第8話 【私と日曜大工】Ⅱ
「あ、うん!もう大丈夫!」
自信に満ちた彼の言葉
それは自分の役目を全うし、成し遂げた者への賞賛を期待するかのようだった
しかし目の前のそれは言葉と反したモノだった
「⋯何これ」
ナニコレ…そう反応するしかない程のモノがそこにはあった
側面と口には長板をただ貼り付けだけ
誰が見ても評価は”がんばりましょう”だ
なんなら家族の誰かが寝ている間に直してしまう程だ
正にゴミ、資源の無駄使い
側面はまだしも、賽銭口に至っては板が邪魔をして半分以上が塞がってしまっている
直ってもいなければ賽銭箱としての役目も果たせない
「結構上手くいったでしょ?材料も余らなかったし、ゴミも出てないし!」
「⋯適当すぎるでしょ」
神への恩恵を願う場所にただのゴミな箱
そんなのはただの冒涜だ
神への恩恵を願う?馬鹿なの?
この男は一度神に怒られろ
「じゃぁ、僕は工具を片付けて帰るね」
「⋯」
私は絶句した
この男に直させたことに
やはりこの男ホントどうしようもない
「あっ、それから紅葉ちゃん」
「何よ⋯」
この産業廃棄物をどうしようか
この男が帰った後に結局私がやらないといけないのか
そんな私の感情とは関係なく彼は言う
とてもたった今このゴミを生み出したと思えない笑顔と優しい言葉で
「どんなことがあっても僕は紅葉ちゃんの味方だからね」
背を向け彼に顔を見られないように声色を気にして
「…はいはい、早く帰りなさい」
ぶっきらぼうに言い放つ
そんな私の言葉に「ひどいなぁ」と特に気にしないように言葉を返す神谷君
見られる訳にはいかない
悟られるわけにはいかない
この男には気づかれてはいけない
そんな私の強がり
一歩、また一歩と彼の足跡が離れていく
遠ざかっていく彼、この距離なら私の小声は届かない
私は少しばかりの感情を乗せ、聞こえないように彼に対して素直な気持ちを声に出す
「まぁ、ありがと⋯」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます