん・・」


「なぁ、ビスタ。天啓で今後の女神達の動向を知ることは出来ないか?」


「う~ん。今は俺達が動くなって事しか分かんないなぁ」


「いや、こっちから接触して何かあったら嫌だからな。世界を終わらすトリガーにはなりたくねぇぞ」


「逃げたいのは分かるけど、それじゃ困るから会議してんでしょうが!」


「・・なぁカリム。お前と結婚してからますますアーミラが・・」


「なんですって!」


「何でもないです!」


「お前ら遊ぶのやめろよ。結局何も分からないんじゃどうしようもないだろう?」


「「「「・・・・・・」」」」


「とにかくアーミラとビスタが何か分かったらすぐに情報を共有する。とりあえずそうしとくぐらいしか出来ないだろう?」


「そうだな。シリウスの言うとおりだ」


「なぁカリム。東の海岸線に一番近い街、ザルビシュには兵を送ったんだろう?」


「あぁ、ザルビシュから更に東に向かう人が出ないように予防線は張った」


「ビスタ、ザルビシュへの転移システムの管理は大丈夫なんだろ?」


「あぁ、24時間体制で見張らせてる」


「うちもギルド員に注意喚起はした。興味本位で向かう奴はいないと思うが一応俺も最前線でバカをやるやつが居ないか見張らなきゃならん。だから俺はザルビシュに向かうわ。なにかあればスマホに連絡くれ」


「すまんなシリウス」


「じゃあな」






 しばらく後、つやつやとしたエリミナーデと寝起きなのにちょっとげっそりしたアキトがリビングに現れた。


「「「「「おはようございます。アキト様、エリミナーデ様」」」」」


「おはよう。誰かは知らないけど俺の事ベッドまで運んでくれたんだね?ありがとう」


「いえいえ、エリミナーデ様の御顕現、真におめでとうございます」


「うん、ありがとうね。それでね、あーちゃんにちょっと相談があって」


「はい、何でございましょう?」


「エリの服は出せたんだけど、下着がね。ちょっとイメージ出来なくて」


「あぁ、成る程。では早速」


「では、エリミナーデ様。アキト様がせっかく下着を出してくれるとの事ですので入浴してお待ちになりませんか?」


「そうね。じゃあ、そうしましょうか」


「お供致します。こちらです」


「じゃあ、アキト様。御力の方お願いします」


「うん」


 アキトが力を振るうとブラやショーツ、その他、アキトが見たことがないような衣類が沢山現れた。


「では、申し訳有りませんがこちらをどなたかエリミナーデ様まで届けて頂けますか?」


「わかったにゃあ。ちょっと行ってくるにゃあ」


「ありがとうございます。ではアキト様こちらへ。お話があります」


「ん?何?」


「今後の事についてです」


「え?ま、まさかハーレムの事?」


「え~私もご寵愛いただけるのですか~」


「も~アキト様のえっち!でもアキト様なら良いかもなの」


「え?あっ、あの」


「違います!頭が花畑になってしまったのですか!?」


「あうぅ。だって・・」


「良いですか?エリミナーデ様が顕現され、アキト様は夫として一家の大黒柱にならなくてはいけません。それは御理解していますか?」


「はい、その通りです」


「エリミナーデ様可愛いですよね?」


「・・うん」


「エリミナーデ様を愛してますよね?」


「う、うん」


「何で恥ずかしがってるんですか!」


「何この羞恥プレイ!何でそんな事告白しなきゃいけないの!?」


「それは良いんです。私が言いたいのはですね・・」


「うぅ、聞いてくれないよぉ・・」


「アキト様はエリミナーデ様と結婚式は上げていませんが、事実上の夫婦になりました。それは良いですね?」


「うん」


「であれば、アキト様は大黒柱としてエリミナーデ様が不自由なく暮らしていけるよう、頑張って生活環境を改善しなきゃいけないってことです」


「ふむふむ、そうだよね。俺が頑張らなきゃ」


「その意気です。エリミナーデ様に可愛い服を買ってあげたいと思いませんか?」


「思う」


「エリミナーデ様といろんな所でデートしてみたいと思いませんか?」


「思う」


「エリミナーデ様に美味しいものいっぱい食べさせてあげたいと思いませんか?」


「思う」


「そうです。ですが、そのためにはまずお金を稼がねばなりませんよね?」


「うん?うん」


「美味しいものを食べるためには魔素を含んだ調味料が必須です。ですが、それらを作るには手間も暇もかかります。それなら当面は購入しなければなりません。それともエリミナーデ様に我慢させるんですか?」


「そっか。魔石一個あるけど幾らで売れるかなんてわかんないしな。いっぱい働かないと」


「ここから一番近い中央サークル王国に魔石を売るためには冒険者ギルドに加入しなければなりません」


「う~ん、ギルドに加入か・・」


「勿論、アキト様の懸念も分かっております。ギルドに加入する時は私も付いていきますし、なるべく他の冒険者と合わなければ安心でしょう。ですが先ず特訓をして自信をつけることが先決です」


「特訓?」


「はい、そうです。幾ら力を持っていても正しく使われなければアキト様も他の人も不幸になってしまいます。だから正しく使う訓練をしましょうって事です」


「ふむふむ」


「なので、明日から食材の確保をしながら力を振るう特訓をしましょう。先生は私を含めた従属神の4名が行います」


「分かりました。お願いします」


「はい。それでアキト様。本日は私と従属神4名の部屋の増築とお風呂の拡大工事、トイレの数を増やす工事を行いましょう。家具はガイア様にお願いしますので」


「うん。分かった」


「頑張るの」



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