召喚した少女の二つ名は『破壊』でした

モリワカ

召喚した少女の二つ名は『破壊』でした

その日、街はひときわにぎわっていた。

今日は、一人の少年が召喚の儀を行う日。

召喚士を多く生み出したこの街で、今まさに一人の召喚士が誕生しようとしていた。


その少年は、幼いころに突如として街を襲った大災害で、大切な両親を失った。

少年の両親は、それはそれは優秀な召喚士で、街に度々訪れる危機を、幾度となく救ってきた。

そんな両親に憧れていた少年も、、今年を以て召喚士になることができる。


召喚の儀。 新たに召喚士になる者が、一生に一度のパートナーを決める重要な儀式。

この召喚の儀によって、召喚士としての運命が決まるといっても過言ではなかった。

そして、少年の番がやってきた。


両親が優秀な召喚士だった少年は、街の人達から一目置かれていた。

何せ、優秀な召喚士の子供。 きっといいパートナーを召喚できるに違いない。

街の皆は、誰もがそう信じていた。


少年が一人、召喚の儀を行う召喚室に入る。

召喚室の中は、真ん中に大きな魔法陣しかなく、まさに召喚の儀の為だけに建てられた建物。

その魔法陣の上に、少年は立ち、息を整える。


(大丈夫。俺の両親は優秀な召喚士だったんだ。なら、俺だって父さんや母さんのような召喚士になれるはずだ)


少年は、唯一残された両親の形見でもあるペンダントをギュッと握りしめる。

そうすると、両親に一緒にいるかのような気持ちになれるため、少年は緊張した時はこのペンダントを握りしめ、心を落ち着かせるようにしていた。


「……行くぞ」


心を落ち着かせた少年は、ようやく召喚の儀に入る。

召喚の儀が行われている最中は、召喚室に入ることは禁じられている。

これは、召喚の儀に対し、己と向き合うためでもあった。

そして、少年は召喚の呪文を唱える。


『各地に眠る数多の生命よ、今我の召喚に応え、その姿を示したまえ。リャマド!』


少年がそう唱えると、魔法陣が光を放ちだす。

輝きを放つ魔法陣からは、尋常じゃないほどの力を感じた。

少年は、自身の召喚にかつてないほどの自信を持っていた。


しばらくして、魔法陣が放つ光が収まると、そこには一人の少女がいた。

その少女は、美しい見た目をしていたが、その姿からは恐ろしさすら感じる。

少年は、召喚に応えてくれた少女に話しかける。


「き、君は……」

「……私は、『破壊』の二つ名を持つ者。名前はありません」


少女のその言葉を聞き、少年は酷く驚いた。

まさか、『二つ名を持つ存在』を召喚することになるとは、思いもしなかったからだ。


召喚士は、ごくまれに『二つ名を持つ存在』を召喚することがあった。

その者の力は、二つ名によって変化するが、通常の人間からは考えられないほどの力をそれぞれ持っている。

その力を使えば、街一つ滅ぼすことなど造作もないとされている。


そのため、『二つ名を持つ存在』を召喚した召喚士は、これ以上召喚することを禁じられることになった。

少年も、その一人になってしまったことに、落ち込みをこれでもかと顔に表していた。


『破壊』の二つ名を持つ少女を連れて、少年は召喚室から出る。

召喚室から出てきた少年を見て、街の人達は何を召喚したのか、皆が皆、気になっていた。

そして、街の長から少年に向けて、問いを投げかけられる。


「して少年よ。お主は召喚の儀を以て、何を召喚した?」

「…………『破壊』の二つ名を持つ少女です」


長い沈黙の後、少年はそう言った。

召喚の儀で召喚された存在を偽装するのは、召喚士として恥だと言われている。

優秀な召喚士の両親を持っていた少年が、嘘をつけるはずがなかった。


少年の口からそう発せられると、街の人達は一斉に武器を構えだした。

急に態度が豹変したことに驚く少年だったが、自分が召喚したものの事を考えれば、何も不自然ではなかった。

それだけ二つ名を持つ存在は、忌み嫌われていた。


「少年よ。その少女を連れて出て行くがよい。いかに優秀な召喚士の両親を持っていた少年でも、二つ名を持つ存在を召喚したとなれば話は別じゃ。本来なら、召喚士もろとも即刻打ち首にするところじゃが、少年の両親の活躍に免じて、この街の追放で許すとする。異論はあるか?」

「……」


街の長の言葉に、少年は何も言い返せなかった。

何も言い返すことができなかった。

街の長も、この街を守るためにしたこと。

長の発言に異論を呈する者は、誰もいなかった。


それから少年は荷物をまとめ、『破壊』の二つ名を持つ少女と共に街を離れた。

生まれた時から世話になった街を、突然離れることになるのは、とても心苦しいものだった。


街からしばらく離れ、夜も更けてきたため、少年は森の中で野宿をすることにした。


「これから、どうしようか……」


二つ名を持つ少女を召喚したがために、街を追い出されてしまった少年は、これでもかと落ち込んでいた。

無論、他の何かを召喚することは禁じられているため、少年には目の前で自分の料理を食べている少女しかいなかった。


「私のせいで、落ち込んでるの?」


不意に、少女が話す。

そう話す少女の顔は、とても悲しそうだった。


「私がいるから、あなたはそんな顔をしているの?」

「……」


少女の質問に、少年は無言を貫く。

その少年を見て何を思ったか、少女は急に立ち上がり、走り出した。

少女の行動に驚きつつも、少年は少女の後を追う。


「何をするつもりなんだ……?」


少年は不思議に思いつつも、前を走る少女の姿を追いかける。

そして、少年はあることに気がつく。

少女が走る先に、崖があることを。


「まさかっ!!」


嫌な予感がし、少年はさらにスピードを上げ、少女を追いかける。

少年は止まれと少女に呼び掛けるが、少女は全くスピードを緩めない。

そして、崖の近くまで来た途端、勢いよく飛び降りた――


はずだった。


少女の腕を、少年が間一髪のところで掴んでいた。

少年が、なぜ自分の腕を掴んでいるのか理解できない少女は、少年に問う。


「何で、私を? 私が死ねば、あなたは自由になれるのではないですか?」

「……っ!」


少女の質問は、少年の心に深く突き刺さる。

少女の言っていることは、何も間違っていない。

少女がいなくなれば、少年は召喚の能力は使えないものの、普通の生活を送ることができる。

しかし、少年には別の思いがあった。


少女を崖から引き上げると、少年は額の汗を手で拭いながら、少女に向けて言う。


「俺は、幼いころに両親を亡くしている。人が死ぬ悲しみは、分かっているつもりだ。だからこそ、もう目の前で誰かが死ぬ姿を見たくない」


少年がそう少女に告げると、少女の目から一粒の涙が零れ落ちる。

少女は召喚された身でありながら、心を持っていた。

少年の話を聞いて、心の底から泣いていた。


「お、おい。泣くなよ。俺は別に君をどうこうしようとは――」


そう言いかけた時、少女の後ろから鳥型の魔物が迫ってきているのが見えた。

少女の方は、まだ魔物には気づいていない。

少年は、鳥型の魔物を目いっぱい引き付けると、思い切り殴り飛ばした。


「グキャァァァアアア!!」


魔物は汚い雄たけびを上げて、崖の下に落ちていった。

召喚士という職業は、他の職業と比べて能力が劣るため、幼いころから少年は両親に鍛えられていた。

両親が大災害で亡くなった後も、少年は自らの体を磨き続けている。

そのせいか、大抵の魔物ならワンパンできるほどの力を手に入れていた。


「大丈夫?」

「……は、はい」


少女の驚きつつも泣いている姿を見て、少年は思った。

この少女は、『破壊』の二つ名を持つ存在でありながらも、それを抜けば一人の女の子なんだと。

そう思うと、男として守ってあげなくてはという思いが少年にも湧いてきたのだ。

少年は少女に自身の右手を差し出し、言う。


「これから、よろしく」


翌朝から、少年と少女は互いに助け合い、時には支えあいながら日々を過ごしてきた。


少年が街を離れて数ヶ月が経過した。

二人が互いの事を分かりだした頃、少年は妙な噂を聞いた。


『魔王が復活した』


この世界で魔王と呼ばれる存在は、一人しかいない。

少年の両親が犠牲になった大災害を引き起こしたのも、その魔王だった。

少年にとっては憎き存在である魔王が復活したとなれば、少年はいてもたってもいられなくなる。


少年は、両親の仇を討つためにも魔王の元へ向かう決意をした。


しかし、魔王にたどり着くまでの道のりは険しく、苦難を強いられることになる。

それでも、少年は自分の両親と為と、気を奮い立たせ頑張っていた。

そんな少年を見て、少女の心の中で何かが変わり始めていた。


幾多の苦難を乗り越え、やっとの思いで少年と少女は魔王の元にたどり着いた。


「ほう。まさかこんな小僧が、我に挑みに来るとはな」


魔王は恐ろしいほどの魔のオーラを放ちながらそう言った。

そして、少年の顔を見ると、少し驚いたように話し始める。


「ほほう…… 貴様のことは良く知っているぞ。あの憎き二人の召喚士の息子だな?」

「そうだ! 両親の仇を討つために、お前を倒しに来た!」

「威勢だけはいいな。だが、そう早まるな。我も、最近目覚めたばかりだ。少し話をしようじゃないか」


魔王は少年にそう提案した。

実のところ、少年は魔王を目の前にして、ビビり散らしている。

いくら両親の仇を討つといっても、少年はまだ子供。

怖いものは怖いに決まっていた。


「我が引き起こした大災害のことは覚えているな?」

「ああ、忘れるはずがないだろ!」

「そうだな。その時に、我は貴様の両親に致命傷を負わされた」

「……それがどうした」


少年は魔王にゆっくりと訊ねる。

少女の方は、何も言わず静かに少年と魔王の話を聞いていた。


「我はな、貴様の両親を酷く憎んでいるのだ! なぜだか分かるかっ!!」

「……」

「まだ子供である貴様には到底理解できんだろうな。貴様の両親は我の同胞を多く屠ったのだ。その中に、我の愛する妻もいたというのに……」


魔王は、途端に悲しい表情を浮かべる。

遠い昔から、魔族と人間は争いを続けてきた。

それは今になっても変わることはなく、現在も魔族は怖がられている。

まだ子供である少年にとっては、どうしようもない事だった。


「だからこそ、あの大災害を引き起こし貴様の両親を殺したのだ。それでも、我の妻はもう帰ってこない。あの時の悲しみと怒りは、心に深く刻まれている」

「でも、そんな身勝手な行動で俺の両親を含む多くの死傷者が出たんだぞ!?」

「そんなものは知らぬ。我は貴様の両親を殺すためだけにあの大災害を起こした。他の者は巻き込まれたに過ぎん」


魔王はそう言い切った。

自身の恨みを晴らすためなら、どんな犠牲も問わない。

そんな魔王に、少年は苛立ちを覚えつつあった。


「それよりも、そこの少女よ。貴様は『二つ名を持つ存在』だな?」

「……! ど、どうしてそれを?」


魔王は何故か、二つ名を持つ少女の事を前々から知っていたかのように言った。

少女の質問に、魔王はハッキリと答える。


「我は魔王だぞ? 『二つ名を持つ存在』を知らぬはずが無かろう。それに、『破壊』の二つ名を持っているようだな」

「……そこまで分かっているのか」


魔王には何から何までお見通しだった。

目の前の魔王には、もはや隠し事は通用しないと、少年は確信した。


「貴様も分かっているのだろう? このままその少女と一緒にいれば、貴様の身体も破壊されると。なのに、どうして死に近づくような真似をする?」


少年も、その事は薄々勘づいていた。

『破壊』なんていう恐ろしい二つ名を持つ存在と一緒にいる少年が、何の影響も受けないとは考えられない。

着実に、少年の身体は『破壊』に向かっていた。

それでも、少年は魔王に言い放つ。


「確かにそうかもしれない。だけど、この子は俺の召喚に応えてくれただけだ。だから、この子を一人置いていくことは出来ない。それに、いくら『破壊』の二つ名を持っていたとしても、この子は一人の女の子だ。到底一人では生きていけない」


少年の言葉に、魔王は呆れてため息をついた。

魔王には目の前の少年が、バカな者に見えてしょうがなかった。


「そうか…… ならば、貴様に本当の話をしよう。実を言うとな、そこにいる少女を創り出したのはこの我だ」

「「っ――!!」」


魔王の突然の暴露に、少年と少女は言葉を失った。

そんな少年少女を他所に、魔王は話を続ける。


「そこの少女だけではない。世界中にいる二つ名を持つ存在は、全て我が創り出したものだ」

「一体何のために!?」

「特に理由などない。ただ、他の者とは異なる存在を創りたかっただけだ。まあ、それが結果としては良い方向に向かったのだがな」


続けて魔王は言う。


「よく聞け。我の合図一つで、世界中にいる二つ名を持つ存在を暴走させることが可能になる。かの大災害も、我が創り出した二つ名を持つ存在を暴走させたがために起こったものだ。それに、今はあの憎き召喚士もいない! あの時の鬱憤を晴らすなら今しかないだろう!」


魔王は声高らかにそう言い放った。

もし、魔王が世界中にいる二つ名を持つ存在を暴走させたなら、少年の街はおろか、世界全体が滅びる可能性があった。


魔王のあまりにも自己中心的な発言に、少年は我を忘れ、魔王に突っ込んでいく。

だが、相手はあの魔王。 召喚士の少年一人で対等に戦えるような相手ではなかった。


「ふっ、おろかな」


魔王に特攻した少年は、魔王の腕の一振りで軽く一蹴された。

圧倒的な力の差に、少年は返り討ちにあう。

そんな少年には目もくれず、目の前の光景にただただ怯える少女に、魔王は話しかける。


「我と共に来い。貴様の力は人間の世界では嫌われる力だ。だが、我の下につくというならば、その力を存分に発揮するがよい」

「……」


魔王は少女に手を差し伸ばす。

少女にとって、魔王の提案は決して悪いものではなかった。

少女の手は、魔王の手に伸びるが、倒れている少年を見て、その手をひっこめた。


「……どうした」

「私を生み出してくれたあなたには感謝しています。ですが、私はあの少年の優しさに触れました。あなたに対する思いと、あの少年に対する思いは比べ物になりません!」


少女は、生まれて初めて大声を出した。

それも、自らを生み出してくれた魔王に。

少女に拒絶された魔王は、少女の腕をグッと掴み、上に持ち上げる。

魔王の攻撃を受けた少年は、動けず見ていることしかできない。


「言うようになったなぁ? 誰のおかげで貴様は生きていると思っているんだ? やはり、心を持たせたのは間違いだったか」 


魔王はそう言うと、自身の力を少女に注ぎ込む。

自らの提案に反対した少女の力を暴走させようとしている魔王。


「くっ……! かはっ……!」

「抵抗するだけ無駄だ。創られた存在が創り出した者に敵うはずが無かろう」

「ぐっ……」


少女は必死に抵抗するが、何も変わらない。

少年も少女のことを助けるため動き出すが、まだ体がしびれているのが上手く動けないでいた。


そして、抵抗むなしく少女は魔王の手に堕ちた。

目には光が無く、ただ魔王の命令を聞くだけの存在になり果てていた。


「フハハハハ!! まさか、『破壊』の二つ名を持つ者を使えるとはな。しかし、この力も久しぶりに使う。試しに貴様の街を『破壊』しに行くとするか!」

「……」


そう少年に言い放ち、魔王は少女を連れて姿を消した。

自我は無いものの、心の中では苦しんでいる少女を救いたかったが、身体が動かない少年。


何もできなかった少年は、首から下げている両親の形見でもあるペンダントが光を放っているのに気づいた。

自身を落ち着かせるために、少年は光っているペンダントをギュッと握りしめる。

すると、少年の頭に懐かしい両親の声が聞こえた。


『我が息子よ、よく聞け。お前には俺達にはない特別な力が備わっている』

『そうよ。あなたが召喚の儀で二つ名を持つ存在を召喚することはあらかじめ決まっていた事なの』

『お前が持つ特別な力は、俺達でも届かなかった遥かなる高みだ』

『その力を使って、私達の街を救って……』


実際に会うことは叶わないが、両親の声が久しぶりに聞けて嬉しく思う少年。

そんな両親の声に励まされ、少年は再び立ち上がり、自分の生まれ育った街へ帰ることにした。


少年が去り、二人の声だけが響く。


『あの子に、私達の街を救えるかしら?』

『そう卑屈になるな。自信を持て。あの子は俺と君の子じゃないか』

『そうね。あの子ならきっと……』


長い時間をかけ、少年が生まれ育った街に帰ってくると、街はめちゃくちゃになっていた。

自分が『破壊』の二つ名を持つ存在を召喚したせいで、街がこんなことになっていると自己嫌悪に陥る少年だったが、落ち込んでいる場合じゃないと、少女と魔王を探しに行く。


少女と魔王は、簡単に見つかった。

少女は、ただ街を『破壊』するだけの兵器となっていた。

このまま放っておけば、あの時の大災害をもう一度繰り返すことになる。

少年の両親がいない今、再び大災害が起これば、多大な犠牲が出ることは容易に想像できる。


「もう一度、あの大災害を引き起こしてたまるか!!」


少年は街を守るために、自身を奮い立たせる。

その瞬間、少年の身体が光り輝く。

その光はペンダントから発せられており、その影響か少年の力がどんどん湧いてくるようだった。


「この力が、あの時、俺の両親が言っていた俺にしかない力……なのか?」


二つ名を持つ存在を召喚した召喚士のみが会得できる力。

だが、その力を今まで発揮出来た召喚士は、一人もいない。

その力を使えば、どんな状況もひっくり返すことができる。

そんなとんでもない力を少年は秘めていた。


その力の名は、『反転(リバース)』


『反転』は、その名の通り二つ名を持つ存在の、二つ名の能力を反転させる力。

しかし、この力は召喚士の生命力を代償にして初めて発動する力。

自身の生命力が、少しずつ吸い取られていくのを、少年は肌で感じる。


(怖い怖い怖い…… でも、俺がやるしかないんだ)


少年は、今にも壊れていっている街を見て決意を固める。

自分一人が犠牲になる事で、街が助かるのなら、命なんて惜しくない。

そう思い、少年は召喚士史上初めての『反転』を使用する。


「リバース!!!!」


少年の叫びは、今もなお街を『破壊』している少女の耳にもハッキリ届いていた。

街は八割がた崩壊しており、誰もが絶望を感じていた。


少年の声が届いた少女の動きが急に止まる。

何が起きたのか理解できない魔王は、少女を揺さぶってみるが、反応はない。


「ちっ! 一体どうなっているのだ!?」


魔王の戸惑いには目もくれず、少女はゆっくりと空へ舞い上がり、神々しいまでの光に包まれる。

その光を見て、魔王はもしやと思い、少年を探す。


「見つけたっ! まさか、あいつがこの力を持っているとは思わなかった。あの時始末しておけば……!」


少年は、『反転』を使ったため、気を失い倒れている。

少年の両親にも、そしてその少年本人にも邪魔された事に怒り狂う魔王は、とどめを刺そうと少年の元に行こうと――


『待ちなさい』


したが、後ろから呼び止められる。

嫌な予感がしつつも、魔王が振り向くと、そこには天使のような美しい見た目に変貌した少女がいた。

少年の『反転』により、少女の『破壊』の二つ名は、『再生』の二つ名へと変わっていた。


「ば、バカなっ! あり得ぬ!!」


姿を変えた少女の神々しいまでの光は、魔王にとっては天敵そのもの。

圧倒的な『再生』の力を前に、魔王は浄化され、消滅した。


それから『再生』の二つ名を持つ少女は、街を『再生』して回る。

少女の力により、壊れた建物が、街が元に戻っていく。

その光景は、まるで時間でも巻き戻しているかのようだった。


全てを『再生』し終えた少女は、命を懸けてまで街を守ってくれた少年の元に駆け寄る。


「私を救ってくれてありがとう。あなたのおかげで私は本当の自由を手に入れることが出来た。本当にありがとう」


少女は少年に感謝を述べるが、少年は息をしておらず、もちろん返事も返ってこない。

街の人達も集まってきて、街を守ってくれた少年の死を前に悲しみの声が広がる。


そんな優しい少年に、少女は小さく頷くと、少年の唇に自らの唇を重ねた。

それは少女にとっても少年にとっても、初めてのキスだった。


二人が口づけをかわすと、少年の身体が光に包まれる。

光が収まり、少女が少年から離れると、少年はゆっくりと目を開けた。

これも、少女が持つ『再生』の力だった。


「え、俺は死んだはずじゃ――」


訳の分からない少年に、少女が思い切り抱き着く。

少女の目からは、とめどなく涙が零れ落ちている。

現状を理解できないものの、泣いている少女を少年は力強く抱きしめるのだった。


少年の生還に少女はもちろん、街の人達も大喜びだった。

街の長が、戻ってきた少年に声をかける。


「少年よ。この街を救ってくれてありがとう。それと、この街から追放したことも謝らせてほしい」

「いいんです。街を守るためにはそうするしかなかったんですから」

「そうか……」

「それよりも、この子をこの街に住まわせてはくれませんか? 自分勝手なお願いなのは重々承知の上です。ですが、どうかお願いします」


少年は街の長に頭を下げる。

そんな少年に、街の長は優しく告げる。


「もちろんだ。いくら二つ名を持つ存在と言えども、この街を救ってくれた。さすがの儂も追い出すような真似はせん」

「……ありがとうございます!!」


少年の仇であった魔王も消滅し、世界各地にいる二つ名を持つ存在が暴走するようなこともなくなった。

また、少女の活躍は世界各地に広まり、二つ名を持つ存在への態度も、少しずつではあるが変わり始めている。

いずれは、少女も過ごしやすい世界になることだろう。


少年少女の活躍の末、元通りになった街で少年と少女はこれからも生きて行く。

空ではきっと、少年の両親が見守ってくれていると信じて。

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召喚した少女の二つ名は『破壊』でした モリワカ @Kazuki1113

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