第14話 『の』
『の』
『のど元すぐれば熱さ忘るる』
どんなに熱い物を口に含んでも、飲み込んでしまえば喉を過ぎたあたりから熱さを感じなくなってしまうの意。
ただし、溶けた鉛や溶岩といった食材として適していない物の飲食は、危険を伴い消化によろしくないので止めるべきである。
溶けた鉛などを口に含めるのであれば、大道芸で良い収入が得られる。
職場は世界各地に多々あるから、転職をお勧めする。
何故、感じなくなるではなく忘るるなのだろうか、ゴロがよかったからにすぎない。深い意味など有り得ない。
忘却は知能を持った生物、特に人類の様に高度な脳内活動を行なう生物にとって、脳のみならず己の生命を維持するにあたり重要な意味を持っている。
辛い・悲しい・むかつく(胸焼けではない)怖い思いをした・臨死体験をした・金縛りにあった・幽霊とドライブしてしまった・借金取が追いかけて来る等、人生には忘れたい事が山程ある。
しかし人間の記憶とは残酷な物で、生命の危機に関わる様な重大な事件ばかりを鮮明に記憶してしまう。PTSDの元凶である。LSDとは少しだけ違う。
これは同じ様な状態に自分が置かれた場合、無意識に素早く危険回避行動が取れるようにする為の記憶である。
したがって、インパクトの強い事件の記憶を忘れる事はない。
ただし、あまりにも強烈であり、その記憶を度々よみがえらせる事によって己の精神を正常に保てないようであると、脳は自動的にその強烈この上ない「取り扱い注意」の記憶を、脳の大奥に閉じ込めて二度と外出しないようにしてしまう。
俗っぽい言い方をすれば、部分的記憶喪失という状態である。
人間の脳メモリー容量には限界がある。
そこで、一時的に「海馬」という脳の一部に記憶し、必要かそうでないかを振り分けてから、大脳深層表皮質という部分に記憶を移動する。これが本記憶である。
「海馬」が、人間の記憶に関わる「喉元」と言ってよいだろう。
海馬には極少量の情報しか記憶出来ない。
実際に脳全体で記憶できる容量は、約一万ギガバイト(十テラバイト)と言われている。
ちょいと高めの外付けハードディスクが一テラバイト一万円ほど。
人間の脳と同じ程度の記憶回路が、十万円弱で買える。ある意味恐ろしい時代である。
しかし、上記の様に大奥に閉じ込めてしまった記憶や、時間の経過で細胞の一部が破損したりして、情報がアイマイな記憶は使い物にならない。
実際に使える記憶容量は、八十ギガバイトから百ギガバイト。
そして瞬時に使いこなせる記憶、つまりパソコンのハードディスクのように、素早く使用出来る記憶の量は更に少なくなって四十ギガバイトから五十ギガバイト程度である。
皆さんが御使いのパソコンの記憶容量はどれ位だろうか。
私のノーパはほぼ五百ギガバイト有る。
パソコンが凄いのか人間の脳がたいした事ないのか。
コンピューターが出来たばかりの頃、人間の脳と同じ程度の機能をコンピューターに持たせようとしたら、ドーム球場十件ほどのスペースが必要だと言われていた。
現代はノーパの中に収まっている。そして進化し続けている。
そのうち小説もコンピューターが書き出すよ。きっと。
『野良の節句働き』
「怠け者の節句働き」などとも言う。
節句は今で言えば「公休日」にあたり、サービス業以外は殆どが休んでいる日である。
普段はぬらりひょんになって仕事もしないで遊び呆けている奴が、皆が休んでいる節句の日に限って忙しそうなふりをして働いている。
深夜、世間様が寝静まって休んでいると言うのに、せっせとお勤めをする「コソドロ」もこの類であろうか。
「芸人」と呼ばれる職業の方々、特に売れていない方は暮れから正月にかけてのほぼ全世界的同時「節句の日」に稼ぎまくる。
これは普段怠けているからではない。
普段は売れっ子芸人が仕事を独占しているために、まともな仕事が無いだけである。
これを「怠け者」といっては可哀そうである。
仕事が無ければ無いなりの、生活上での苦労と言う物がある。
彼らは節句以外の日々を、悲惨極まりない生活苦と戦っている。
志を高く持てば人間は成長すると誰かが言った。ただ、高く持ちすぎると人間は栄養失調になる。
成長を妨げるばかりか生命の危機を招く恐れさえある。
少年よ大志はほどほどに抱け。
現代社会は凄まじい生存競争社会である。
『明治は遠くなりにけり』あっ! これ著作権大丈夫かな? 過去の名言と言われる言葉を鵜呑みにしてはいけない。
現代に照らし合わせた解釈をしてから飲み込むべきである。
『のみといはば槌』
現代では通用しない一言である。
親方が「ノミ」と言ったら「ゲンノウ」(カナヅチや木槌・ハンマー・プライス・半ライス)を一緒に持っていく。
職人の世界ではこの様な行動が、気の利くよい行動として高く評価されて来た。
逆に「ノミ」と言われてノミだけを持っていくと「ノミっつったらゲンノウも持って来るんだよ! ったく気が利かねえなテメエは」と親方に叱られる。デタラメだ。
「ノミ」と言われて指示されたとおり「ノミ」を渡して叱られる。
これを不条理と言わずして、この世に不条理があろうか。
「ノミとゲンノウを私の所に持ってきなさい」と言わなかった親方が悪い。
「ノミ」と言われてその先の言葉を予測し、親方に「ノミ」を持って行っただけでもたいした予知能力である。ある種、人の心を読む超能力かもしれない。
「弾」と言われて弾と機関銃を運び、さらに気を利かせて打ちまくるだろうか。
「デンジャラスな馬鹿野郎」と誰もが思うだろう。
現代は上司に言われた事以外に、気を利かせたつもりで余計な事をしてはいけない時代なのである。
ちょっとした勝手な判断ミスや、コミュ誤解によっては大惨事を招きかねない。
複雑に諸事情が入り組んだ社会においては、個人の独断は大事故に直結する。
「ノミといったら槌」はそれなりに有意義ではあるものの、かなり危険をはらんだ言葉として認識するべきである。
だからー。ノミって言ったら「ノミ」だけでいいんだっつってんだろ。ボゲ!
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