第5話 家をつくりましょう

 アキトは地竜のロース肉を確保した後、急いで作りかけの自宅へ戻り、狭い通路の中にバーベキューコンロを作り上げると火魔法で火を起こし早速焼き肉を始めた。


 採れたての地竜のロース肉はバーベキューコンロの上でまるで火で化粧をしているかのような鮮やかな焼色を付け、その香りはまるで世界中の男性を虜に出来るほどの魅力的な女性のようだった。


 当然ながらアキトの目は焼き肉に釘付けとなっており、獲物を狙う狩猟者の物となっていた。


『アキト様、びーくーる。びーくーるですよ?まだですよ』


「だ、大丈夫。俺は冷静だ」


『そんな目をして冷静と言われても困ります。この肉が育ち上がるまでもう少しですからね。今、手を出したらロリコンの犯罪者ですからね』


「そんな!でも焼き肉でロリコン扱いは・・」


『今!』


 シュッ


 バーベキューコンロの上にあった肉一枚が一瞬でアキトの口内に消えた。アキトのステータスからすれば口内の火傷など起こり得るはずもない。アキトはただただ、だらしなく地竜のロース肉に心を奪われるのだった。アキトの目には思わず涙が溢れてくる。


「あぁ、美味い。それしか言えない。本当に美味い」


『そうですか、良かったです。そろそろ次の肉が・・今!』


「はっ!」


 アキトの一瞬のハンターの表情と肉を食べている最中のとろけた表情は、知らないものから見れば顔芸してんのか?と思われるほどの変化で、それをデータとして見ているアカシック・レコードは呆れつつもその情報を大切にどこかに送り届けた。


 一人焼肉を終えたアキトは気力も体力も充実しており、家の作成に意欲を見せていた。


「何か焼き肉して心も体も満足したからやれるところまでやっちゃいたいんだけど」


『どうぞ。アキト様のお気に召すままに』


「うん、ありがとう」


 アキトは通路を作ったときのように四角く岩を削り、抜く前に周囲を固めるという工程をひたすら続けていた。


「えっと、この部屋はリビング。そうだなぁ、贅沢して30畳くらいにしちゃおうかな。そして本棚と大きいテレ・・あっ、あーちゃん先生。ちょっといいですか?」


『どうしましたアキト様』


「テレビとか家電とかの無機物も魔素が含まれてないと不味いですかね?」


『そうですねぇ。こっちの世界でもそう言った家電の類は魔道具として存在します。そして燃料として魔石を使用します。構造的には大きな差は有りませんが、エネルギー効率的にも魔石から電気を作ってあちらの世界のテレビを動かすより、こっちの世界のテレビをそのまま魔石で動かした方が良いでしょうね』


「え?こっちの世界ってテレビあるの?」


『ありますよ~。ここからだと更に西へ100㎞程行ったところに中央サークル王国という転生者が作り上げた国があります。そこにはテレビだけではなく様々な家電やスマホ、空を飛ぶ車、あちらの世界より高品質な服などいろいろ揃っています。20階建てのビルやマンションが立ち並ぶ町並みや離れた場所まで一瞬で移動する転移装置などがあり、この世界では唯一魔法と科学を組み合わせた魔導科学が進んでいる国です。更には冒険者ギルドのみならず、商人ギルド、鍛冶ギルド、治療ギルドなど様々なギルドがあり、この世界では一番暮らしやすいんじゃないでしょうか』


「転生者が作り上げた国?空を飛ぶ車?転移装置?なにそれすごくない?」


『そうですね。国民が安心して暮らせる国を目指して作っているみたいですからね。治安もよくスラムと言った場所も無いです』


「ほへぇ~、凄い人がいるんだね。とてもじゃないけどマネ出来ないや」


『ですが、いずれアキト様も主神となられ一部とは言え宇宙を支配されるのですから、一回視察しておくのも今後の為に必要だと思いますよ?』


「あ~そうだよね。うん、考えておく」


『・・やはり、人と関わるのが問題ですか?』


「うん」


『そうですか』


「・・・・・・」


『・・・・・・』


「さっき農民と地竜と俺のステータス見たじゃない?あーちゃん先生が言う通り、俺ってさ、この世界において圧倒的な強さを持っているんだってことは理解出来たんだ。でも、そんなにステータスの差があるとさ、ただ道を歩いてお互い悪気もなくただ肩がぶつかったってだけでも相手を殺しちゃいそうで・・」


『・・まぁ、そうですね』


「俺って、この世界では異物なんだろうなって思うんだ。だからなるべく人と関わらないようにしたほうが良いかなって。それに他人に利用されるのも他人に期待するのもまだ良いかなって。あっ、あーちゃん先生は別だよ?あーちゃん先生にはすごく期待してるよ?」


『・・ありがとうございます。しかし、ふ~む。アキト様がそれで良いとされるのであれば私がとやかく言うことはありませんね』


「うん、ありがとう、あーちゃん先生」


 その後、アキトは黙々と作業を続け、山脈の中に3LDKの家を作り上げた。


 先ず入口から入ってきて30畳のリビング。それにつながる15畳のダイニングキッチン、扉をあけると10畳の脱衣所と10畳の浴場。その隣にトイレを設置。リビングから階段をおりて45畳のプレイルーム。もちろんトイレも完備。リビングから階段をあがると寝室兼アキトの書斎とトイレがある。


 キッチン、風呂、トイレの配管は20㎝程の細い配管を通すようなイメージで下に流れていくような感じで穴を開け、海側の山の側面から外に垂れ流せるように繋いだ。


 広く作ったが基本は豆腐建築であり、建築家からすればセンスの欠片も見受けられない。それでもアキトは満足だった。


「あ~、俺頑張った。思ったより立派な家が出来た。俺って意外とやるもんだね」


『・・・・・・』


「あとは家具をちょこちょこっと入れていけば大丈夫かな?」


『そうですねぇ。しかしアキト様一人で暮らすにしては広すぎませんか?』


「うん?なんでだろうね?そう言う性格なのかも?大は小を兼ねるってね。それに広ければ贅沢してるって感じにならない?」


『と言うか、アキト様。ここで誰かと一緒に暮らす事を無意識のうちに考えていたのではないでしょうか?』


「え?俺が?誰かと?」


『そうですね、例えばメイドとか?』


「っ!?」


『メイドや執事に囲まれて旦那様とかご主人様とか呼ばれちゃったりして。アキト様はそういった読み物を前の人生で結構読まれていたと思いますが?』


「うん、確かに。仕事が忙しくなってからは全然読めなくなっちゃったけど、中学くらいからそういった小説は結構読んだかな。ってなんで知っているの?」


『だって私、アカシック・レコードですから。人の人生すら把握しておりますよ』


「そうなんだ?でもあ~、そっか。無意味に広く家を作ったのは、無意識にメイドと一緒に暮らすつもりだったから?そういう事なのかなぁ?」


『なら、メイドを創ってしまえばよろしいのでは?』


「メイドを創る?どうやって?」


『色々ありますよ?必要ならお教えしますが、でも先ずはアキト様がメイドが欲しいかどうかですね。必要がないのなら教えても意味がないですし』


「う~ん、メイドかぁ。う~ん」


(メイドといちゃいちゃってのは小説では鉄板だったよな?戦える超有能なメイド。しかもお色気成分たっぷりの。中学生の若い精神ではそんなメイドの魅力にはとてもじゃないが抗えなかった。しかし現実にそんな事が有り得る訳もなく。でもそれが今なら実現できる?・・・・・・むふ~)


「そ、そうだな。せっかく部屋を広く作ったし、掃除や家事なんぞこなしてくれる人がいると助かるかも知れないね」


『そうでしょう、そうでしょうとも。分かります』


「でも、せっかく創ったメイドを俺が間違えて壊しちゃうってこともあるんじゃない?」


『それなりに強度があるメイドをお創りになれば良いかと』


「ふむ。ち、ちなみにあーちゃん先生はメイドを創ることに対してどうお考えで?」


『私は創ったほうが良いと思いますよ』


「それはどうして?」


『それは勿論、アキト様のサポートをするためですが?』


「サポートかぁ。ふむふむ」


『そこには勿論、夜のサポートも含まれますよ?』


「なっ!?夜のサポートって?」


『アキト様・・私、アカシック・レコードですよ?アキト様のことはす・べ・て、において把握していますからね?完全網羅してますからね?そういうつもりは無かったとか、そんな言い訳なんか効きませんよ?』


「あ、はい。実はその・・ちょっとだけ・・興味あります」


『正直でよろしい!ならば、先ずはアキト様の好みの容姿、体型で創っていきましょうか』


「それって俺の性癖がもろにバレてしまうって事では?」


『とっくにバレてます。今更です』


「うわぁああああああああ」


 アキトはリビングの端っこで体育座りを始め膝の間に顔を埋めた。


「もう駄目だ。終わりだ。こんな羞恥プレイある?俺、明日からどんな顔して生きていけば良いの?」


『何言ってるんですか子供じゃあるまいし。強く生きて下さい』


「生きれないよ!性癖がバレちゃうとか恥ずかしすぎて・・」


『いいですか?アキト様。例えばですよ?他人に迷惑をかけるとか傷をつけるような性癖であれば、勿論私も軽蔑しますよ?』


「・・・・・・」


『ですがね、髪がブロンドで少し目が大きくてくりっとした美人で、スタイルが良く、少し胸が大きいエルフだったらいいなぁとか、わがままボディの猫耳メイドも良いなぁ。ちょっとだけえっちぃ下着を着せるのもありだなぁってのは大した性癖ではございません』


「言わないでよぉおおおおおお!」


『どうしてですか?世の中にはそういった性癖を理解してくれる同士とかなる者がいると私、知っていますよ?ちなみに先程お話した中央サークル王国の冒険者ギルドのギルドマスターは人間ですが奥様はエルフです。ちなみにアキト様の同士足り得ます。更に鍛冶ギルドのギルドマスターは人間ですが奥様がドワーフで所謂合法ロリってやつです』


「・・本当?」


『アキト様。先駆者はとっくに最前線をスピード全開で駆け抜けていってますよ?今更アキト様が多少その程度の性癖を暴露した程度ではとてもじゃありませんが追いつけませんね』


「・・俺、大丈夫?本当にそんなメイド創っちゃってもいいの?」


『そうですね、ばっちこーいって感じですね』


「分かった。俺、メイドを創る!」


『では、夜のサポートを含めて考えるとアキト様のような依り代ベースのメイドを創ったほうがよろしいでしょうね』


「ふむふむ」


『となると、魂をどうするかってことですが、そこはお任せ下さい』


「あてがあるの?」


『はい、エリミナーデ様と従属神の4人と私です』


「はぁっ!?神様呼んでいいの?それにあーちゃんはアカシック・レコードじゃん!魂あるの?」


『私の場合、疑似魂ですが問題有りません。神様達からも既に同意を得てます』


「えっと?どういう事?」


『ですが、創る順番に問題があります。エリミナーデ様以外であれば誰からでも良いんですが、エリミナーデ様を降ろす依り代を創るとなるとアキト様一人では無理です。先に私を含む5人を先ず創って6人で協力しないと無理でしょうね』


「え?メイドは一人で良いんじゃ?」


『別にメイドを6人作る必要はございません。エリミナーデ様は妻です。それは確定です』


「あ、はい」


『他には料理人やアキト様を守る騎士なんかも良いんじゃないでしょうかねぇ?』


「役割と言うか、仕事を変える?」


『そういう事です。ちなみに私の場合恐らく知識担当、アキト様の秘書あたりが一番力を発揮しやすいのではないでしょうか』


「え?でも、あーちゃん先生が依り代に宿ったら、俺一人の時はもうこうやってあーちゃん先生には相談できないって事?」


『出来ますよ。肉体を得た私も今アキト様と会話している私も全て私ですから』


「そうなんだ?」


『それに私もアキト様があんなに美味しそうに食べていた焼き肉を一緒に食べてみたくてですね。私にも依り代が欲しいなぁって』


「そういう事ならあーちゃん先生の依り代も創るよ」


『ありがとうございます!』




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実はこの世界は転生者が沢山いますが、転移者はいません。正確に言うと魔素の関係で転移者は爆発して死ぬからです。割と早く爆発します。主に肺が。

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