#13 シエル part 2.5 ~依頼人の話を聞きに~
ギルドで依頼を受注した私たちは、詳しい説明を聞きに依頼人の元へ向かった。
街の隅にあるスラム。そこの下宿にいるグズマという男性が今回の依頼人らしい。
目的の宿の中に入ると、受付にいたかっぷくのいいメガネのおばさんが、
「いらっしゃい。『仮面のシエル』がこんなところに何の用だい? もしかして泊まっていってくれるのかい」
そう無愛想に出迎えた。
店内はどことなく薄暗く、壁や床が所々傷んでいるのが見て取れる。
「いや、違う。ギルドで依頼を受けて、その依頼人に会いに来たのさ」
「なんだ。客じゃないのかい。で、誰に用があるんだい?」
私の言葉に、おばさんは台に頬づえを突きながら尋ねてきた。かなり無作法な態度だ。
とはいえ、客ではない私たちは文句を言える立場でもないので、そのまま話を進める。
「グズマって人なんだが……」
「グズマ? ……ああ、あの兄妹の飲んだくれ兄貴か。あいつらの部屋は、二階の一番奥だ。グズマのやつ、今日はどこにも行っていないようだから、多分いるんじゃないか」
そう教えられ、私たちはグズマがいるという部屋に向かった。
コンコンコンとノックすると、
「ん? 誰だ?」
中から男の返事があった。
「私たち、グズマのクエストを受けに来たんだが」
「その声、女か? まあいい」
程なくして、扉が開いた。
「待たせたな。俺がグズマだ。なんで仮面なんか……って、もしかして、お前『仮面のシエル』か⁉︎」
「ああ……ん? あなたは……」
出てきたのは、昨日ひかりがシメた男だった。体に包帯が巻かれている。ぶっ飛ばされた時のけがによるものだろう。
半開きのドアから見える室内には空いた瓶がいくつも転がっており、鼻を刺すような酒の匂いが漂っており、少し気分が悪くなる。
「なんだ? 俺を知っているのか?」
と、グズマが私の隣にいるひかりに気付いたようだ。
「お、お前は……!」
「あ! あなた、アレッタちゃんにカツアゲしていた人じゃないですか!」
ひかりもグズマが昨日の男だということがわかったみたいだ。
「それは……すまなかった。あの子にはひどいことをしてしまった。メグ……妹にもキツく怒られた……もっと金が必要だと思ったから、つい出来心でな……」
グズマは首を振りながら、ため息をはいた。
「あんなことをしたのは、俺が出した依頼に関係していてな……。聞いてくれ。お前らはそのために来たんだろ?」
グズマは妹と一緒に依頼を受け、その報酬で生計を立てているという。
先日、街の北西にある洞窟の奥にいるデビルプラントという植物の魔物の討伐に行ったものの、想定していた以上に強く仕留めきれそうになかったため、依頼を放棄して逃走。
無事に二人そろって脱出できたが、その時、妹が祖母からもらった大事なお守りを落としてしまったらしい。
「お守り自体は、何かの魔物の青色の鱗に紐を通しただけの粗末なもんで、他人から見たらまったく価値はねえんだけどよ……ばあちゃんの形見だから、妹にとっては一番大切なもんだったんだ。失くしたって気づいてから、あいつは元気がなくてな」
悲しそうな表情で、グズマはもう一度ため息をついた。
「そこでこの依頼を出したんだが、報酬が少ないからか受けてくれるやつがいなくて……でも、俺はその日暮らしだから、報酬に回せる金があまりなくて、それで、な……本当に済まなかった」
グズマが深々と頭を下げた。
アレッタにやったことは許し難いけれど、妹のためにおばあちゃんの形見を回収してあげようとするとか、この人、思っていたよりはほんのちょっとだけいい人なのかもしれない。
と、ひかりがポンと胸をたたいてほほ笑む。
「話はわかりました。わたし達が絶対拾って帰ってきますから、待っていてください。でも、その代わり、わたし達が依頼を果たしたら、アレッタちゃんにきちんと謝ってくださいね」
「わかった。約束する。強い嬢ちゃんと『仮面のシエル』が受けてくれるなら一安心だ……頼んだぜ」
「あ、そういえば、あなたの妹はどうしたんだい? 子供からカツアゲしようとしたから愛想尽かされたとか?」
私の言葉に、グズマが顔をしかめた。
「違えよ。あいつはけがした俺のために薬を買ってくるって出かけて行ったんだよ」
「へえ。できた妹じゃないか」
「ああ、お前の言う通りだよ。本当はあいつには、もっといい生活させてやりたいんだけどな……」
グズマはバツが悪そうに俯いた。
「お前ら、くれぐれもデビルプラントには気をつけろ。あいつはかなり強敵だ。下手に戦わない方がいいぜ……って、『仮面のシエル』にいうことでもないか」
「いや、忠告ありがとう。それに今回は最初からデビルプラントと戦闘するつもりはないんだ」
そうして、私とひかりはスラムの下宿を後にしたのだった。
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