016 巡廻⑥/三人の容疑者
昼食を食べ終えて店を出た後、レオンとエリザベートはより一層距離を置くようになった。
エヴァルトは二人の様子を見て眉を顰める。やはり二人きりで話すのはまだ早かっただろうか。
二人が初めて対面した時、レオンはエリザベートを避けていた。親の仇と言わないまでも、貴族に対して良い印象を持っていない様子であった。
それに加えてエリザベートはその特異な体質から、人と深く関わりを築くのを避けてきた。
二人が主人と従者の関係になるのは遠い未来、あるいは永遠に来ないかもしれない。
エヴァルトは雑貨屋で魔術書や小物、アクセサリーを見て回っている二人が十分に視界に入る距離にあるベンチに腰かける。
懐から懐中時計を取り出し、時刻を確認した。
程なくしてエヴァルトの真後ろにあるベンチに男が腰かけた。
「合言葉は?」
エヴァルトはレオンとエリザベートに視線を向けたまま真後ろに座る男に声をかける。
「我が主人は聡明にして品行方正、そして可憐」
「その本音は?」
「うちのお嬢様はクーデレ可愛い!」
「よろしい、久しぶりですね、バンさん」
「おう旦那、久しぶり。一週間ぶりか。相変わらず変な合言葉が好きだな」
情報屋バンはエヴァルトと正反対の方を向きながら答える。
「合言葉というは使う者が普段言わなそうな言葉ほど意味が出てくるものですよ。この世には魔術によって自白を強要する輩もいますから、とその前に」
エヴァルトは【
続けて、エヴァルトはこう唱える。
「
透明な半球が僅かに色を纏い、すぐに元通り透き通った。
「これで盗聴の恐れはありません。それで調査の進捗はどうですか?」
「情報屋バン様の情報収集力なめんなよ。あの魔物騒動の日、何があったのか酒場にいる連中や近所の鍛冶屋に聞いて回ったんだが、外部から魔物が来た訳ではなく、建物の中から飛び出すように現れたらしい」
「なるほど、やはり召喚術、あるいは魔境への扉を繋いだ者がいると」
「そういうこと。んで次に街に召喚術、あるいは転移術が使用可能な魔術師をあたってみたら二十四人ヒット。うち当日のアリバイがある十五人を引いて九人」
「魔物が出たというのはどんな建物でした?」
「ただの空き家だった。ずいぶん前に空き家になってたまに物乞いが住み着いていたって噂がある」
「建物の持ち主から話を聞くのは不可能ということですか」
「そういうこった。話を戻すが容疑者九人のうち、今日の旦那たちの街の巡廻を見て、怪しい動きをしたのが三人いる。まったく、令嬢を餌にして犯人の目星をつけるとか旦那も老獪だな」
「私はただお嬢様と新人との休日を楽しんでいただけですよ」
エヴァルトは雑貨屋で各々楽しそうにしている二人を見てそう言った。
「そうかいそうかい。ところであの少年は何者だ? 旦那の孫か、隠し子か?」
「私の弟子ですよ、今はまだとても弱く脆いですが」
「うひょー最強の男についに弟子が出来たか! これは期待大だな」
「バンさん、容疑者三人の詳細を」
「へいよ。一人目はレイヴンローズ領で商会をしている『星竜海』のナンバー2のダリス・ホイベルガー。二人目は最近名を上げてる冒険者パーティ『白蛇の樹』の魔導士アッシュ・メーベルト。そして、傭兵上がりエーミール・ウーレンフート」
「ありがとうございます。短期間でよくここまで調べて下さいました」
「いいってことよ旦那。それより駄賃くれ」
エヴァルトはコインを指で弾く。コインは二人の頭上を回転しながら軌道を描いた。
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