013 巡廻③/馬車の中
翌朝、街へと向かう馬車の中で、レオンとエリザベートは向かい合うように座っていた。
屋敷を出発して数分経ったが、お互い時折視線が合うだけで、会話まで発展しない。
エリザベートは自身の艶やかな黒髪を櫛で軽くといている。
レオンは亜麻色の髪をガシガシとかく。
重い沈黙を振り払うべく、レオンは口を開きかける。
「なあ――」
「思えば貴方とこうやって面と向かって話すのは初めてね、レオン」
エリザベートはその可憐の唇を開き、にやりと小悪魔じみた笑みを浮かべる。
「そのメイド服、とっても似合っているわよ」
「嫌味かよ。だけどオレはもう一週間この服を着てんだ、今さら恥ずかしがるわけねえよ」
「あら意外。もしかして、女の子の服装が癖になっちゃった?」
「なるわけねえだろ! 調子乗んな!!」
レオンは軽く吠える。その姿はまるで野良犬が不審者に吠えるようだった。
エリザベートは軽く肩をすくめる。
「私、貴方に何かしたかしら? どうして私を嫌っているの」
「別にお前を嫌ってるわけじゃねえよ、オレは貴族が嫌いなんだよ」
エリザベートは椅子に肘をつき、細面を片手で支える。そして脚を組み替えた。
「だったらその大嫌いな貴族に仕えて、その可愛いメイド服を着ている理由はどうして?」
エリザベートは真紅の瞳を僅かに細めてレオンを見つめた。
「本当にイライラさせるな、お前」
「お前じゃなくて貴女。そして私を呼ぶときはお嬢様、もしくはエリザベート様と敬称で呼びなさい」
「へっ、ただ貴族に生まれたってだけでそんなに偉いのかよ。なんの苦労もせず、ぬるま湯に浸かって生きてきた頭お花畑お嬢様がよ」
「そんな頭お花畑お嬢様の屋敷に住まわせてもらって、食事と寝床も与えられている貴方は何なのかしら、花の蜜を吸う働き蜂さん?」
「オレは一週間前、魔物に襲われているところを偶然爺さんに助けられて、爺さんみたいに強くなりたいと思ったから弟子入りしただけだ。お前のために働きたいと思ったことはねえよ」
ああ言えばこう言う、口喧嘩はそこで一旦止まった。
少しの間を置き、エリザベートは再び口を開く。
「一週間前、エヴァルトは貴方を助けた。そこは彼の性格だから分かる。だけど、貴方のような子どもを後継者に選んだ理由が私には分からないわ。比較的小柄で体格に恵まれてなくて、口調は乱暴で、礼儀作法もまるでなってない。正直言って、エヴァルトの目が悪くなったんだと思ったわ」
「おい、子ども扱いするんじゃねえよ。お前だって、オレとそんなに歳変わらないだろ。それに爺さんの悪口を言ってんじゃねえよ、あの人はオレの命の恩人なんだからな!」
「別にエヴァルトの悪口は言ってないわ。貴方のことを悪く言っただけ」
「〜〜〜〜っ!!」
レオンはエリザベートのことをさらに嫌いになった。
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