第2話 アカシック・レコード

「えっと、ディーヴァ様?」


「ディーヴァと呼び捨てで良いですよ~愛し子様」


「いや、そんな神様を呼び捨てだなんて」


「良いんですよ~いずれ愛し子様は私達の主人になるお方なんですから~」


「主人?」


「そうです~。私達は従属神ですからね~」


「えっと?ちょっと意味がわからないんですが?」


「そうですね~恐らくあの星で生まれ変わる際、記憶を消されたんでしょうね~お可哀想に~」


「記憶を?」


「愛し子様は我らが主神エリミナーデ様が愛された魂なのです~。いずれ愛し子様は成長してエリミナーデ様と結ばれることになり、」


「はぁ?ちょっ、ちょっと待って?」


「はい~」


「俺が?」


「はい~」


「さっきの綺麗な女性と?」


「はい~」


「結ばれる?」


「そうです~」


「いやちょっと待ってよ、どういう事?」


「ですから~愛し子様は~主神エリミナーデ様と結ばれ、いずれ第9584765宇宙の前36方位を管理する主神となる~。その為に生まれてきた魂なのですよ~」


「はぁ?」


「そして私達、従属神は主神に仕え支える事が目的で生まれてきた魂なのですよ~」


「あっ、あぁ、そうなんだ・・」


「それでですね~愛し子様があの星に向かったのは、修行のためです~。生まれたての魂では知識も経験も何もかもが圧倒的に足りませんから~」


「ふむ」


「ですので~愛し子様にはあの星で主に精神方面が目的でしたが、最低限の知識、常識を学んでもらうおつもりでした~」


「・・・・・・」


「そして結婚や子育て、その他出会いや別れなどのもろもろを経験し、魂を成熟していく予定でした~そちらは叶わなかったみたいですが~」


「何か、すいません」


「いえいえ~愛し子様が謝る必要は無いんですよ~」


「・・・・・・」


「ですが、あの星には悪意もですが、何もかもが多すぎました~。流石、観光星と言った所でしたね~」


「観光星?何ですかそれ?」


「えぇとですね~、」


 ディーヴァが説明をしようとした瞬間、急激に視点が変わる。そしてエリミナーデの優しい表情が目に飛び込んでくる。


「お待たせよ。私の可愛い愛し子よ」


「大丈夫ですよ。色々説明を受けてましたので。それで、私は修行が中途半端らしいんですが、これからどうしたら良いでしょうか?」


「うん、それなんだけどね、もう一回新しい世界で修行して貰おうかなって思ってるの」


「ほぅほぅ。ちなみにどんな世界なんですか?」


「えぇと、愛し子が知ってる言い方にするとふぁんたじぃ?な世界」


「ほほぅ!それはいいですねぇ」


「でしょ?でしょ!」


「ファンタジーと言うからには剣と魔法、そしてモンスターがはびこる世界という訳ですね。若かりし頃の夢が広がりますな。むふ~」


「私の愛し子。そんなに嬉しい?」


「えぇ。だって、そういう世界に憧れてましたからね」


 アキトの言葉を受け、エリミナーデの心に殺意が宿り、周囲への圧が重くなった。それを察した周囲の従属神達は緊張した面持ちとなる。


(やっぱりあの星に修行に行かせたのは間違いだったじゃねぇか、あのクソ野郎。『神格』を奪った程度じゃ駄目だ。ぶち転がさないと・・)


「あ、ごめんなさい。もしかして駄目でしたか?」


「ううん、そんな事無いのよ。私の愛し子。じゃあ、これからその世界に移すから、いっぱい修行頑張ってくれる?」


「はい。でも修行って具体的には何をすれば良いんですか?」


「自由に生きることよ」


「自由に?」


「そう。気に入らなければ世界をぶっ壊してもいいし、どこかの国の王になってもいい。私の愛し子を縛るものは何も無いの。全て自分のやりたいようにやっていいのよ?」


「世界を壊すのはちょっと。でも、俺にそんな力があるのですか?」


「そうね。『神格』を得た愛し子なら世界を壊すくらい余裕よ」


「そ、そうなんですか?」


「エリミナーデ様、そろそろお時間が・・」


「そう。じゃあ私の愛し子。貴方を新しい世界に送るわ。着いたら必ずアカシック・レコードにアクセスするのよ?良い?」


「え?アカシック・レコードって言ったら・・」


「じゃあ!行ってらっしゃーい!待ってるからね~」


「「「「行ってらっしゃいませ」」」」


「え?あっ!行って・・・・」


 アキトの体が少しずつ薄くなり次第に消えていった。


「あぁ、私の愛し子。淋しいけどまたすぐに会えるわ」


「はい。楽しみですね」


 主神エリミナーデと従属神3柱は微笑みを称えながら天界の奥へと進む。それをディーヴァが追いかける。


「え~どういうことですか~?私にも教えて下さいよぉ~」






 アキトは気付くと森の中にいた。周囲360度見渡すも至るところに太さがそれなりにある木が生い茂っており、木の高さもかなりあるようだが不思議なことにアキトを中心としたクレーターが出来上がっていた。


 その所為か周囲から比べると差し込む光が多く、森の中の様子を伺うことは出来ないが、アキト周辺は周囲が確認できるといった明るさであった。道らしい道はなく、獣道すらないような印象だった。


「ふ~む。新しい世界に来たのは良いが、まさかこんな深い森とはなぁ。主神様は俺に自由にして良いっては言ってたけど、このままじゃ俺が森に自由にされちゃいそうだよなぁ」


 周囲をキョロキョロと見回すもどっちが北とか森の出口があるとか分かるわけもなかった。


「そう言えば、主神様はアカシック・レコードにアクセスしろって言ってたけど、どうすれば?」


 アキトがアカシック・レコードを意識した瞬間、どこかから脳内に声が響いた。


『はい。こちらは第2894735宇宙所属のアカシック・レコードです。ご用命は何でしょうか?』


「はぁ?」


 アキトは思わず硬直した。確かに声がした。間違いなく聞いた。でもそれが頭の真ん中から聞こえるって


『ご用命が無ければ・・』


「あっ!待って。ここはどこ?どうすればこの森から出られるの?」


『こことはどなたの現在地のことでしょうか?』


「え?あ~、えっと俺なんだけど」


『お名前を伺ってもよろしいですか?』


「はい、近藤 秋人です」


『近藤 秋人様ですね。検索を開始しますのでお待ち下さい・・お待ち下さい・・』


 アキトの頭の中でお待ち下さいが20回位繰り返された後、反応があった。


『お待たせしました。第9584765宇宙の主神候補であるアキト様ですね。登録いたしました』


「あ、じゃあここがどこだか」


『はい、ここは第2894735宇宙にある第35宇宙空域の第2惑星。現地神にてガーダリオンと名付けられた惑星の北緯40度、経度39度にあるサールズと呼ばれる国のモリニタ地方にあるザッカ森林の東北地区の中心あたりになります』


「・・・・・・(情報量が多すぎて何がなんだか?)」


「えっと、この近くに危険があるかどうか分かる?」


『危険はありません』


「ほっ、よかあっ!」


 ダンッ、バコーン! バキバキバキ・・ザザザァ


 アキトはアカシック・レコードから危険がないと言われ、思わず安心したところを横から突撃してきた何かに吹っ飛ばされ、木に思いっきり叩きつけられた。


 突然のことにびっくりしてしまったが、痛みは全然無く、当たった木の方が折れて倒れていった。周囲を見回すと大きなイノシシのような動物がこちらを威嚇していた。


「え?何あれ?でっかいんだけど。ねぇ?さっき危険は無いって」


『えぇ、ありません』


「だって、あんなに大きなイノシシみたいなのいるじゃん」


『危険ではありませんよ』


「そうなの?」


『あれは現地ではモサイノシシと呼ばれる種で個体差もありますが大凡こんな感じとなります』


 次の瞬間、アキトの頭の中にモサイノシシの情報が現れる。



名前 モサイノシシ

性別 ♂

状態 興奮

体力 560

攻撃力 820

防御力 320

知力 20

素早さ 60

運 3


情報 

色んなところに生息するイノシシ。基本的にキノコを主食とするため鬱蒼とした森の中を好むが雑食であるため人肉を食らうこともある。牙による突撃は現地人を一発で殺傷しえる破壊力がある。現地での脅威度はD。個体によっては進化することもある。


「え?・・え?」


『なので危険ではありません』


「あぁ、そうなんだ?」


 アキトがアカシック・レコードと情報共有を行っているとモサイノシシはじれたのかもう一度突撃してくる。アキトはその様子をじっくりと見ていた。


「あれ?遅くね?」


『ですから。危険ではないと何度言えば』


「あっはい、すみません」


 アキトは迫りくるモサイノシシを軽くジャンプして飛び越えようとした。足に力を入れ軽くジャンプした瞬間、視点が大きく変わり木の枝の中に突っ込んだ。


「あれ?えっ!?えええ!」


 アキトは軽くジャンプしたつもりだったが余裕で10m程飛んでいたのだ。


 アキトが下を見るとアキトを見失い周囲をキョロキョロと伺うモサイノシシがいる。何とか木の枝から脱出したアキトは、恐らくこの高さなら大丈夫だろうとモサイノシシの上に飛び降りる。アキトはこの身体能力なら頭を殴って脳を揺らせば何とかなるとの妙な自信があった。


「おらぁ!」


 アキトはモサイノシシの頭目掛けて右の拳を振り抜くとモサイノシシはその拳の衝撃で粉々になり、更にその衝撃は収まらず森の地面に大きなクレーターを作り上げた。周囲にあった木は粉々となり、遠くで鳥が鳴きながら逃げるように飛んでいくのが見える。


「えぇぇぇぇ。えっと、アカシック・レコード。俺ってもしかして強い?」


『この世界でアキト様に敵う者は神以外おりませんよ』


「えぇぇぇぇ。と、とりあえず逃げたほうが良いのかな?」


『どうしてですか?』


「え?だってこんなに森壊しちゃったし、バレたら不味くない?」


『直せばいいじゃないですか』


「え?直せるの」


『聞いてないのですか?』


「何を?」


『『神格』を持つものは森羅万象に置いて無限の力を振るえるという事を』


「森羅万象?聞いたことあるな?どっかの小説で見たぞ?えーっと・・」


『宇宙に存在するすべての事物や現象や天地の間にある一切の事象の事で、「森羅」は、無数に連なって並んでいること。 「万象」はあらゆる形や物事のことを指します。つまりアキト様は宇宙すら自由に操れる御力をお持ちだと言う事ですよ』


「えーっと、じゃあこの森を元に戻したいときはどうすれば?」


『元に戻れと願って力を振るえばよろしいかと』


「あ、はい。えーっと、元に戻れ!」


 アキトが両手を地面に向けて元に戻りますようにと願いを込めると倒れた木が真っ直ぐに立ち上がり、抉れた地面は元に戻っていった。


「戻った?戻った!戻った!俺ってすごくない?ねぇ!」


『はいはい、すごいすごい』


「ねぇ、あーちゃんってば厳しくない?」


『あーちゃん・・該当名多数。詳細に検索するにはもう少し情報が必要です』


「違うって。アカシック・レコードのことをあーちゃんって呼んだの」


『拒否します。正式名称は第2894735宇宙所属のアカシック・レコードです』


「うえぇ!?だって名前が長いんだもの」


『知りません』


「そんな~」


『それよりサバイバルの準備はしなくても良いのですか?』


「はっ!?そうだよ。俺この後どうすれば良いの?」


『それはアキト様が決めることです』


「あっ、え~っと。俺、サバイバルってやったことないし、キャンプもやったこと無いんだ。だから教えて?」


『アキト様は『神格』をお持ちですから別に無理に食べたり飲んだりしなくても平気なはずです。加えて言うなら寝なくても平気です』


「・・そうなんだ?じゃあ何でサバイバルの準備なんて言ったの?」


『えぇ。ですが、それでは現地の人に怪しまれるでしょう。せめて現地の人が行うレベルでの野営ぐらいは出来たほうがよろしいかと』


「それは・・確かにそうなんだけど、何か理不尽を感じるよ・・」


『先ずは水源探しですね。この先500m程先に川が流れています。もしくは自分で水を出して下さい』


 アキトはアカシック・レコードにお尻を叩かれながら野営の準備を始めるのであった。









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