推しと始める推し活は最高すぎました

砂乃一希

第1話 俺の推しは人類の宝

突然だけど俺の推しを紹介させてほしい。


高瀬たかせ玲奈れな


天才と名高き美少女モデルで数年前に突然現れデビューから雑誌の表紙を飾り大ブレイク。

その類稀な容姿と溢れんばかりの知的なクール美人の雰囲気が人々に愛され今も人気がうなぎ登りの注目モデルである。


そんな高瀬さんはただの一般人である俺、吉瀬きちせたくみには本来手の届くはずない存在なのだが──


「あっ!おはよ〜高瀬さん!」


「おはよう、伊神さん。今日も元気だね」


なんとクラスメイトなのであるッ!

あぁ……制服姿の高瀬さんも尊い……!

しかも世間にはクールなモデルだと知られているのにクラスだと意外とフレンドリーというギャップもまた良き……

恐れ多すぎて話しかけることもできていないけどそのお姿を拝見できるだけで俺のテンションはMAXである。

俺が幸せ気分で高瀬さんを見ていると突然横から話しかけられた。


「おはよ、巧。今日も相変わらず高瀬さんを見てんだな」


「うっせ、いいだろ別に。人類の宝なんだから」


ニヤニヤしながら話しかけてきたのは亀野かめの健二けんじ

俺の幼馴染で陰キャ、オタク趣味の俺とは正反対の陽キャ&イケメンに加えサッカー部のエースで彼女持ちというリア充の塊みたいなやつだ。


「なら話しかけてこいよ〜!高瀬さんは話しかけてくる人を邪険にするような人じゃないぜ?」


「そんなことはお前に言われなくてもわかってる。俺はファンとして推しに近づきすぎてはならないと思ってるだけだよ」


「嘘つけ。ただ勇気が出ないだけのくせに」


……こういうときに察しないでほしいものなんだけどな。

そりゃあ俺だって話しかけたいと思ってるよ!

ファンとして一線引きたいなんて一ミリも思ってないどころか友達になりたいという烏滸がましい考えすら持ってる。

でも……いざあのご尊顔を目にすると緊張してしまうんだ……


「世の中上手くいかないことだらけだ……」


「急に何を語り始めてんだよ」


「はは……好きなだけディスってくれ……俺は所詮は推しに話しかけられない意気地無しなんだ……」


「だから急にどうしたんだよ!?」


俺は大きくため息をつきもう一度高瀬さんを眺めしっかり目に焼き付けたあとスマホを取り出しソシャゲのアプリを開く。

スマホから何人かの女の子の声が流れ出した。


「お前そのゲームほんと好きだよな」


「こっちにも推しがいるからな」


このゲームの名前は『スター☆ドリームズ』、略して”スタドリ”だ。

そのキャラクターである石見いしみゆいという子が推しだった。

黒髪クールギャップというまさに高瀬さんみたいなキャラクターである。


「浮気か?さっきまで高瀬さんを人類の宝とか言ってたじゃん」


「3次元の推しは高瀬さん一筋、2次元の推しは唯ちゃん一筋なんだよ。そもそも

何かを推す心に浮気なんてないし」


「ふーん、そういうものかねぇ……」


本当は高瀬さんに話しかけられないのが悲しくて似ているキャラを探したのだがそれを言うには少し恥ずかしく適当に誤魔化すことにした。

はぁ……2次元もやっぱりいいなぁ……

3次元には無い良さを2次元は持っている。

もちろん最推しは高瀬さんなんだけど。


「このゲームってどんな面白さがあるんだ?」


「基本的には好きなキャラを見たり育てたりして楽しむゲームだからね。推しキャラがいないとあまり面白くはないと思う」


「推しキャラねぇ……お前の好きなキャラはどれ?」


「石見唯ちゃん。ここに写ってるキャラだよ」


そう言って俺は唯ちゃんを指差す。

この前バイトで貯めた貴重な財産を使いガチャを回して手に入れた最高レアリティのカード。

普段の大人っぽい雰囲気とは打って変わり動物を見て年相応の幼さを残した笑顔を見せている俺のお気に入りカードだ。


「なるほど確かに可愛いけど……これ見られたらゆーが拗ねそうだなぁ……」


「あ、あはは……確かにそうかもね」


健二の言うゆーは健二の彼女のことである。

見るからに健二のことが大好きって雰囲気がにじみ出ており二人はラブラブカップルとして校内でも有名なのだ。

喧嘩しているところもほとんど見たことがない。


俺が苦笑していると朝のホームルームを始まりを知らせるチャイムが鳴る。

楽しそうに各々の時間を過ごしていたクラスメイトたちも席に戻り始める。


「さて、俺は自分の席に帰るとするかね」


「ああ、先生が怒るとは思わんけど早めに戻っておいたほうがいい」


「おう、お前はしっかりメンタル鍛えておけよ?高瀬さんに話しかけられるように応援してっから」


そう言って健二は自分の席に戻っていった。

やはり根がいい奴なのだ。

まぁ俺が実際に話しかけられるとは思えないけど……


はぁ……自分で言っててまた悲しくなってきた……

今日の授業の予習でもやるか……


◇◆◇


放課後、俺は学校に向かって歩いていた。

というのも下校中にバッグに付けていたキーホルダーを忘れているのに気づいたからである。

たかがキーホルダーくらいでと思うかも知れないが競争率の高い"スタドリ"のリアルイベントのチケットが奇跡的に当たったときに買った俺の宝物だった。


(相変わらず高瀬さんに話しかけられなかったし……キーホルダーは忘れるし……外してじっくり眺めてたのがこんな形で裏目に出るなんて……)


俺はため息をつきながら階段を登る。

そして教室に入ろうとした瞬間人影が見え、とっさに隠れてしまう。


(いやいや……別に悪いことしてるわけじゃないんだし隠れなくても……うん?)


さっきは一瞬すぎてわからなかったがその人影が座っているのは僕の席だった。

しかもその人物は──


(高瀬さん!?なんで俺なんかの席に!?)


俺が高瀬さんを見間違えるはずがない。

ということは俺の席に座ってるのは間違いなく高瀬さん。

何をしているのか気になってこっそり覗いてみると高瀬さんが俺の席に座り何かを熱心に見ていた。


(あれは……俺のキーホルダー!?)


高瀬さんが手に持っていたのは俺の限定キーホルダーだった。

だけどそんなに熱心に見ている理由がわからない。

見ていて面白い要素なんてないはずなのに。


(でもまぁ……なんでもいいか!)


推しが自分のもう一人の推しを見ている。

その事実にものすごく嬉しくなり舞い上がってしまう。

それが良くなかった。

つい動かしてしまった足が扉に当たり音を立ててしまう。


「……っ!?誰かそこにいるの……?」


(やばっ!つい音立てちまった……)


流石にこれで隠れたり逃げたりすればストーカーしてたみたいに思われる。

それは俺の社会的死亡を意味していた。

俺は観念して教室の中に入る。


「あなたは……」


「あ、あはは……キーホルダー忘れちゃって……」


広い教室に二人きり、高瀬さんも顔をうつむけちゃったしめちゃくちゃ気まずい雰囲気が俺達の間を流れる。

ど、どうしよ……推しと二人きりで初会話もできたのに嬉しいどころかめちゃくちゃ気まずいんだけど!?


「ねえ……」


「は、はいっ!」


沈黙を打破したのは高瀬さん。

推しと会話をしているという緊張と通報されたらどうしようという不安から声が思わず上ずってしまう。


ドキドキしながら次の言葉を待っていると高瀬さんは顔をうつむけたまま近づいてくる。

そして、顔を上げると頬は少し紅潮しニコッと微笑む。


「このキーホルダーって吉瀬くんのでしょ?このゲームのこと教えてほしいな。私もこれやってみたい……!」


「………………………へ?」


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