第2話 俺の推しはソシャゲに興味あり

「このキーホルダーって吉瀬くんのでしょ?このゲームのこと教えてほしいな。私もこれやってみたい……!」


「………………………へ?」


高瀬さんは一点の曇りもない眼差しで俺を見てくる。

その一見クールな表情は写真越しでしか見られなかった美しさに目が離せなくなる。

というか推しに名前を覚えられていたのがめちゃくちゃ嬉しいんだが。


「ちょ、ちょっと待ってください……ど、どどどういうことですか……?」


せっかくの推しとの初会話だというのに頭の混乱と緊張が抜けなくて挙動不審になってしまう。

そんな俺を高瀬さんは変な物を見るような目ではなく天使のような笑みを見せてくれる。

はぁ……俺の推しってやっぱり神だわ……


「そのままの意味だよ。ちょうどこのゲームに興味があったんだよね。誰かに聞こうにも友達はみんなブランド品とかおしゃれとかに興味がある子ばっかりなんだよね。だから吉瀬くんに教えてほしいなって」


そりゃあ女の子ならみんなおしゃれそういうのに興味ある(女子と話せない陰キャ男子の偏見)だろうし高瀬さんはモデルだから余計そういう人が周りに多いんだろうな。

でもだったらなぜ高瀬さんはスタドリに興味を?


「た、高瀬さんはどこでスタドリに興味を持ったんですか……?」


「動画サイトの広告。ショートとか見てると結構たくさん出てくるんだけど何回も見てるうちに気になっちゃったの」


販売戦略にひっかかっちゃった、と高瀬さんは苦笑いする。

なるほど……それでちょうど俺が落としたキーホルダーを見つけてスタドリのキャラだって気づいたと……


「え、えーっと俺なんかにそんな大役が務まるとは思えないんですが……」


「ふふっ、そんなに緊張しなくていいよ。今の私はただのクラスメイトの高瀬玲奈なんだから」


そうは言われても緊張するな、なんて絶対に無理なんだけど……

だって話しかけたくてもずっとできなかった推しと今話してるんだぞ?

緊張しないほうがおかしいだろう。


「だめ……かな?」


「だめじゃないです!俺で良かったらいくらでも!」


「ふふ、ありがと」


そんな聞き方をされたら断れるはずがない。

俺はさっきの発言から一瞬で掌返しをしてYESと言っていた。

高瀬さんは俺のそんな様子に笑顔で応えてくれる。


「それで俺はまずは何をすれば良いのでしょうか……?」


「まずは軽くゲームの説明をしてほしいな。あまりスマホゲームとかやらないからよくわかってないんだよね」


なるほど……

じゃああまり難しいことは言わずにまずは簡潔に魅力を伝えちゃったほうがいいかな。

ガチでやり込むにしてものんびり楽しむにしても根本はみんな変わらないからね。


「このゲームはスター☆ドリームズ、略してスタドリと呼ばれるソーシャルゲームです。ぶっちゃけソシャゲって意味は知らなくてもゲームに影響無いのでそういう名前のゲームだと思っちゃってください」


「うん」


俺は制服のポケットからスマホを取り出しスタドリを開く。

あとはもう言葉で説明するより見せちゃったほうが早い。

授業じゃないんだから楽しさを伝えることが何よりも大切なのだ。


「あ、やっぱりこのゲームだよ。この子見覚えあるもん」


高瀬さんが指を指したのは真ん中にいる茶髪のボブが特徴のキャラクター。

運営がセンターにしがちのキャラ二人のうちの一人である。

広告での露出も多いことだろう。

ちなみに唯ちゃんは残念ながらセンターでもないし人気がめちゃくちゃあるわけでもない。

ちょっと残念だがキャラの魅力はファンの数じゃないのだ。


「この子はスタドリの三番人気ですよ。いわゆるセンターってやつです」


「センターだから見覚えがあるんだね。みんな可愛いけどなぁ……」


意外と高瀬さんは本気で興味を持っているようだ。

ゲームのホーム画面に映ったキャラ達をじっくり見て一人ひとり吟味していた。

俺のスマホを覗き込んでいるので自然と体の距離が近くなってすごくドキドキする。

こんなことを思うのは変態だと自分でもわかってるがすごく甘くていい匂いがする。


「うーん、推しキャラはまだ決められないよ……」


「それじゃあ先にゲームの進め方を説明しますよ。声とか仕草を見て好きになることもありますから」


俺はしたことないがこの世には推し変なるものが存在する。

今までの推しをやめ新たに違う推しを見つけるのを推し変というのだがそんなことがまかり通ってしまうくらい魅力的なキャラ達が多い。

そんなキャラ達の魅力は見た目ではなく話したり行動したりするところを見て真の魅力に気づくもの……らしい。


「うん。じゃあそうしてもらおうかな」


「わかりました」


俺はホーム画面をタップしてゲームにログインする。

キャラの壁紙を自由に設定できるのだが俺は当然唯ちゃんのものにしており唯ちゃんが画面に大きく映る。


「このゲームはキャラクターゲームと呼ばれるものです。戦ったりするのを楽しむのではなくキャラのランクを上げたり着せ替えたりして楽しむんです」


一応このゲームには戦闘も存在する。

それぞれのキャラにそれぞれの夢があってそれを叶えるためにダンジョンに潜っていく……

キャラごとに用意されたストーリーを開放していって楽しんだり戦いで得た素材を使って服を作ったりキャラを強化したりするのだ。

戦闘は超簡単でどのキャラでも強化さえしっかりしていれば攻略できるので戦闘が楽しくてプレイする、という人は殆どいないだろう。


「なるほど……じゃあ推しキャラがいたら楽しさが何倍にもなるってこと?」


「というか推しがいないとあんまり楽しくないかもしれないです」


「じゃあ推しキャラ選び真剣にやらなくちゃだね……」


高瀬さんは小さく拳を胸の前でぐっと握る。

可愛い。


「ではストーリーから見ていきましょうか。どれから見たいとかありますか?」


俺はストーリー項目を開きキャラの一覧を開きスマホを高瀬さんに渡す。

本当は最初から全部見せたいのだがこのストーリーはかなり長くて確実に見きれない。

というか一人選んだとしても半分くらいしかいかないだろう。


「お、多いね……どれからにしようか迷っちゃうよ……」


高瀬さんは俺のスマホをゆっくりスクロールしながら頭を悩ませる。

キャラは20人以上いるし悩むのも当然だろう。

30秒ほど悩んだ高瀬さんは顔を上げて困ったように目尻を下げる。


「決まらないよ……」


「あ、あはは……」


「そうだ、吉瀬くんの推しキャラ教えてよ。それから見るから」


「俺の推しキャラ……ですか?」


俺がオウム返しのように尋ねると高瀬さんはコクンと頷く。

俺は高瀬さんからスマホを受け取ってスクロールすると唯ちゃんのところで止めてタップする。

そしてその状態で高瀬さんにスマホを渡した。


「あ、キーホルダーに映ってた子だ。クールっぽくてかっこよさそう……名前は……石見唯ちゃんね。吉瀬くんの好きなキャラってちょっと気になるかも」


そう言って高瀬さんはストーリー再生をタップする。

高瀬さん似のキャラを探して推し始めたのにそれを本人に紹介するってどんな羞恥プレイだ、と思うけどキーホルダーも見られてるのに隠してもしょうがないので素直に教えた。


「それじゃあちょっと失礼するね」


高瀬さんはポケットから有線のイヤホンを取り出し俺のスマホに差して左耳につける。

そして真剣な、そしてどこか楽しそうな表情で唯ちゃんのストーリーを見始めた。

……こんな特等席を俺なんかがもらってもいいのだろうか。


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日間22位です!


特にスタドリのモデルにしてるゲームは無いです。

全部砂乃の想像なのでそう思っていただければ。

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