第12.5話 【病室の一幕】

 総合病院の個室の一室、506号室

 表札には”音無 空 様”と書いてある

 室内には兄弟と母親がおり、機械とテレビから流れる子供番組の音が寂しそうに響いている

 ベッドに横たわり、心電図と呼吸器を着けた兄が弱々しく母親に語り掛ける


「…母さん、俺は後どれくらい生きられるのかな。死ぬのが怖いよ」


 もうすぐ自分は死ぬ、身体を思いのまま動かすことが段々と出来ず、日々を過ごす中で自分の死期がもうすぐなことを悟っていた

 そしてそれは母親もわかっていた

 家事や仕事で毎日が忙しいにも関わらずこうして時間を見つけては病院に足を運んでくれている

 その頻度や面会時間も日に日に増えている


「そう言う話はよしなさい。死ぬことなんて考えてはダメ」


 病院内の為、声は小さいものの悪戯をした子供を叱るように注意する

(…母さん)

 しかし、母親の言葉に語気は無く、目元には涙をうっすらと浮かべている

 化粧で誤魔化しているが目は充血し、目元も赤くなっている

(心配…してくれてんのかな…)

 自分の最愛の息子の状態に心配しない母親なんていない

 そんな息子が”死”に直面しているなんてことになっていたら猶更だ

 母親は優しく言葉を続ける


「それに空が弱音を吐いてたら天音が悲しむわよ」

「…兄…ちゃん…」


 母親の言葉に寝言のように反応するのは椅子に座り兄を枕のようにして疲れ寝てしまった弟の天音

 友達からの誘いを断って母親と共に来ては学校の出来事や俺が退院したらやりたいことを話してくれる

 兄を心配させまいと元気に話す健気な弟


「…天音」


 起こさないようにゆっくりと腕を動かし頭を撫でる

 大切に、感謝の気持ちを込め丁寧に

(…そうだ、俺はまだ死ねない。母さんに恩返しもしてないし、弟といっぱい遊ぶんだ!)

 昔やっていたテレビ番組を思い出していた

 余命宣告から気力で乗り越え、元気に生きている人の特集だ

 運命は変えられる、乗り越えることが出来る

 窓から入る風がカーテンを靡かせ、隙間から見えるのは満月の月

 自分の心臓を抑え、天へと願う


「元気になりますように…」


 神へのささやかな祈り

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