第4話 世界を支える強岩支柱

 次の日の朝。ベッドから起き出したアキトは野営の痕跡を全て処分(全て埋めた)し、木に掛けた人よけ・魔物よけを解除すると大空へ飛び出した。


『先ずは、そのままの方向に真っすぐ進んで下さい』


「はい」


 アキトは3㎞程上空を約100㎞程の速さで飛んでいた。森を抜け平原を抜けると海が見えてきた。


「へぇ~、海があるなんて。言われなきゃこの世界が地下世界だなんて信じられないよね」


『アキト様。進んだ文明ほど地下世界に潜りますよ。地表には有害な宇宙線が沢山降り注ぎますからね』


「そうなんだ?」


『ただ、アキト様の以前居た世界は、大気がとても綺麗なことで有名な世界でしたので宇宙の中では人気がありましたね』


「・・そうなんだ」


『っと、あれです。まだ遠いですがあそこに大きな柱が立っているのが見えますでしょうか?』


「あれ?あれってどこまで伸びて・・って、まさか?」


『そうです。あれが天井を支える強岩支柱です。まだ遠いからそんな感じはしないかもしれませんが、あの柱は直径100kmあります』


「そんなに太いの?」


『そして、あれと同じ巨大な岩の柱がこの世界に1万5800本あります』


「そんなに?」


『はい。そしてあれが壊してはいけない物になります。天井を支える柱が壊れたら天井が落ちてきますからね』


「成る程ねぇ~」


『そして強岩支柱には番号が振ってあり、支柱の何箇所かに分けて番号がペイントされています。その番号を覚えておけば地図がなくても今どのあたりにいるってのが分かると思います』


「地図、地図ねぇ。ってことは小説ではおなじみの・・」


『どうされました?アキト様』


「え~っと視界の端っこにこうやって、拡大、収縮の機能をつけて・・と。ついでに真ん中の三角が自分で青が味方。赤が敵で黄色は無関係な人っと。これでどうだ?」


『・・もしかして私から地図をリンクされました?』


「うん、まぁ小説では定番の地図魔法なんだけど、きっと便利だよ?」


『・・・・・・』


「あれ?あーちゃん先生怒ってる?」


『イエ、オコッテマセンヨ』


「何か口調が・・」


『そりゃね、いちいち私に聞くよりパっと見えたほうが便利なのはわかりますよ?ええ、そりゃ便利ですとも。ですがね?私の機能をリンクするなら作る前に私に一言あっても良かったんじゃないですかねぇ?』


「・・すみませんでした」


 アキトは土下座しながら空を飛ぶというとても奇妙なことをやってのけたが、あーちゃん先生はなかなか許してくれなかった。散々褒めておだててなだめすかせて今後、アカシック・レコードの機能に関する何かを能力として実現する際にはまず断りを入れてからにすると言うことを約束し何とか許してもらうことが出来た。


(やべぇ。アカシック・レコードって普通に感情あるのな。困った時に頼れないのは不味いからご機嫌取っとかなきゃ)


 アカシック・レコードは世界における知識の集合体であり、この世界のことを何も知らないアキトからすれば宝の山であり、武器である。しかしアキトはそれを上手く使う方法よりも先に大事な知識と上手く付き合っていく方法を模索せねばならなかった。


 そんなこんなをしているうちにアキトは強岩支柱にたどりついた。直径100㎞もある天井を支える大きな岩は近くで見ると正に壁と言った感じであった。


「ねぇねぇ、あーちゃん先生。さっき言った番号ってどこにペイントされているの?」


『ここだったら海面から100m程上にかなり大きくペイントされているはずです。見に行きますか?』


「いや海面から100mのとこって分かっただけでも良いかな。それよりも早く家を作って落ち着きたい」


『分かりました。ならここから北西にちょっと進んでそこから西を目指しましょう』


「はい、あーちゃん先生」


 アキトはあーちゃん先生の指示の元、空を飛ぶ。4時間も飛ぶと海からほんの少し離れたところに山脈があり、その山脈を越えると森が広がる場所を見つけた。その森の先には崖が有り、その崖のおかげで現地人の侵入を防いでいる印象をアキトは受けた。


『あの山脈の中を深く掘って中に家を建ててしまえば、森や山脈に住むモンスターからは襲われることはないでしょう。万が一、崖や森を超え山に侵入する現地人が居たとしても入口近辺に人よけを掛けるとか侵入しにくい場所に入口をつければ問題はないと思われます』


「そうだね。じゃあ掘り始める起点というか入口をどこにするか決めようか」


『そうですね。えーっと、アキト様。マップを見て下さい。入口に最適な場所をマーキングしました』


「どれどれ?拡大、拡大っとあぁ、ここね。分かった。ありがとう、あーちゃん先生。やっぱあーちゃん先生すごいよね、助かるよ」


『ふふん。それ程でもないのですよ。それより早く作業を進めましょう』


「はーい」


 アキトは山脈のヤギですらここは通らないんじゃないかと思われる崖のオーバーハング部分のわずか下を入口として掘り始めた。


 アキトはまるで某マイン◯ラフトのように四角く岩を削り、その周囲を固めてから岩を抜き取るという作業を繰り返した。その途中、削り取った岩を今後何かに使えるかも知れないと思い、所謂アイテムボックスといった能力を開発し、削り取った岩を次々とアイテムボックスに叩き込んでいった。


「ふ~、入口から始まって100m位は掘り進んだかな?」


『そうですね。ここをこれから拡張ですか?』


「うん、それもそうなんだけど、この広さがあれば最低寝ることだけは出来るから、先ずはここで採れる食材を知りたいというか確保したいかな」


『食材を優先ですか?落ち着きたいんじゃなかったんですか?』


「うん、やっぱり昨日の高級牛肉のことって俺的には結構ショックが大きくてさ」


『・・・・・・』


「俺、主神様には自由に生きても良いって言われてるから、それなら食事の部分は妥協したくないんだ。アイテムボックスも作ったし、日が出てる内に食材探ししときたいなって。食べられないあーちゃん先生には申し訳ないんだけど」


『・・良いんですよ。そういう事ならこの近くの森にモサイノシシとミッドカウ、崖の下には地竜。山頂の方にレッサー・ドラゴンがいますね。どれも肉が美味しいと評価がついているモンスターになります』


「ありがとう、あーちゃん先生。う~ん、どれから行こうかな?」


『一番美味しいとされているのがレッサー・ドラゴンの胸肉となっていますね。ただ今は子育て中ですので、食べるのなら幼体も仕留めたほうが良いでしょうね』


「いや~流石に子育て中のは、ちょっと・・」


『ですが、子育てが終わるまで森の食材は、アキト様とレッサー・ドラゴンの早いもの勝ちと言った状態になりますよ?先に始末してしまえば森の中の食材は全てアキト様の物になりますが・・』


「そうなんだけどねぇ」


『やはり子育て中と言うのが引っかかりますか?』


「まぁね。単なるエゴだって言うのは分かってるんだけど、そこまでしてレッサー・ドラゴンの肉食いたいか、食材を確保したいかって考えるとそこまでではないよなぁって」


『まぁ、気が進まないのであれば無理する必要はないでしょう。次にお勧めは地竜のロースですね。体型的に魔素の経路が多い為に肉の旨味がぎゅっと詰まっているとの情報ですよ』


「おぉ!ありがとう、あーちゃん先生。なら崖を目指しますか」


『そうしましょう』


 アキトは通路を駆け出すと入口から思いっきりジャンプしそのまま崖下まで飛んだ。崖下にはわずかながらに川が流れ、日が届きにくい所為か植物の姿は見受けられなかった。


「マップで見ると小さく赤い点は多いけど、地竜ってきっと大きいよね?」


『そうですね。幼竜でも5mは超えるとのことですから恐らくマップには大きく表示されると思いますけど』


「ふむ、拡大、拡大っと居た!えーっとここから南東に2㎞か。えーっとあっちだね。飛ぶよ、あーちゃん先生」


『了解でーす。ただアキト様、どうやって狩るのです?』


「う~ん、武器ないしな。頭殴るのじゃ駄目かな?」


『昨日のモサイノシシの事を考えると、あの時と同じ加減でも地竜は吹き飛んじゃうかも知れませんね』


「ふ~む。ビンタくらいだったらどうだろう?」


『そうですね。それぐらいで試してみて駄目だったらもっと力加減考えなきゃいけないですね』


「そうだよね。この世界の人達がどの位強いのか分かんないけど、手を払った程度で相手を殺してたら不味いよね?」


『そうですね。ちなみに現地の一般的な強さというかいわゆる農民のステータス出してみますね』


「うん」



名前 一般的な農民

性別 不明

状態 不明

体力 230

攻撃力 20

防御力 20

知力 2

素早さ 6

運 2


情報 

主に第一次産業を支える人達の事で能力は個体差が大きい。鍬、鋤などの装備を揃えるとわずかに攻撃力が上がるがそれでも一般的なゴブリンと1対1で運が良ければ勝てる程度。


「って、これじゃ農民はモサイノシシになんか絶対勝てないじゃない」


『えぇ、ですからモサイノシシなどは農村を荒らすようになると冒険者ギルドに依頼して討伐してもらうという形になりますね』


「おぉ、冒険者ギルドかぁ。やっぱりあるんだね」


『ちなみにですが、アキト様のステータスがこちらになります』



名前 アキト

性別 ♂

状態 安定

体力 1000000000

攻撃力 1000000000

防御力 1000000000

知力 1000000000

素早さ 1000000000

運 999


情報 

主神エリミナーデの愛し子にていずれエリミナーデと共に第9584765宇宙の前36方位を管理する主神となる予定の神。現在修行中の身であるが、優先すべきは魂の傷の修復である。


「え?あっ、はぁっ?十億?十億だって!?なんだこりゃ」


『当然ですよ。『神格』を持っているんですから。これでも低い方です』


「へ?あ、そうなんだ?」


『ですから、アキト様がその気になればこの世界は壊せるんです。良いですか?力加減には気をつけて下さいね』


「あ、はい。と言うか魂の傷の修復ってどうすれば?」


『それはアキト様のお気持ち次第です。なのでエリミナーデ様は自由に過ごせと言っているんですよ?』


「自由?」


『嫌なことがあったり心を傷付けられるようなことがあると少しずつ魂に傷が付いていきます。それを治すには、まず心が自由であることが必要です。エリミナーデ様はアキト様の魂の傷が癒えるのであれば、この世界を壊しても良いと考えてます』


「いや、流石にそこまでの事はしたくないけど、好きにしていいならさっさと食材確保して家を作って落ち着きたいってところだよね?」


『そうですね。それが良いと思いますよ』


「よし!ならビンタでゴー。優しくビンタでゴーだ!」


『はい、ビンタでゴーしちゃって下さい』


「って居た!あれだよね。マップでもそうだし、しかしでかいな」


『そうですね。成体となってそこそこ年令を重ねた個体でしょうか?約30mってところですかね?』


「ステータス出せる?」


『はい、どうぞ』


名前 地竜

性別 ♂

状態 安定

体力 9200

攻撃力 5750

防御力 10350

知力 23

素早さ 34

運 11


情報

キーンウッドの崖に住む地竜の中でぬしに相当する個体。通常種と比べ能力が15%ほど高くなっている。湿った岩が主食で、食べた岩石成分により体色が変化する。飛ぶことが出来ないドラゴン種の中で有名な種。


「ふ~む。昨日のモサイノシシと比べると随分と強いけど、自分のステータスを見た後だと・・」


『だから言ったんですよ。アキト様は神様達以外では最強だと。むしろ手加減しなきゃいけない分この世界で生きていくには大変かもしれませんね』


「そうかもねぇ。でも、あーちゃん先生がいるから何とかなるかな」


『ふふ。なら上手く仕留めて下さいね。弱めのビンタで十分ですからね』


「はーい、行きまーす」


 アキトは地竜の目の前に降りると、アキトに気付いた地竜が威嚇しようと口を開ける前に下顎に優しくビンタをかました。すると地竜の下顎がその瞬間破裂し、その衝撃は上顎まで破壊。顔の前半分を失った地竜はそのまま地に倒れ伏し絶命した。


「上手く行ったっぽいね」


『そうですね。アキト様流石です』


「じゃあロースの部分を頂くために解体を・・面倒だからそういう能力作ろうかな」


『そうですね、地竜の解体ならデータがありますのでそれを参照にしますか』


「おぉ、あーちゃん先生、ご協力ありがとうございます」


『ふふ~』


「じゃあ早速。えっと、薄く固い刃でデータが示した線上に刃が通る感じで・・っとこれでどうかな?」


 アキトが地竜に対し手をかざすと地竜が一瞬でバラバラとなる。アキトはその中からロースと思われる部分を確保した。


「じゃあ、帰りますか」


『っと、アキト様お待ち下さい。これほどの個体なら魔石もあるはずです。えっと、そこの肉と骨をどけてくれれば』


「これ?」


『そう、そうです。冒険者ギルドで買い取って貰えるはずですよ』


「おぉ!ついでに金策も出来るとはなんてラッキー!いずれ冒険者ギルドに行った際にはぜひとも高く買ってもらおう」


『そうですね。では帰りましょう』


「はーい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る