第7話 【私と日曜大工】Ⅰ

 壊れた賽銭箱を背に顔を伏せ一人座り込む

 孤独感が私を蝕む

 慣れたと思っていたこの感覚⋯


「ふぅー、ダメね⋯」


 自分の弱さに苛まれる

 いつか救われる時は来るのだろうか

 その時、私は心から喜ぶことが出来るのだろうか

 そんな有り得ない未来に夢を見る

 感傷的になっていると、階段を登ってくる足跡が耳に届く

 そして階段を登切り、私を見つけたその人物は


「ただいまー」


 右腕に木の板を数枚抱え、手にはコンビニ袋を持った神谷君が額に汗を滲ませ、笑顔でゆっくりとこちらに近付いてくる


「紅葉ちゃん、これ」


 そう言って当たり付のバニラバーアイスとお釣を渡してくる

 その彼の笑顔に私の心はザワつくが振り払うように受け取る

 落とさないように握り熱を帯びた小銭と対照的に冷えたアイスを

 牛乳のほのかな香り、口の中で溶けて広がる甘み、余韻が少なく後味に嫌味を残さない

 冷た過ぎず、程よく私の熱を冷ましてくれる

 アイスを堪能している私の隣ではトンカチを叩く神谷君がいる

 "トントン"とリズミ良く、しかし時々音を外す、楽器の演奏ならば完全に不快なそんな音が私の耳を劈く

 彼は文句も言わずに賽銭箱を直す

 まぁ、当然と言えば当然

 彼の面倒事の結果なのだから

 そんな中、これまで息を吐くくらいしか動かなかった彼の口が開く


「ねぇ、紅葉ちゃん」

「んー?」


 聞いても良いのかどうかを悩みつつも気になっていたことを意を決して聞いてくる

手を動かし続ける事で平常心を保ち、悟られないように


「さっきおじさんが言ってた巫女の宿命ってなんの事?」


 やっぱりそのことか⋯


「それ聞いちゃう?胸の大きさを尋ねるくらいデリカシーないわよ」

「そんなに!?」


 この男は⋯ホントどうしようもない


「いや、ほら何か悩んでるみたいだったからさ力になれないかなって」


 ⋯この男は何を言ってる

 力になる?何も持っていない、喧嘩すら勝てないこの男が?

 木々が風で葉を揺らす、その瞬間私の心もザワついた

 (少しからかってみようかしら)

 私は日曜大工をしてる彼の背に移動し問いかける


「あなたは人の願いが見えるとしたらどうする?」

「紅葉ちゃんには見えるの?」


 彼は手を止めずに聞き返して来た

 言葉からは信用していない、変な事言ってると頭の心配をするようにではなく、純粋に疑問を述べているようだった


「そうね⋯」


 私は立ち上がり言葉を続ける


「人の願いを形にしたモノ、それを私が退治すれば願った人の願いは叶う。退治の経験を積ませることで私の巫女としての力を成長させる。そうすることでより強い人の願いを叶える。それが巫女の宿命」


 神谷君は話終えた私に複雑な感情を持っているようだった


「⋯なんてね」


 からかうつもりだったけど少し熱が入ってしまった

 私の理解されない感情、彼に少しでも救われたいって思ってるか。でもこの感情は伝わることはない

 (馬鹿馬鹿しい…)

 この男の優しさに自分の感情が動いたとでも言うのかな


「で、賽銭箱は直ったの?」


 この話はここまでにしないと

 私の深淵が顔を出す

 この深淵を彼に見せるつもりはないのだから

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