第8話 女神降臨

 アキトがシャワーから戻るとリビングのイスにはアーシェが座って待っていた。


「アキト様、早速ですがこれからの予定を確認させて下さい」


「あ、えっと先ずは家具を揃えたいよね。食材は昨日の地竜のロース肉があるけど、肉しか無いから果実や野菜も探したいし」


「成る程。では申し訳ないのですが、先ずは従属神4人の依り代を創る事を優先してもらっても良いですか?」


「え?何で?」


「人手が増えれば同時に行う作業量が増えるからです。それに何より最優先目標はエリミナーデ様を降ろす事です。今、この瞬間にもエリミナーデ様はアキト様のことを案じてますよ?早く安心させてあげて下さい」


「そっか。ならそうしよう。でも、どうせ温める作業が必要なら最初から寝室でやった方が良い?」


「いえ、創るときは広めの空間があったほうが安定しますのでここで。依り代も創り上げたとしても余程ほったらかしにしなければ死ぬ事はないので大丈夫です」


「そうなんだ、分かった。じゃあ、あーちゃんよろしく」


「はい、私が型を作るのでそこに御力を注いで下さいね」


「うん」


「はい!お願いします!」


「そりゃあ!」



 アキトは6時間掛け、何とか従属神4人の依り代を完成させ、降ろすことに成功した。


「水の歌姫、ディーヴァと申します~。よろしくお願いいたします~」


「火の料理人、フレアにゃん。よろしくにゃん」


「風のメイド、アウラです。よろしくお願いいたします」


「土の騎士、ガイアなの。よろしくお願いしますなの」


「うん、アキトです。皆さんよろしくお願いします」


「アキト様よりアーシェの名前を頂きました第2894735宇宙所属のアカシック・レコードです。皆様お待ちしておりました。これからよろしくお願いします」


「さ、次はとうとう主神様だね」


「アキト様お待ち下さい」


「ん?」


「エリミナーデ様が降りる準備はまだ整っていません」


「え?俺達全員で依り代を創るって、主神様が待ってるって言ってたじゃない」


「その通りです。ですが、エリミナーデ様を降ろす時に今までより更に御力を振るって頂くようになります。恐らくアキト様はそのまま動けなくなるのではないかと予想されるので、先にお迎えする準備を整えたいと思います」


「え?準備って何をするの?」


「先ずアウラ様。今からこの近辺のマップデータと食材の場所を送りますので、申し訳ないのですが確保をお願いします」


「分かりました」


「ガイア様。データを送りますので、家具、食器、調理器具の制作をお願いします。調理器具の作成を優先でお願いします」


「分かったの」


「フレア様は地竜のロース肉を使った料理を、またアウラ様が食材を確保してきたらその都度出来る料理をお願いします」


「分かった。任せてにゃん」


「ディーヴァ様は環境整備ですね。お風呂の準備が終わったら空気の入れ替えとマーキング。そしてアキト様に癒やしをお願いします」


「分かりましたわ~」


「アキト様は地竜のロース肉をフレア様にお渡しになったら、私の準備ができるまで少しお休みになっていて下さい。私はこれからエリミナーデ様の型を作る作業に入ります」


「あ、でも」


「良いからアキト様は休むの」


「そうにゃん。絶対失敗出来ないんだから、先ずは万全の体制を整えるのが当たり前の事にゃん。それよりお肉頂戴にゃん」


「雑事は全て私共にお任せを」


「アキト様~どうぞこちらでのんびりされて下さい~」


「・・はい」


 アキトがフレアに地竜の肉を渡し、リビングでぼ~っとしているとガイアがぽんぽんとフライパンや中華鍋、その他調理器具や食器、食器棚、冷蔵庫を作り上げていく。


 フレアはどうやっているのか分からないが、じゅーじゅーと良い音と匂いをさせているからには料理をしているようだが、まるでエア料理をしているようにしか見えない。だが中華鍋を振るうフレアの手際はかなり上手だ。


 アウラは出ていったと思うと1分ぐらいで帰ってきてフレアに何かを渡すとすぐまたリビングから出ていく事を繰り返した。


 ディーヴァはお風呂に水を一瞬で溜めた後は、空気を流動させ換気しているようだ。作業中も鼻歌を歌っておりどこか優しいその声に思わずアキトは聞き入ってしまう。


 アーシェはイスに座ったまま目を閉じ、微動だにしない。きっと今頃、主神様の型を一生懸命創っているのだろう。


 皆がそれぞれ仕事を熟しているのに一人だけぼ~っとしているのは申し訳なくて何だか気が引ける。だけど主神様の依り代は6人で力を合わせないと創れないというのであればあーちゃんの言う通り、俺は全てを出し切るようになるんだろう。ここは甘えさせて貰ってしっかり休まなきゃ。


 そんな事を考えているとガイアがちょこちょことした感じで何かを運んできた。


「アキト様、おまちどおさまなの。どうぞ召し上がれなの」


「え?良いの?」


「アキト様は~私達の依り代を創るのに食事もなさらずに、ずっと頑張っていた様子ですので~。どうぞ召し上がって下さい~」


「でも、皆は?」


「私共はまだ平気ですので~」


「そうなの。遠慮しないで食べて欲しいの」


「そうにゃあ。美味しいものを食べると心も体も満たされて、また頑張れるようになるにゃん。冷めない内に食べると良いにゃん」


「・・うん、ありがとう。頂くね」


 目の前のステーキ皿には厚めの地竜のロースステーキが鎮座し、その横には人参?のグラッセのようなものとほうれん草?のソテーが添えられていた。


 ナイフとフォークでロースステーキを切り分けると肉汁が溢れ、ステーキ皿からはじゅぅぅぅと暴力的に魅力ある音が響き脂が踊るように跳ねていく。


 一切れ口に含むと焼き肉とはまた違った旨さがアキトの口内で暴れ出す。アキトは噛めば噛むほど溢れる肉汁とその旨さに感動しながらも飲み込んだ。もっと食べたい、早く食べたいという欲求がアキトを突き動かす。あっという間に皿を空にすると満足げにアキトが呟いた。


「美味かった。満足だ」


「当然だにゃあ。アキト様のためにあたい達全員で頑張ったにゃあ」


「フレアったらもう。アキト様、御気に召して頂けましたか?」


 いつの間にか後ろに控えていたアウラが声をかけてくる。


「あ、あぁアウラさんも食材集めありがとう。とても美味しかったよ」


「私共の事は呼び捨てで構いませんよ?でもアキト様に喜んで頂けたのなら幸いで御座います」


「そう?でもここまでやってもらって呼び捨てはなんか失礼な気がするから、せめてさん付け位は・・」


「嫌にゃあ。さん付けで呼ばれたら、あたいらアキト様に壁を作られてる気がするにゃあ。だから呼び捨てで良いにゃん」


「そうですね~天界でも申し上げましたが~アキト様は私達の御主人様となる御方ですので~。呼び捨てにするのに慣れて頂かなくてはなりません~」


 アキトが躊躇っているとガイアがちょこちょことアキトの元にやってきた。


「そうなの。私達はアキト様に呼び捨てで呼んで貰いたいのです。駄目なの?」


 ガイアのうるうるとした上目遣いはアキトの他人にはなるべく礼を尽くしたいという矜持を叩き折るには十分な威力があった。


「・・分かったよ、ガイア。これでいいかい?」


「うん!ありがとうなの。アキト様」


 ガイアがとびっきりの笑顔を見せると、フレアもディーヴァもアウラも穏やかな笑みを浮かべ、リビングが温かい空気に包まれる。その時一人作業を続けていたアーシェが開眼し立ち上がる。


「お待たせしましたアキト様。エリミナーデ様の型の準備が整いました。ちょうど皆様も揃っているようですし、エリミナーデ様の依り代を創りたいと思いますがよろしいですか?」


「うん、俺は大丈夫。皆のお陰で気力も体力も十分だ」


「あたいは勿論大丈夫にゃあ」


「何時でも大丈夫ですよ~」


「頑張るの!」


「私も何時でも大丈夫で御座います」


「では皆さんこちらに」


 アキト達はリビングの開けた場所に集まる。


「アキト様はここで。その対面に私が。アウラ様がアキト様の左にフレア様がアキト様の右に。ガイア様は私の右に。ディーヴァ様は私の左に来て下さい」


「うん、分かった」


「「「「はい」」」」


 アキト達がアーシェの指示に従い指定された場所に立つとそれぞれを頂点とした六芒星が出来上がった。


「ではアキト様よろしいですか?」


「うん、何時でも」


「エリミナーデ様を想って力を注いで下さいね」


「うん」


「他の皆様はアキト様に合わせて下さい。私は皆様の御力を束ね誘導するのに尽力します。よろしいですね?」


「分かった」


「「「「はい」」」」


「では、始めます。皆さん・・どうぞ!」


「「「「「はぁぁぁ!」」」」」


 アキト、アウラ、ガイア、ディーヴァ、フレアが六芒星の中心に向け力を振るうと空間に歪みが出始める。その力の影響は山脈を揺らし局地的な地震を引き起こす。


 近辺に生息していた生物は力の余波に寄る影響で失神し、空を飛ぶ鳥は落ちてそのまま絶命した。


 10分程すると空間の歪みは大きくなり、光を放つようになってきた。局地的だった地震は大地震となって周辺の国や村、現地人にも影響を及ぼした。


 震度2~3くらいではあったが、普段地震が無い世界において、地震を経験したことがない現地人を恐怖に叩き込むには十分であった。


「うひゃあああ、なんだこりゃぁああ」


「危ない!皆、建物から離れろ」


「助けてママァ」


 震源であるアキトの家はディーヴァが環境整備の際、家中に流体の神威をマーキングすることで全く揺れを感じることがなく、アキトはまさか外の世界がそんな事になってるとは思いもしなかった。


 しかし、力を注ぎ始めて10分以上経つと流石にアキトも疲れを感じ始めるようになった。汗が吹き出し、かざしている手も震えてきた。それはアキトのみならず周囲にいる従属神も同じようであった。


「あーちゃん!今、どんな感じ!?」


「95%超えました!もう少しです!頑張って下さい!」


「分かった!皆も頑張って!」


「「「「はい!」」」」


 それから3分。全力を出し続けたアキトは既に腕がガクガクと震え、呼吸も粗くなっていた。視点はあわず視野も狭くなり、思考能力も衰え、今自分が何をしているのかもすら分からなくなっていた。


 そして空間の歪みは更に大きくなり、光が強く大きくなっていき、光で周囲が見えなくなる頃にはアキトは気を失って倒れてしまっていた。



その頃、中央サークル王国では・・


「地震が落ち着きました。発生源は東側の海岸線です」


「我が国の被害を急ぎ確認しろ!アーミラを急ぎ呼び戻してくれ!」


「カリム。戻りましたよ」


「おぉ、アーミラ。この地震の原因は?」


「ちょっと待ってください。今、アーカイヴにアクセスしますから」


「うむ」


「カリム!」


「おぉ、シリウス、それにミナデも。皆来たのか?」


「当たり前じゃろう。この世界で地震だなんて。何か悪い事が起きなきゃ良いが」


「そうだ。まさか、どっかのバカが強岩支柱を破壊したんじゃないだろうな?」


「今、アーミラが見ている。もう少し待ってくれ。ところでビスタはどうした?」


「流通網の確認してから来るって言ってた」


「そうか。支障がなければ良いが・・」


「そ、そんな!そんなことって!」


「どうした?アーミラ。何が見えた?」


 アーミラと呼ばれる女性が顔を真っ青にし腰を抜かしている。その場に集まった皆もそんなアーミラの様子を見て表情を固くする。


「女神が・・降臨した」





 




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