第11話 【私と子供の願い】Ⅲ

「はぁ…」


 私は子供の切なる願いに小さく息を吐きだし答える


「神は暇つぶしに私達に試練を与えるの。卑劣で、無差別で、残酷なモノ…そう、あなたのお兄さんみたいにね」


 人が望んでいようが、いないが関係なしに

 世界は残酷に人を選ばない


「あなたの気持ちはよくわかる。もう神に縋るしかないものね」


 存在していようが、いないが関係なしに

 何かに縋る

 ”助けて”とその何かに首を垂れる


「だけどもう一つ、あなたには出来ることがある」

「…え?」


 でもね、そんなことよりも大切なことがある


「奇跡を信じる《おこす》こと」


 願いとは奇跡であり、それは願うだけではダメ

 信じ、起こすことが必要である

 他人任せにするな、自分の手でつかみ取れ

 私は子供の頭に手を乗せ、優しく撫でる


「あなたの強い願いはきっと奇跡を起こす。だからきっといつか報われるわ」


 報われる…そう、報われるだろう…例え、どんな形だろうと


「信じていれば兄ちゃんは治るの…?」

「ええ、きっと治るわ。だからもう泣かないの」


 今、私はこの子の目にどう映っているのだろう


「…うん!…約束!」


 私の言葉に喜んでいるのか、先ほどとは違った涙を見せる


「あのね、うちの兄ちゃん…」


 安堵したのか自分の兄について語ってくる

 そんなに嬉しかったのか。まだ”助かる”と決まった訳じゃないのに

 私はこの子に”治る”と断言してよかったのか

 泣いているこの子に同情したのか?

 いや、違う。私は”そんなこと”これぽっちも思っていない

 では、落ち着かせる為の出任せだったのか?

 それも違う

 私は事実をただ伝えただけだ

 この子供は願ったのだ、”病気が治りますように”と

 巫女の宿命を背負う私はその願いを叶える

 病気は治る…だけど運命は変わらない

 その運命が何を指し示すのか

 願わくば、その運命が彼らにとって喜べる未来になることを私は信じたい

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