第3話 教えて!あーちゃん先生

 アキトはアカシック・レコードと相談しながら野営の準備を進めていた。しかし実際に行ったのは現地の人レベルどころか以前の世界でも類を見ないほどのレベルであった。


「えっと、ここに穴をほって、その分の土を壁にしてと。中をちょっといじって、こっち側にベッドを置いて、かまどはえーっとこんな感じでいいかな?」


 アキトがイメージして手をかざすと土がうねうねと動き出し、あっという間に8畳ほどの部屋が出来上がる。更にベッドやかまど、テーブルやイスが次々と出来上がる。かまどに枝や木片を入れ火魔法で火を付けると一気に野営?っぽくなってアキトは満足したように笑顔となる。


「後は、せっかくだ。好きなもの出せるんなら高級肉なんか食べてみたいな。あっ調味料も要るな」


『アキト様?アキト様?』


「な~に?」


『アホですか?えぇアホなんですね、アキト様は』


「えぇ?なんで急に?」


『現地の人レベルって言いましたよね?』


「だってあーちゃんが言ったんじゃん。火魔法で火を起こしたり、土魔法で壁を作ったりって・・」


『あーちゃんじゃありません!私の正式名称は・・』


「ごめんごめん。でもさ、言う通りにやったつもりだよ?何が悪かったの?」


『現地の人は土魔法で壁を作り風よけに利用しますが、厚さ10cmの壁を2mの高さで三方向に作ったらそれで魔力切れを起こします』


「・・えっとぉ?じゃあ、俺は魔力がすごいって事でどうかひとつ」


『私が言ったのは現地の人レベルでも高位の人を指します。無論例外は居て、アキト様と似たようなことが出来る人は居ますが、かなり数は限られます。なのでこれを人前でやったら間違いなく現地の王や貴族に取り込まれますよ?』


「あっ、あぁ、そうなんだ?王とか貴族に仕えるって何か面倒くさそうだよね」


『でしたら自重をお願いします』


「でも、せっかくここまで作ったのに・・」


『・・ならバレないように周囲に人よけや魔物よけをしておいたほうが良いです』


「ありがとう、あーちゃん!」


『だから私の正式名称は第2894735宇宙所属のアカシック・レコードですってば!』


「えへへ、ごめんごめん」


 アキトは野営地近辺の木に向かって「人も魔物もこっちに入ってきちゃ駄目」と言いながら手をかざす。すると周囲の雰囲気が変わりはじめる。野営地を囲むように力を振るうと、周囲から物音が聞こえなくなった。


「へぇ~、なんかすごいね」


『神が掛けた人・魔物よけですからね。恐らく数百年は誰も入ってこないでしょうね』


「そんなに!?」


『当然です。言ったじゃないですか?神とは森羅万象に置いて無限の力を振るえると。もう忘れたのですか?』


「あ、いや。覚えているけどさ。それがどれだけすごいことなのかまだ実感がなくて」


『・・そうですね。アキト様が『神格』を授かってからまだ数時間・・仕方がないですね。私がきっちり仕込んであげましょう』


「ありがとうあーちゃん!」


『だから私の正式名称は第2894735宇宙所属のアカシック・レコードですってば!いい加減覚えて下さい!』


「えへへ~、それより調理を開始しても良い?」


『・・どうぞ』


 アキトはテレビで見た高級牛肉を思い出し、イメージしてテーブルの上に出す。


「おぉ!おぉぉすげぇ!すごいってばさ~!!」


 調子に乗ったアキトは塩、胡椒などの調味料も出し、アカシック・レコードに美味しい肉の焼き方を聞きつつ切り分けた高級牛肉を焼き始める。


「おぉ!おぉ!おおぉ!」


 アキトの目の前で高級牛肉がじゅーじゅーと暴力的な音と匂いを発生させている。前世ではそれなりに給料を貰っていたアキトであったが、全然使う暇もなく、もっぱら食事はコンビニ弁当か社食を利用するばかりで食に対して贅沢をするということが無かったため、目の前の焼いている高級牛肉にアキトはすごく美味しいんだろうなと期待していた。


 高級牛肉が焼きあがる直前のアキトのボルテージは限界突破しており、口の端からは涎が出るほどであった。


 焼きあがった肉を急ぎ皿に乗せテーブルまで戻るといただきますの挨拶もせずにアキトは焼き肉を口内に放り込む。


 美味しい。確かに美味しい。だけどこれが本当に高級牛肉?アキトが初めて食べた高級牛肉の感想はそんなものだった。思わず箸まで置いてしまう。


 これならコンビニ弁当で十分だよな?色んな野菜とかもついててそれなりにカロリー計算や栄養素のバランスも考えられてるし。とアキトは考えつつもガッカリとした様子を隠そうともしなかった。


『どうしたのですか?せっかくの高級牛肉?でしたか?あんまり美味しくなかったのですか?』


「うん、なんかね。美味しいって言えば美味しいんだろうけど、何ていうか、期待したほどじゃなかったなって」


『ふむ。恐らくそれは魔素が含まれてなかったからじゃないですか?』


「魔素?」


『えぇ。アキト様はこの世界に来る際、魂こそ『神格』を頂きましたが、魂だけだったので、肉体をこの世界に合うよう調整されたものをエリミナーデ様が準備されました』


「ふむふむ・・え?」


『なので・・』


「ごめん、ちょっと待って?僕の肉体が準備されたってどういう事?」


『はぁ?今更何を言ってるんですか?神様が依り代無しに地上に降りてこられる訳無いでしょうよ』


「え?あ・・え?」


『鏡を作って見て下さい。って言うか自分の手とか今までと視点が変わったとか、気が付かなかったんですか?』


「えっと。あの、その~」


 アキトは急ぎ手鏡を作って自分の顔を見る。そこには銀髪の青目の西洋風イケメンが映し出されていた。


「はぁ?はあぁぁぁ!?」


 アキトは慌てて全身が映る姿鏡を作ると自分の全身を鏡に写した。そこには推定身長190cm程の体格が良く足の長いイケメンが映し出されていた。


「違う。こんなイケメン俺じゃない。俺はもっと小さくてヒョロくて髪が黒くて・・」


『良いじゃないですか。以前より格好良くなったんですよね?っていうか身長20cm以上変わってるのに今まで気付かないなんて、どういうことです?』


「ぐっ・・」


『ちなみにその肉体はアキト様より上位の神が作った依り代ですから。アキト様では手を加えることは出来ませんのであしからず』


「そ、そうですか」


『全く。話が脱線してしまったじゃないですか?いいですか?話を戻しますよ?』


「は、はい。すみませんお願いします」


 アキトはいつの間にか正座をしていた。


『この世界には魔素があって全ての生き物のみならず、ありとあらゆるものに魔素が含まれています。アキト様の以前の世界でいうと酸素とかタンパク質みたいなものです』


「ふむふむ」


『当然、この世界では魔素は体に必要なものとして認識されています。生物の体内には魔素を効率よく循環させる器官と吸収する器官、排出する器官があります。それは常識として覚えておいて下さい』


「それって血管みたいなもの?」


『そうです。なので、この世界に適した体でないと死んでしまいます』


「え?死んじゃうの?」


『当然でしょう。魔素を体内に取り込めても循環と放出させる方法が無いのですから。なので魔素が溜まったところが限界を迎えると爆発します』


「爆発しちゃうの!?」


『はい。なのでアキト様のお体を作ったエリミナーデ様には感謝しないといけませんよ?』


「あ~、そうだね。ありがとうございます。主神様」


『はい。で、また話を戻しますね、なので当然その体はこっちの世界に適応している訳で、適応していない世界の物を食べても魔素という成分が無いために物足りないと感じる訳です』


「ってことは、焼き肉するならこっちの世界の牛肉なら美味しいって事?」


『そういう事です』


「ってことは、引きこもりは出来ないって事か・・」


『引きこもりしたかったんですか?』


「うん。まだ新しい身体と能力に慣れてないしさ。思わぬ事故を防ぐってのもあるんだけど、暫くの間はあんまり人付き合いは増やしたくないなって」


『ふむ・・』


「・・・・・・」


『先程も言いましたが、アキト様は『神格』をお持ちですので、正直食べたり飲んだりしなくても平気です。我慢出来ればですが』


「・・・・・・」


『人と関わり合いたくなければ無人島でも探してそこで塩と魚で暮らしていくってことも可能です。なんなら海沿いの山に他人から見つからないように家を建てて、海から塩と魚、山からモサイノシシやワイバーンなどの肉や山菜、果実などを採ることが出来れば食生活はそれなりに充実させることが出来ます』


「おぉぉ、流石あーちゃん先生。そんな都合の良い場所あるの?」


『だから私の正式名称は・・もう良いです。場所はここからだと南南西に800㎞の位置と東北東に1500㎞の場所。西に500㎞の3箇所ですね。近くに村などの現地人の痕跡がなく海沿いで肉も山菜も果実も取れる場所でこの近辺なのはその三箇所のみです』


「成る程。その三箇所で気候が穏やかなのはどこ?」


『そうですね。特に変わりないかと』


「え?その東北東と西では2000㎞も離れるのに気候の差が無いの?」


『えぇ?アキト様が何を言いたいのかがちょっと分かりませんが?』


「だって2000㎞って言ったら北海道から九州までの距離だよ?おんなじ夏でも気温差があるし、夏と冬の厳しさが全然違うじゃない」


『・・アキト様。もしかしてこの世界に四季が無いのは御存知無い?あぁ、そりゃ無いですよね。この世界に来たばかりですし』


「・・あーちゃん先生ちょっと意地悪じゃないですか?」


『そんな事無いですぅ~私、意地悪なんかじゃないですぅ~。私の正式名称を何時までも覚えず略すアキト様ほど意地悪じゃないですぅ~』


「・・ごめんなさい」


『仕方ないですねぇ。あーちゃん先生が教えて差し上げますよ』


「・・はい。お願いします」


『この世界は地下世界なんです』


「はぁっ!?」


『この世界は地表から100㎞ほどの岩盤の下にある地下の世界で、気候の変動はありません。ですが海があるため雨は降りますし、風も吹きます』


「え?じゃあこの森が暗かったのって」


『それは単純に木や枝、葉に閉ざされて光が入ってこないだけです。この世界の天井には太陽球と呼ばれる光と熱を発生させる装置が間隔を開けてかなりの数設置されています。それが12時間点灯して12時間休むというのを順番に行っています』


「ふむふむ、それで疑似太陽を作り出してるってこと?」


『そうですね。で月は太陽球の5分の1の大きさの光だけ発生する装置があってそっちで夜間の光を確保します』


「ほほぅ。でも月が実物じゃなければ潮の満干期や波は無いってこと?」


『そうですね。この世界では月による潮の満干期は有りませんが、潮の流れによる波はありますよ?』


「成る程」


『ちなみにこの世界の表面積は、アキト様が以前暮らしていた世界の4倍はあります』


「何だって!?この世界の表面積だけで前の世界の4倍ってことは、その外壁も含めるとこの星ってかなり大きくない?」


『そうですよ~。ちなみに地表にはメタンガスを始めとしたかなり危険な有毒ガスなどがあるので、間違って天井ぶち破ったらこの世界は終わります。なのでかなり気をつけて下さい』


「あ、はい。ちなみに天井まではどの位距離がありますか?」


『30㎞位ですかね』


「ふむ、ありがとうございました。あーちゃん先生」


『はい。あともう一つ壊してはいけないものがあるんですが、それは見ながら説明したほうが分かりやすいかと思いますので、後ほどにしますね』


「はい。じゃあとりあえず一番近い西の500㎞の場所を目指すってことで良いですか?」


『良いですよ』

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